twentysix



 北くんはそれからすぐに約束を果たしてくれた。
 週末の土曜日、部活が終わった後でもいいならと言ってくれた北くんの申し出に私は二つ返事で答えた。私だって曲がりなりにも受験生だ。土曜日だって日曜日だって勉強のために学校に来てるから何の問題もない。
 夕方頃に部活が終わるという話は先に聞いていたから、その時間帯になると少しそわそわしてしまってあまり勉強には集中出来なかった。携帯に北くんからの連絡がきたのを確認すると、私は勉強道具を片付けてすぐに体育館のほうへ向かう。途中の廊下で見つけた北くんに、私は大きく手を振った。

「北くん、おつかれさま!」
「すまん。急かしてしもた?」
「ううん。私が急いだだけ。部活終わりなのに今日ありがとね。しっかり学んで球技大会に活かすから!」

 北くん自身だってバレーの大会があるし、本当はこんなことやっている余裕はないのかもしれないのに一切そんな素振りはみせない。

「体育館、残ってる奴等で使うとるから体育館裏んとこでもええ?」
「どこでも大丈夫!」
「制服やけど着替えは?」
「一応スカートの中にジャージ着てきた」
「⋯⋯なら、まあ、ええか。激しく動くわけでもないしな」
「多分、そこまで運動神経悪い訳じゃないから大丈夫だと思う」

 渡り廊下を並んで歩く。北くんとは学校の外で会って話すことのほうが多いからこんなことさえも新鮮に感じる。もし同じクラスだったらもっといろんな北くんを知れたのだろうか。もっとたくさん、話せることもあったのだろうか。

「北くんは? 球技大会、何に出るの?」
「サッカーや」
「絶対応援行く」

 即答した私に北くんは少し笑って「せやったら頑張らなあかんなあ」と少し間延びするように言った。
 部活でたくさん動いた後のはずなのに北くんからはそんな雰囲気感じられなくて、そのことを証明するのは北くんが着ている部活ジャージだけだ。少し前に私が借りたそれを今は持ち主の北くんが羽織っていて、あの瞬間の言葉にできない感情を今思い出してしまう。
 そう言えば良い匂いがしたな、と絶対に言葉に出来ない感想が浮かんで私は慌てて下心を打ち消した。


◇   ◆   ◇


 体育館の裏へ行く前に一度荷物を取りに行くと言った北くんを扉の前で待つ。中から小さく音が漏れてくるのを聞きながら居ると、突然扉が勢い良く開かれた。北くんかな? とそちらに顔を向けると、宮くんがそこに立っていた。あ、いや、違う。すごく似ているけど、保健室であった宮くんではない。そうなると双子のもう一人のほうだ。名前はなんだっけ。全然思い出せないや。
 向こうも私がいることに驚いたのか、聞こえるか聞こえないか程の小さな声で「えっ」とこぼしたので、不審者に思われてはいけないと声をかけた。

「すいません、北くんを待ってて」
「⋯⋯いえ」

 体格がしっかりしてるし、背も大きいから口数が少なくても近くにいるそれだけで迫力があるな。やっぱり一卵性だから宮侑くんと凄く似ていると考えているとも当の本人が後ろからやってきて、背後からひょっこりと顔を出した。

「なにしてんねん、入り口でつっ立って⋯⋯あっ! えーっと、あー確か⋯⋯名字センパイ?」
「正解」
「ツム、知り合いなん?」
「知り合いっちゅーか、この人は北さんの好きな、あっいや、北さんのことが好きな⋯⋯」
「北くんの友達です」

 北くんなことが好きな人、なんて言わせない。それはさすがに恥ずかしいと遮るように言えば、先程と同じように今度は北くんが2人の背後から顔を覗かせた。

「何してるん? ああ、すまん。俺が待っとって言うてたんや」

 それぞれの顔を見渡して素早く状況を把握したのか、北くんはそう言って私の隣に立った。先程は持っていなかったバレーボールが小脇に抱えられている。

「少し抜けるけど、何かあったら裏におるから言うてや」
「ごめんなさい、少しだけ北くんをお借りします」

 端的に言った北くんに、宮くんたちは頷くだけだった。「行こか」と促す北くんの後を続く。

「今からめっちゃ驚くこと言うで」
「なんやねんフリにしては雑過ぎるやろ」
「北さんな、あの人のこと好きやねん。そんであの人もな、北さんのこと好きやねん」
「⋯⋯ほんまか」
「ほんまや」
「めっちゃ驚くやん」
「言うたやん」

 背中を見送られたこともそんな会話がされていたことも私は知らないまま、日が落ちる手前まで北くんにバレーを教わっていた。

(20.04.15)
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