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【Age3▶4】瞬間、始まる私の人生


──“そう”だと気づいたのは、一体どの瞬間だったのだろうか?


目の前にお菓子を持ってきていた給仕係の首が、スパンと飛んだ時?

その首から噴き出す血が、私の顔にビシャリとかかった時?

その背後から、剣を振り回して脅す男が数人現れた時?

やってきたママが、そいつらから魂を抜き取るなんていう摩訶不思議なことを行っているのを見た時?

恐ろしくて逃げ出して、訳も分からぬ間に海へ飛び込んで溺れかけてしまった時?



…………一つだけ、一つだけ確かなことは

「ぷはぁ! だいじょうぶかシラタマ!! どこもケガしてないか?」

大慌てで追いかけて、泳いで助けてくれた兄の腕が、己よりずっと幼いはずなのにとても頼もしかったということだけだ。

「ペロシュに……こ"め"ん"な"さ"い"ぃぃぃぃい!!」


* * *


 いきなりで申し訳ないが少々【私】について語らせて欲しい。別に目立ちたがり屋という訳では無いのでどうかお気を悪くしないでくれ。

 【私】はとある世界のとある島国のとある地方の何も特別ではない普通の女子高生。兄と姉が2人ずつ。優しくて頼れる長兄、穏やかで少し天然な長姉、少し乱暴だけど仲の良い次兄、趣味が同じで気が合う次姉を持つ末っ子。成績は上の中ととても優秀な……ごめんなさい盛りました、でも平均よりは上だった、いわゆるあまり特徴のない生徒。
 本当に、そこら辺にいくらでもいる高校生。適度に勉強し、部活動に励み、休みの日は趣味に没頭し、兄姉が大好きな、至って平凡な一般人、ごくごく普通の高校生……だった・・・。


 しかし今の私は違う。神様がいるとするなら聞きたい。一体私に何が起きたのか、と。
 私にしかない何か──才能とか運命とか──があれば人生楽しいだろうなーと空想したことはあったが、何もこんなものを望んでいたのではない。


 今年で生まれて4年目を迎えるシャーロット家次女シラタマ───それが、今の私の姿だ。

 嬉しいことに気がついたら転生……甘い甘いお菓子と爽やかな潮風、そして血と硝煙と阿鼻叫喚とが広がるとっっってもステキなご家庭の一員となっていたのである。


────なんで???


さっき語った首スパン事件、1歩間違えば私死んでたよね?享年3歳で終わってたとかふざけんな。何なら自我取り戻して数秒だぞ。私の命をなんだと思ってやがる。

 何をどうとち狂ったら私は生きるか死ぬかの綱渡りしなきゃならなくなるのよ。


 平和。平凡。平穏。そんな言葉がピッタリくるような変わり映えのない毎日だったが、私はそんな日常を愛していた。満足していたんだ。
 それなのにどうして……?誰か教えてよ……!!
 

「シラタマねぇ?だいじょうぶ?」

 たどたどしい声にハッとする。膝の上に座っている女の子が私を心配そうに見上げていた。「大丈夫だよ」と微笑むと、安心した顔でキャッキャっと笑い出した。可愛い。

 無垢な笑顔に癒されて、私は過去回想なんていう現実逃避を始めた原因を見やった。そこには、大袈裟な身振り手振りで妹達を楽しませる“兄”の姿があった。

「そこへ颯爽と駆けつけたママ! すごくかっこよかったぜ、ペロリン♪ 危ないと思ったシラタマも無事で安心した……けれどシラタマはそれで終わらなかった! メリエンダの邪魔をした奴らめがけて突進した! そして廊下にいた残りの連中も突き飛ばしてなぎ倒して行ったんだ! さすがママの子!」
「シラタマねぇかっこいい!」
「3つならわたしたちとおないどしなのに!」
「ペロス兄、恥ずかしいからもうやめて……」
「くくく、いいじゃないか! 自慢のかわいい妹のお話なんだから。4つ子の中じゃ1番おとなしかったあのシラタマが……お兄ちゃんはすごくうれしかったぞー?」

 再びペロリン♪ と呟くと私の頭を撫でるペロス兄。見た目は子供、中身は高校生な私が6歳の男の子に撫でられるというのはなんとも面映ゆい。とんでもねえ絵面だとは思う。
 でもあの1件以来私はこの子を“兄”として受け入れてしまったので、“妹”として甘んじている。というか【前世の私】が6歳だった頃より大人だ。あんなにハキハキと喋ったり出来なかったし、“颯爽と”なんて言葉も使えなかったよ。何だ、長兄とはかっこよくて頼りにならなければ務まらないポジションなのか!?

 そして今ペロス兄が語っていたのは私の恐怖体験もとい武勇伝。
 どうやらあの時走り出した私は他にもいた廊下の敵を突き飛ばして猛進したらしい。もちろん恐怖で周りが見えていなかっただけなのだが、兄の目にはメリエンダを邪魔した敵に怒り、攻撃を仕掛けに行ったように見えたようだ。勢い余って海に落ちたところも含めてかわいい……と。

 そもそも私には前世を思い出す前の記憶が全くない。ペロス兄曰く、1番静かで影が薄く、時々見失いそうになっていたらしい。まるで陶器のお人形さん。だから魂が──ママがああいう人なのだ、その存在を信じざるをえまい──きちんと【シラタマ】という器に定着していなかったのだと私は考えている。
 もしかしたらからっぽのまま成長していたかもしれないのだ、その点はあの侵入者達に感謝している。けれど自我を持てたという結果自体は良かったものの、あの血の生ぬるさを思うと今も体が震える。逆に何も分からないまま死ねた方が幸せだったかもしれないしね!

 そういうわけで、私が前世を思い出した恐怖体験は、以来ペロス兄の持ちネタにされてしまいましたとさ。

 しかしこと弟妹に関してペロス兄を説得することは不可能だと分かっているし、私のことで誇らしげなペロス兄が好きだから、私もそれ以上は何も言わない。

 小さくため息をつくと、私の膝の上でキラキラと尊敬の眼差しを送ってくる1つ下の妹──名をエフィレと言う。お菓子好きなママらしい名前だ──を抱きしめた。


* * *
 

 私が何とか今日を明日を生き抜けるのは彼ら彼女らのおかげだ。
 まぁ時々アレだが優しい兄と姉がいるし、同時に生まれた3人と過ごすのも──4つ子だというのもかなりの衝撃だった──なかなか楽しい。
 前世では末っ子だったというのもあり、弟妹達──毎年複数人ずつ増えていくのは何故だ──もとても可愛い。天使の域である。


 今のところ、文句はないよ神様。平和に平穏に平凡に生きてきたパンピーを死が隣合わせの世界に送り込んだこと、寝ていたら砲弾の音で目が覚めること、 産みの親のママはあまり子供に興味を持ってくれないこと、 そのママは “食いわずらい”なんていう下手したら実子だろうと殺しかねない恐ろしい発作を持っていること、 それと……思っていたより出たな、文句。


 まぁどんなに辛くても兄妹達がいれば何とか耐えられる。ママは怖いし近寄りたくないけど、私を一人娘にしなかったことを思えば大好き。それ以外?ノーコメントで。

 でも!それでも!いくら兄弟姉妹が素晴らしくても許容出来ないことがある。

 私は文字通り気がついたらこの世界にいた、シラタマになっていた。多分前世の【私】は死んでしまったのだろうけどそんな記憶全くないのだ…………だから。


────“死”が!!とっっっても怖い!!!


 だってそうじゃん!私はこの世界でこれから価値観形成していく兄弟達と違って平和ボケした前世の安穏とした価値観しか持ち合わせていないのですよ!ピンピンコロリが目標だった女舐めんなよ!死にたくない!!殺されたくない!!
 殺られる前に殺れとか!殺されても仕方ないとか!それどこの漫画??残念、現実!

 受け入れろと言われても無理だ、断る。何せ私は5人兄妹の末妹だった女、生粋の末っ子。威張ることではないが甘やかされて守られて育てられた自覚がある!! 蝶よ花よとっ……痛い!脳内次兄叩かないで!……とまぁ、茶番はここまで。


 シャーロット・シラタマは静かに暮らしたい。

 それが私の掲げる第一義だ。平和な島で暮らしていても海賊に襲われる可能性がある世の中、必要最低限の護身術くらいは身につけさせて頂こうと思っている。でもそれまでだ。敵を殺す戦闘力も、敵戦を効率的に沈める知識も、島を滅ぼす戦略も、何もいらない。

 自力で生きていけるくらいの年齢。成人近くになればこの家を出ていけばいい。どこか良さそうな島に置き去りにしてもらおう。一人寂しいのは嫌なので、そこで素敵な人を見つけて家族を作り、前世のように穏やかな暮らしを送るのだ。そしておばあちゃんになって、子に孫に囲まれて往生する。

 そんな最幸な……家族にとっては最低なことを計画しながらも、何はともあれ、海賊稼業とママについてを除けば、私は第2の生を思う存分謳歌していた。

「アッシュも!アッシュもぎゅってして!」
「エフィレばっかりずるい〜」

 訂正、謳歌どころの話じゃない。これは幸せすぎるでしょ。



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