fourteen



 私の買い物を終えて、北くんの用事を済ませ終えても夏の太陽はまだ姿を消す様子はなかった。夕方とは言え気温は高いまま、なかなか外を歩き出す気にもなれなくて、結局気になっていたカフェに入ることになった。広々としたカフェの店内は女性客が多くて何組が男女の組み合わせも目に入ったけれど、うーんこの中で北くんが1番かっこいい気がする。と考えてしまった私は最低だも思うし自分でも意外だった。やっぱり暑さにやられているのかもしれない。うんうん。そうに違いない。

「1人やったら絶対に入らんタイプの店やな」
「だよね。ごめんね、ちょっと可愛らしすぎたよね」
「謝らんでええよ。こういうのもあるんやなっておもろいし、名字さんとやなかったら経験出来んから貴重やわ」

 無駄にそわそわする様子もなく、そう言ってくれる北くんは器が大きいのか懐が深いのか。店内には可愛いという形容詞が似合う小物がたくさん置かれているし、フォトジェニックを狙ったスイーツを食べているお客さんもちらほら目につく。

「やけど意外やったわ。名字さんもこういうカフェに興味あるねんな」
「友達が見た目も味も良くてテンションあがったよって教えてくれてね。まあ、私も所詮はフツーの女子高生なのでやっぱり気になっちゃうんだよね、こういうの」

 兄のお店はどちからと言うとこのタイプのカフェとは真逆の、いわゆるアンティークの雰囲気を醸した増すようなお店だから、好きな人にはがっつりと刺さるのだろうけど、一般的な若い女子高生がこぞっていくような場所ではないのだ。だからこそ、贔屓に足を運んでくれる北くんはお店の常連さんの中でも比較的珍しく若い学生のくくりに入っていた。

「やけど、まあ、なんちゅーか⋯⋯落ち着かんなあ」
「えっごめんね。全然そんな風には見えないけど」
「そら慌てとったらかっこ悪いやん」
「確かに北くんが慌ててる様子って想像できないかも」
「去年のクリスマスに忘れもんしよった時は慌てとったで」
「え、あのとき?」
「おん。せっかく買ったちゅーのに何やっとるん自分ってな」
「そんなこと思ってたんだ。あのとき」
「せやで」

 な、かっこ悪いやろ。って言う北くんの背景はパステルカラーで彩られていてかっこ悪いなんて全然思わないし、むしろ今結構可愛い感じになっちゃってるよ。と私は思った。
 タイミングを見計らうように運ばれてきた私のパンケーキも北くんが頼んだドリンクも、もう本当に笑っちゃうくらいにフォトジェニックを狙ってきていて、まあ、私も例に漏れず、携帯のカメラを起動した。呆れられてないと良いんだけど。

「写真ごめんね。さ、食べようか」
「ええんやけど、撮らんでええの?」
「うん。十分撮ったもん。受験生が何してるんだって話だけどハッシュタグに受験勉強の息抜きって書いたら大丈夫な気がする」
「そこらへんはよう知らんけど、名字さんの写真撮らんでええの?」
「私?」
「おん。楽しそうやん」

 楽しそう。そう言った北くんの台詞に、やっぱり浮かれてしまったかなと少し恥ずかしくなる。

「こういうの久しぶりで、つい⋯⋯」
「撮ったろか?」
「んー、じゃあ記念だし、1枚⋯⋯あ、せっかくなら一緒に撮ろう?」
「えっ」
「⋯⋯えっあっごめん! 図々しいね」
「いや、ええんやけど⋯⋯」

 あ、しまった。これじゃあ本当に付き合いたてのカップルみたいじゃん。それでも断られなかったことにほっとした私は少し迷って、でも自分の言葉通りせっかくだからとカメラアプリを起動したままの携帯を自分達に向けた。

「と、とります」

 画面越しに見える北くんの表情は薄い。私はどうだろう。少しでも可愛く写っているだろうか。顔が丸くなってたり、肌が荒れていなかったりしないだろうか。少しでも可愛く映りますようにと願いながらシャッターボタンを押した。
 私と北くんと、可愛らしい背景にフォトジェニックなメニュー。合成したんじゃないかってくらいにどれもこれもミスマッチで私は笑ってしまいそうになった。

「これ、なんだか面白いね。こういうカフェと北くんとがどうしてもマッチしないから、変な感じ。でもこれみてたら元気でそう。あ、ごめんね、その、良い意味でって言うか」
「いや、自分でもそう思うわ。名字さん隣に居らんかったらほんまどうしたんって感じやわ」
「ね。あ、後で写真送る」

 そういうわけで突然手に入れてしまった北くんとのツーショット写真に、私はやはり浮かれていた。その証拠に家に帰ってから勉強をしようと思ってもついつい写真を見返しちゃうし、その時のことを思い出しちゃうし。参考書の問題が普段に比べて全然進まない。

『今日はほんまにありがとう。名字さんおったおかげで悩まんで買えたわ。カフェも楽しかったし写真もほんま笑ってしまうわ。また、学校でな。おやすみ』

 そんなときに北くんから連絡がくるものだから私はますます勉強が手につかなくなってしまう。北くんも今、同じ写真を見返してくれていると嬉しいんだけど。それは私の知る恋の症状にとてもよく似ているような気がした。

(18.08.18)
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