Short story


非科学的可能性 - れいかず


研究に行き詰まり、息抜きにと、このカフェを見つけて入ったのは、つい先日のこと。行き詰まったといえど、大きな問題ではなく、余程僕も疲れていたのだろうか、カフェで少し休めば、些細な間違いに気づき、解決策が見つかった。

験担ぎなどという、非科学的なものを信じたくはないが、ここに来れば何事も上手くいくように感じる。あの日初めて訪れ目にした、彼女の笑顔を見ると、自然と心が休まる気がした。そう思うと、毎日足を運んでしまう。

「ご注文はお決まりですか?」

少し緊張した彼女の声。僕はここ数日頼んでいる、代わり映えのない注文をすると、持参していた本へと目を移した。

テーブルに運ばれた紅茶を飲みながら、本を読み進めて、どれくらいの、時間が経っただろうか。店内はすっかり、僕と彼女の二人だけになっていた。カウンターの方から感じる視線に、居心地の悪さを感じ、そちらを見ると、視線の主である彼女と目が合った。
真っ赤な顔の彼女が駆けて「お茶のおかわりよかったら」と、たどたどしく話をするので、僕は笑顔でお願いすることにした。お茶やお菓子の感想を述べたかったが、なぜか言葉に詰まる。

「すぐお持ちしますね」

彼女の笑顔に、胸の高鳴りを感じながら、軽く会釈をすると、僕はまた本を読み始める。

彼女は、なぜ本を読む僕を、じっと見ていたのだろう。なぜ僕の前だけ、そう緊張することが、あるのだろうか。いくつかの疑問が浮かび、彼女の笑顔が脳裏に焼き付いていた。本の世界に集中できなくなった僕は、諦めて心に浮かんだ、いくつかの疑問と向き合い始める。

恋なんてものに、僕が惑わされるはずがない。


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