休日の日中、出先で出会ったのは互いによく知る人物だった。行き交う人の中で互いを認識すると進んでいた足も止まる。他の通行人の邪魔になったかもしれないと気がつくのはずっと後だった。だって私も治さんも、そして侑さんも驚きが思考を支配していた。

「げ」

 そんな中で2つの声が見事に綺麗に重なったのを聞いて、私は「さすが双子だ……すごい」と心の中で感嘆する。二人の声色は決して歓迎的なものではなかった。

「治、お前なんでここにおるねん」
「それはこっちのセリフや。見てわからん? デートやデート」

 そう言って治さんは私の肩を抱き寄せた。少し強引に引き寄せられ、私は治さんを見上げることも出来なくて侑さんの顔を見つめるしかない。眉間に皺が寄って、心底不快であるということが伺える。目は口ほどに物を言うと言うけれど今の侑さんはまさにそれだ。

「まあええわ。俺は予定があるから行くわ。長話はせん」
「せやな。こっちも予定がつまっとるからな」
「名前ちゃんもまたな」
「あっはい。また!」

 声色を柔らかくして侑さんが私に声をかける。蚊帳の外だと気を抜いていたタイミングで声をかけられて気の利いた返事すら出来なかったけれど、侑さんは私にゆるく手を振って人混みに消えるように去っていった。

「世界は狭いな……」
「凄い偶然でしたね」

 双子のシンクロニシティがあるとかないとか、そんなことをぼんやりと聞いたことがある気もするけれどどうなんだろう。この前見させてもらった2人の高校時代のバレーの試合では驚くほど息が合ってたけど。
 そんなことを思いながら歩けば今日の目的の1つに辿り着く。常連さんから聞いた、最近オープンしたパスタがとにかく美味しいというイタリアン料理店。お店の外にも数人が並んでおり、最後尾に行く。

「すぐ入れるといいですね」
「せやな」
「並ぶとますますお腹がすく気がします!」
「わかるわ。いっぱい食べよな」
「はい! 食べましょう!」

 そんな会話をしたは良いものの、数分後、私達の後ろに並ぶ人がやってきて、その人物に私はやっぱりシンクロニシティはあるんじゃないかと思ってしまった。

「なんっでおるねん!」
「こっちのセリフや」

 て言うかデジャブでは? そう思いながら2人を見つめる。

「俺らは前々から今日来ること決めてたんや」
「俺かて今日くること決めてわ」
「デートに被せてくるんはさすがにやめてや。きしょいで」
「偶然に被るもなんもないやろ」

 お店の回転率は良くて、治さんと侑さんがやり取りをしている間に次は私達の番というところまできた。満員の店内。店の中から出てきた店員さんが4人掛け席での相席はどうだろうかという相談を持ちかける。

「2対1なんやから侑が譲れや。こっちはデートやでデート」
「いつから多数決になったんや」
「今や」
「今!?」
「そらそうやろ」
「ええやん。すぐ入れるなら相席しようや」
「却下や」
「なんなん、ハッもしかして名前ちゃんも治の味方なん……?」
「み、味方!? いや別に……」
「そら彼女やねんから名前はこっち側や」
「私は相席で大丈夫ですよ」
「な、なんでなん? 相席やったらあーんとか出来ひんやん……口の端についたご飯とって食べるとか出来ひんやん……」
「どっちも1回もやったことないですよね?」

 治さんは侑の前だと意外と子供っぽくなるのを私は知っている。もうここまできたら別々の席に座っていても互いを意識するんだろうなとも思うし。そもそも治さんは本気で侑さんとの相席を嫌がっているわけではない気がする。

「はぁ〜、名前ちゃんは優しい子やね〜。それに比べて治はなんでこんなに冷たなったんや」
「冷たない。普通や普通」

 うん。やっぱりこれはこのままだと埒が明かないと判断した私は店員さんに了承の旨を伝えて、3人まとめて店内に案内してもらう。入店した瞬間に目に入るのは食事を楽しんでる人の顔やテーブルに並べられた料理。

「やっぱり私は相席でよかったと思います」

 椅子に座ってそう言えば2人の視線が向けられる。

「私、治さんのお店で常連の皆さんと一緒に食べるの凄く好きなんです。だから、こうやって偶然でも侑さんと治さんと3人で食べられるの楽しいなって」

 隣に座る治さんが、先程と同じようにして私の肩を抱いた。

「俺の彼女、かわええやろ」

 得意気に言う声は店内の喧騒に消えていく。「せやな」と答えた侑さんはコップの水を飲み干すのを見て、私はクスクスと笑うだけだった。

(20.12.28 / 60万打企画リクエスト)

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