「ソフトクリーム」
私の小さい一言に、早川くんは振り返った。表情のない顔でこちらを見ている。
「買って」
「好きなんですか」
「別に」
「じゃあダメです」
「なんでよ、天使くんには買ってるじゃない」
駄々をこねればため息をつかれる。でも、彼は素直にアイスクリームを買いに行った。手渡されたのは、水色のそれ。
「この味は夏限定なんだよ」
だから食べたかったの、そう言っても興味なさげに「そうですか」と返される。
「冬にも限定の味があるんだよ」
夏はラムネ味で、冬は生チョコレート味らしい。期間限定だから、当然、その時にしか食べられない。その時を逃せば、もう――
「私、来年もこの味を食べたいな」
「食べればいいじゃないですか」
「また買ってくれる?」
彼は私の顔を見て、黙った。残暑が厳しいけれど、夏はもう終わる。アイスが、溶けそう。
「……いいですよ」
表情を変えずに言った早川くんが、私に背を向ける。無理って言わないの、なんて。
彼が言わないのに、私が言えるわけなかった。
書類を棚へ戻すため腰を上げる。ふわり、少し開いた窓から何かが舞い降りた。
「桜?」
「うん。近くにないのにね」
近侍がこちらを向く。花びらをつまんでみせた。
「お花見したいな」
「行く?桜の名所とか」
「無理。今は忙しくて出かけられない」
机の上に飾る。一枚だけのそれでは、花見にはなるまい。
「……別に"今"、"花見"じゃなくてもいいんだけど」
「どういうこと?」
聞き返した先、彼は答えない。はぐらかされたものはきっともう教えてくれないのだろう、そう思ったが。
「いつだっていいんだよ。桜でも紅葉でも、それ以外でも何だって」
今行かなければ桜は散るし、秋まで待たねば紅葉は見れない。
ふわり。もう一枚花びらが舞い込む。
「一緒に行けるなら、なんだっていいの」
今度は彼が花びらをつまんだ。
きみの夢をみた
白いワンピース姿は最後にみた時よりも幼くみえた
きみは軽い足取りでスカートを翻し、ちょっとした段差を飛び降りる
まぶしくってよくみることのできない笑顔
お気に入りだと言っていたのを思い出した
ああ、今年も、盆がきた
「美人なんですか?」
反応が遅れたからだろうか、彼女ですよ、と付け足される
「いや? ふつうかな」
その返答が意外だったのか、「ええー」と声をあげられた
「そんな風に言っちゃいます?美人って言うもんじゃないですか、こういうときは」
「そうか?」
「そうですよ」
もう、っと少し頬を膨らませられたら、こちらが引き下がるしかない
自分のことを言われたわけでもないのに、何をむくれているのか
「ああ、いや、でも……」
――おれが隣に立つと、ものすごく美人だ
「……惚気?」
「笑顔がかわいいって意味だ」
あとがき
「死んだら人はどうなるの?」
あどけない顔の審神者がこちらを振り向いて言う
「さあ、おれにもわからんなぁ」
「神様にもわからない?」
疑うような目をする彼女に、白い白い腕を伸ばした
「神様も万能じゃないのさ」
まだ不思議そうな顔をする人の子を、真っ白い神様は控えめに笑って見つめる
伸ばした腕は、審神者に触れることなく下ろされた
万能なんかにゃほど遠い 今だって、ほら、