あとがき






ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
以下初出時に書いた後書きになります。宜しければお付き合いくださいませ。

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Lifeを書こうと思った切欠は2006年9月23日、南洲墓地でボランティアガイドの方がされていた桐野の話でした。
城山落城の前日、しかも週末という事で薩軍幹部のご子孫様、地元の方、観光客と多くの人が墓掃除と墓詣りに来られており、その中で勝手知ったる様子のご老人がいちいちお墓を指しながら「この人は剣の達人で〜」とかそういう説明をされていました。
聞くともなく聞いていたのですが、その内桐野の話が始まり、しかしそれも「知っているなあ」と思う話が大半だったのですが、ひとつだけ知らない話がありまして。
それが桐野が陸軍少将の軍服姿で4・5人の従卒を連れて一度だけ吉野の家に帰ってきたことがあったという、ローカルかつ短い単純な話でした。
聞きながら故郷に錦を飾るというか、まあそういう事もあっただろうなと思ったのですが、私はその日初めて桐野の誕生地を訪れていた事もあって、「ああいう所に、騎乗して黒色肋骨式(の軍服)で向かったらさぞかし目立っただろうなあ」と。 かなりリアルに画像が頭に浮かんだのを覚えています。そして地元出身のヒーローのそんな姿、子供の時期に見ちゃったら憧れるだろうなと。そこが始まりでした。

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書いてて苦労したのはさつまべーん。最後の方、諦め入ってるのが我ながらよく分かりますね、はい。
1年近く連載していて主人公の子に名前がないっつーのも凄いなーと自分では思いました(※元々は夢ではなく創作小説でした)。いや…この話、初めは2話で終わる予定だったんで…終わってしまえば名前が無くて却ってよかったかなと思いますが。書きながら一種の夢小説だなあと思う事もしばしばでした…(※夢になりましたw)
彼の父・兄、特に兄のディテールにはかなり悩みました。アラが見えてなければいいと思います。心から。
丁度「閑話」を書き終えた時期に『血風薩摩士魂西南之役実録』(橋口正景/昭和52年/玉龍企画)という本を購入し、著者の祖父の方の経歴を見てかなり「兄」の設定と重なっていたので本当に驚きました。パクリみたい、書いちゃったし今更どうしようかと悩んだのですが、「ヒジハラ流でいいじゃないですか」と励まして下さった方がいてこれには本当に励まされました。ありがとうございました。
出す予定の無い人が出てきて幅をきかせたりもしばしばで、こちらはこちらで困りものでした。書く直前に資料が必要になったりして…。山野田・河野コンビは正にそうでしたし、大山巌も当初出す予定は無く本当は西郷従道を出す積りでいました。が、途中で信吾は東京にいる事に気がつきました。危なかった。
別府晋介も初めは大して意識してなかったのですがこっちが困って手が止まった時に勝手にしゃべりだすので、何度も助けられました(笑)ありがたや。神様仏様別府様。困った時の別府頼み。

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題が「Life」ということで。そんなに意識して付けた積りはなかったのですが、題に内容が引っ張られた感があります。Lifeは人生とか生命、生甲斐といった意味ですが、そこまで大袈裟ではなくもっと大雑把に「生きていること」とか「生きること」とかそんな感じで取って頂ければいいかと。また書いている時は、生きていることや前に向って歩くことをテーマにした音楽がやたらと耳に残るようになりました。何曲か話中でも挙げていますが、アルバム発売とライブの時期と重なっていたB'z関連の曲が非常に多かったです。
8話TRAIN,TRAIN(TMG)、12話パーフェクトライフ(B'z)、13話sign of life(TMG)、17話あなたの声だけがこの胸震わす(稲葉浩志)、18話ARIGATO、19話光芒(B'z) 、22話yokohama(B'z)、24話再見(芳華)。
最期の再見は中国琵琶の演奏で、歌詞の無いイージーリスニングなのですが、柔らかくて優しく、とても好きな曲です。他にも色々とありますが書ききれないので。
全体的なイメージとしてはパーフェクトライフと光芒。この2曲は桐野だなあと思いながら聞いていました。
蛇足ながら聞いていて桐野だ!と吃驚する位ビビッときた曲は、同じくB'zの ALL-OUT ATTACK でした。

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元々前後編の2話程度で終わらせる予定であったのがここまで伸びてしまったのですが、書き始めた時から大元にあったテーマは変わらずに何とか来れたかなと。
一番大きかったのは「今まで読んできた小説とは違う桐野像が出せたら」と言う点でした。
凄くおこがましいのですが、池波正太郎さんや司馬遼太郎さんとは違う桐野の姿が出せたらいいと思いながら書いていました。
何というかですね、桐野については調べれば調べる程「自分が掴むイメージ」と「小説から得たイメージ」が乖離していきます。これは誰に関しても言える事なのかもしれませんが、桐野に関して言うとその度合いが酷かったので…西南のバイブルっぽくなっている『翔ぶが如く』ともっと違ってたっていいだろうと。おこがましいのは重々承知です。
連載を始めた時にも何度か釘打つ感じで「桐野は主人公とはいい難い」と書いていたのですが、全くその通りになってしまいました。
桐野を「軍を率いる指揮官として」という大きな視点からではなくて、もっと身近な視点から見たらどうだったのか。
桐野の間近にいた人々は、どんな風に彼を見て接していたのか。
同世代かそれ以上ならまだしも、年若い世代は大きな憧れを持って桐野を見ていたのではないかなーと。
私自身がカッコいいなと思える桐野を書いてみたいという願望もあったのですが、多感な同性の子供が彼を見た時に感じただろう"カッコ良さ"、子供視点から見た"大人・桐野利秋"というのを描いてみたいというのもありました。 これは流石に桐野サイドからは難しいので。
非常に近視眼的ではありますがこういう桐野像もありかなと思って頂ければ嬉しいです。
まあ、「(私の)夢とカッコ良さを求めて」が話を進めて行く上の柱になっていました。
ちょっとジェントルになりすぎたかとも思いますが、いかがでしたでしょうか。
御感想などお聞かせいただければ嬉しいです。

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「Life」のトップページに上げている言葉。
If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.
フィリップ・マーロウ(レイモンド・チャンドラーの小説に出てくる探偵)の名台詞です。
「強くなければ生きていけない。けれど優しくなければ生きている資格がない」という位の意味ですが、私がイメージする桐野利秋という人はこんな感じです。合うかなと思って、上げてみました。

ここまでお付き合い頂きましてありがとうございました。


20210102 ヒジハラ

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