▽「いきて、」▽
「生きていれば、わたしたちが、
みなの心を繋ぐことが出来るでしょう。みなの命を伝えることが出来るでしょう」
海に沈んだ砂の都の王子様とお姫様。
ふたりは生きる、数多の命のひかりと共に、愛するの命の温もりとともに。
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「生きていれば、わたしたちが、
みなの心を繋ぐことが出来るでしょう。みなの命を伝えることが出来るでしょう」
海に沈んだ砂の都の王子様とお姫様。
ふたりは生きる、数多の命のひかりと共に、愛するの命の温もりとともに。
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▽「きおく」▽
月影をえがくあの光の向こう側には消えた過去の欠片たちが散らばっていて、行けば思い出せるんじゃないか、かつての俺が戻ってくるんじゃないか、そんな事を強く思う。
でも、そこに記憶を取りに行こうだなんて勇気は、俺には無いんだ。
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月影をえがくあの光の向こう側には消えた過去の欠片たちが散らばっていて、行けば思い出せるんじゃないか、かつての俺が戻ってくるんじゃないか、そんな事を強く思う。
でも、そこに記憶を取りに行こうだなんて勇気は、俺には無いんだ。
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▽いたみ▽
「何処にいたんだ」「何をしていた」「誰といた」
そう言うかみきさんの瞳は、鋭く冷たい刃のよう。それに幾度も当てられてきたけれど、傷みの数だけ、俺は彼を大事にしたいと思うのだ。
「大丈夫、居なくなったりしませんよ」
刃を持つ彼の心こそ、痛いはずだから。
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「何処にいたんだ」「何をしていた」「誰といた」
そう言うかみきさんの瞳は、鋭く冷たい刃のよう。それに幾度も当てられてきたけれど、傷みの数だけ、俺は彼を大事にしたいと思うのだ。
「大丈夫、居なくなったりしませんよ」
刃を持つ彼の心こそ、痛いはずだから。
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▽「……、」▽
「ねえ、かんな、…」
伝えたい言葉はただひとつ。
何の飾りも必要ない、ありのままで美しいものなのに、どうして、喉の奥で溶かしてしまって色んな気持ちで濁らせて、形を変えてしまうのか。
「夢ならば、良かった事って、あるわよね」
美しいものは泡沫のように「あい」へ沈む。
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「ねえ、かんな、…」
伝えたい言葉はただひとつ。
何の飾りも必要ない、ありのままで美しいものなのに、どうして、喉の奥で溶かしてしまって色んな気持ちで濁らせて、形を変えてしまうのか。
「夢ならば、良かった事って、あるわよね」
美しいものは泡沫のように「あい」へ沈む。
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▽「あい」とは、▽
「ぽぽさま、あいしてるってどういう気持ちですか?」
すみれが問うと、ぽぽさまはお首をかしげました。すみれは、あいという気持ちがふしぎだったのです。
ちょっとして、ぽぽさまはほほえみ、すみれをだいて言いました。
「胸の中が温かくなる気持ちを、そういうのですよ」
「あのぅ」
「?」
すみれは、おたずねしました。いつもひとりぽっちのあの人に。
「さみしくは、ないですか?」
あの人は、静かにこたえてくれました。
「さみしいわ。でもね、そのさみしさも、しあわせなのよ」
そのお顔は、まるで、あの時のぽぽさまのようでした。
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「ぽぽさま、あいしてるってどういう気持ちですか?」
すみれが問うと、ぽぽさまはお首をかしげました。すみれは、あいという気持ちがふしぎだったのです。
ちょっとして、ぽぽさまはほほえみ、すみれをだいて言いました。
「胸の中が温かくなる気持ちを、そういうのですよ」
「あのぅ」
「?」
すみれは、おたずねしました。いつもひとりぽっちのあの人に。
「さみしくは、ないですか?」
あの人は、静かにこたえてくれました。
「さみしいわ。でもね、そのさみしさも、しあわせなのよ」
そのお顔は、まるで、あの時のぽぽさまのようでした。
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▽『お艦に恋したクジラの話』A▽
島から少し離れた所に、大きなお船がありました。竜骨を顕にして横たわるお船の命は残っておりません。
近寄るものも少ないその地に、彼女はひとり暮らしています。形だけのお船の傍で、同じ躰に成り果てながら、寄り添うように暮らしています。
「みんなと一緒に暮らそうよ」
「いいえ、それはできません。
彼と共に在る事は、私の決意の果ての意思であり、罰でもあるのだから」
そう答える彼女の、細く掠れた声は熱を孕み、瞳を失くした二つの穴は夜空のように輝いていました。
寂しそうで力強い姿を、わたしはいつも見つめるばかりです。
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島から少し離れた所に、大きなお船がありました。竜骨を顕にして横たわるお船の命は残っておりません。
近寄るものも少ないその地に、彼女はひとり暮らしています。形だけのお船の傍で、同じ躰に成り果てながら、寄り添うように暮らしています。
「みんなと一緒に暮らそうよ」
「いいえ、それはできません。
彼と共に在る事は、私の決意の果ての意思であり、罰でもあるのだから」
そう答える彼女の、細く掠れた声は熱を孕み、瞳を失くした二つの穴は夜空のように輝いていました。
寂しそうで力強い姿を、わたしはいつも見つめるばかりです。
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