15


洗いたての水分を含んだ隊服は、驚くほどに重い。
鬼殺隊の隊服は、特別な繊維で織られているのだとアオイさんから聞いた。下級の鬼の爪や牙なら通さないほど頑丈に作られているらしく、生地がとにかく分厚くて、しっかりとしているのだ。
けれどその頑丈さは、洗濯する身にとってはなかなかの強敵だった。

「んしょ、……っ」

その朝。冷たい水で満たされた木桶に隊服を沈め、ごしごしと力を込めて押し洗いをしていた。
冬の終わりの井戸水は容赦なく体温を奪っていき、冷たいのを通り越して指先がじんじんと痺れるようにかじかんでいく。
それでも、命懸けで戦う隊士たちの汚れを少しでも落としたい一心で、私は何度も息を吹きかけて手を温めながら、一生懸命に手を動かし続けた。

「……そういえば、後藤さん」

ザブザブ、と水音を響かせていると、井戸の裏手にある物置の影から見知った声が風に乗って流れてきた。

「聞きましたか?」

それは現在蝶屋敷で療養中の、まだ年若い新人隊士の声だ。
どうやら隠の後藤さんと一緒に、何か用事で物置に荷物を取りに来たらしい。二人の位置からは、ちょうど大きな井戸の枠が死角になっていて、こちらに気づいていないようだった。

「あぁ?何がだよ」

少し低くて、いつも気苦労が絶えなそうな後藤さんの声が応じる。

「いや、その……水柱様の、冨岡さんの噂なんですけど」
「水柱サマ?」
「はい。一昨日の夜、北の山で鬼を退治されたところまでは確認できているらしいんですけど……そのあと、消息が分からなくなっているみたいで」

桶の中に伸ばしていた手が、ピタリと止まった。

「消息不明?あの水柱様が?鎹鴉はどうしたんだよ」
「それなんです。鎹鴉も見当たらないみたいなんです」
「あの水柱様がそう簡単にどうにかなるとは思えねぇけどな……」

若い隊士は、周囲を気にするように少し声を潜めながらも、興味津々といった風に言葉を続けた。

「そうですよね。でも、ここからが本題なんです。それを聞いた胡蝶様が顔色を真っ青にして本部に向かわれたみたいで……もしかして冨岡様と恋仲なんじゃ、とか……」

冷たい水に浸かったままの私の手が、微かに震える。
そのあとも二人は何かを話していたはずだったけれど、言葉は上滑りしていくだけで、私の頭には何ひとつ入ってこなかった。
もし。もしも、あの冨岡さんにもしものことがあったら――。

『北の山だ。二日ほどかかる』

つい数日前だ。そう言っていたのは。
また当たり前のようにここに帰ってきて、「冨岡さん」と声をかければ足を止めてくれる。私はどこかで、それを疑いようのない日常だと信じ切っていた。
圧倒的な強さを誇る彼なら絶対に大丈夫。またすぐに会える、なんて。私はどうして呑気に構えていたのだろう。

「ばっ、お前、滅多なこと言うんじゃねぇよ!」

その時、後藤さんの焦ったような鋭い叱咤の声が飛んだ。

「ここは蝶屋敷だぞ!誰が話を聞いてるか分かんねえんだから、発言には気をつけるんだな!」

後藤さんは荷物を整理するようなガサゴソとした音を立てながら、ふぅと深い溜め息をついた。

「これだから最近の新人はよ……。柱の方々のことを、そこらの近所の兄ちゃん姉ちゃんみたいに噂すんじゃねぇ」
「は、はい。そうですよね!すみません。つい、噂が回ってきたので……」
「分かったらさっさと手を動かせ。胡蝶様に睨まれたら、お前らの回復訓練が今の三倍は厳しくなるぞ」

後藤さんのどこか現実味を帯びたお説教に、若い隊士は「うぇっ」と小さく情けない声を漏らしていた。
物置の影から聞こえるやり取りを耳にしながら、私は木桶の縁を握る指先に、さらにぎゅっと力を込める。
本当に大丈夫なのだろうか。後藤さんはあまり間に受けていないし、私がここまで一人で動揺するのはおかしいのかもしれない。
柱は強い。分かってはいる。分かってはいるけれど。

「それにしても、どこからそんな噂が回ってきてんだ」
「さ、さあ……。俺は同室の人から聞きましたけど」

ここは鬼殺隊。明日どころか、数時間後の命だって保証されていない世界。
あの日、血まみれで運び込まれてきた一人の隊士の姿を思い出す。駆けつけたしのぶさんやアオイさんたちが必死の手当を尽くしたけれど、その甲斐もなく、彼は静かに息を引き取った。
鬼のことなんて何一つ知らず、ただ何が起こっているのかも分からず、ただ呆然とその光景を見つめることしかできなかった。
目の前で失われた命の重さも、流れる血の意味さえも呑み込めないまま、ただその場に立ち尽くしていたあの日。
どれほど強くあろうと、彼だって血の通ったひとりの人間なのだ。どうして忘れていたのだろう。
刃が掠れれば傷つき、血も流れる。どんなに優れた剣士であっても、絶対に無事でいられる保証なんてどこにもない。

「あ、でも、後藤さん」

お説教が終わって静かになるかと思いきや、若い隊士が、今度は少し声を弾ませて別の話題を切り出してきた。

「じゃあもう一つの噂は知ってます?蝶屋敷の女神って呼ばれてる子なんですけど」
「あん?何だそりゃ」

後藤さんの声には、明らかにめんどくさそうな響きが混ざっていた。
私は冨岡さんの無事を信じたい気持ちと、嫌な胸騒ぎの狭間で、心が揺れ動く。
どれほど強かろうと、もし万が一のことがあったら。思考ばかりが最悪の方向へ転がり出してしまう。
しのぶさんに聞きに行かなきゃ。これ以上悶々と考えていても仕方ないと、私は気持ちを切り替えるつもりで隊服を絞るために力を込めて持ち上げた。しかし、水分をたっぷりと吸い込んだ生地は、想像以上の重さでずしりと腕にのしかかる。

「わっ」

悴んだ指先が、濡れた布地の上でつるりと滑った。その拍子に、私の肘が大きな木桶の縁を思い切り押し出してしまう。
がしゃん、と派手な音を立てて桶が傾き、水が勢いよく地面へと溢れ出した。
やってしまった、という絶望とともに、井戸の裏の話し声もぴたりと止まる。

「あ……」
「あ、」

おそるおそる顔を上げると、物置の影から後藤さんと若い隊士が揃ってぬっと顔を覗かせるところだった。
結果的に盗み聞きしてしまった罪悪感と、動揺とで何も言葉が出てこない。
まさかすぐ近くに人がいたとは思わなかったようで、二人も目を見開いたまま完全に固まっていた。

「……めがみ――むぐっ!?」
「馬鹿野郎お前は静かにしてろっ!!」

言いかけるより早く、後藤さんが般若のような恐ろしい形相で、隊士の背後からその口をがっしりと手で塞ぎ込んだ。
ごふっ、ごふっと呻く隊士を後藤さんは全力の力で羽交い締めにしながら、視線をどこか私の後ろへと向ける。

「あ、いや!今のはその、こいつの寝言っていうか、ただの妄想でして!他意はねぇんです、決して他意は……!」

後藤さんは大慌てで言い訳を並べ立てながら、ジタバタと暴れる隊士を引きずるようにして、ずるずると物置の影へと引っ込んでいく。
何のことか分からず首を傾げていると、ぽん、と私の両肩に軽い手のひらが乗った。驚いて振り向くと、そこにはいつもの穏やかな笑みを浮かべた胡蝶さんの姿があった。

「あ、しのぶ、さん……」
「こんにちは」

淡い蝶の柄の羽織が、冬の空気の中でふわりと揺れる。

「なんのお話をされていたんですか?私も混ぜてください」

にこり、と微笑む彼女の声は穏やかそのものなのに、後藤さんと隊士の二人はわかりやすく慌て出した。

「い、いや、なんでもないっす」
「その、俺らまだやることがあるので、では……!!ほら、行くぞ!!」

そのまま、ほとんど逃げるような足取りで去っていってしまった。私は桶のそばにしゃがんだまま、ぽかんとその背中を見送る。
いや、それよりもだ。

「しのぶさん!お戻りでしたか」

問いかけるとしのぶさんはにっこりと笑い、私の肩から手を離した。
風が通るたび、しのぶさんから藤の花の匂いがする。本部から戻ってきたのかな。早く、冨岡さんのことを聞かないと。

「簡単に言い寄られては困りますね」
「……言い寄る?」

なんのことだろう。
そんな私の困惑などあらかじめ知っているみたいに、しのぶさんは淡々と話を続ける。

「お洗濯お疲れ様です。指先真っ赤ですね。風邪を引かないように、早めに屋敷へ入りましょうね」
「は、はい……。あの、しのぶさん、それよりも冨岡さんの、」
「それにしてもリサさん。最近少しずつみなさんと仲良くなってきましたね。……悪い虫も、そろそろつき始める頃かしら」

さらりとした声色で、言葉を遮られる。それ以上、私は言葉を紡げなくなった。
虫?虫ってなんだろう。首を傾げた私に、しのぶさんは洗濯物に落ちた落ち葉の欠片を指先で払いながらふわりと笑う。

「あの朴念仁でも、つい気を取られていたみたいですし」
「ぼく、?」

その笑みはいつもと同じ、優しくて穏やかなのに、なぜだろう。背筋がひやりとするのは。
何かを聞き逃した気がしてならない。

「さ、戻りましょう?風邪を引くとアオイに叱られてしまいますよ」
「……はい。分かりました……」

しのぶさんの言葉に頷きながら、去っていくその華奢な後ろ姿をそっと見つめた。
本当に、後藤さんの言う通り「ただの噂」で、大丈夫なのだろうか。大丈夫だと、思ってもいいのだろうか。
けれど、一度胸に芽生えてしまった冷たい不安は、しのぶさんの柔らかな笑顔を以てしても完全には消えてくれなかった。







西の空が茜色から次第に深い紫へと溶けていく、そんな夕暮れ時のことだった。ちいさな畳の一室に、行灯の柔らかな光が灯る。
私はアオイさんと向かい合わせに座り、私が洗って干し終わった隊服のほつれを、一針一針丁寧に縫い合わせていた。

「夕方になって、また冷え込んできましたね」
「そうですね。冬の終わりは油断するとすぐに体調を崩しますから、部屋を暖かくしておかないと」

アオイさんは慣れた手つきで手元の針を動かしながら、きびきびとした口調で応じる。
その横顔を見つめながら、私は先ほど井戸端で耳にした、後藤さんたちの会話を思い返していた。

消息不明。あの水柱様が。
鎹鴉の行方も分からない。

こんな寒い時期に、北の山だなんて。雪深い山の中で遭難でもしていたらどうしよう。
常人離れした強さを持っているとはいえ、冷気は容赦なく体温を奪い、身体を鈍らせる。もし倒れていたら、どんなに強い精神力だって――。
考えれば考えるほど、最悪の想像ばかりが脳裏を掠めて離れなくなってしまう。

「……こうして寒い日も、鬼殺隊の皆さんは外で任務をされているんですよね」
「はい。冬は特に夜が長いから大変なんです」

あれから結局、しのぶさんには何一つ聞けないままだった。けれど、しのぶさんはいつもと変わらず、あっけらかんと務めをこなしている。私の心配なんて、取り越し苦労だったのだろうか。
冨岡さんも、きっと何事もなく任務を果たされているに違いない。
それでも…と、針を通す糸の先を見つめながら胸の内で呟く。
冨岡さんの無事をただ神頼みのように祈るだけじゃ駄目だ。もっとちゃんと知らなきゃ。柱の方々が、そして鬼殺隊の隊士たちが、日頃どんな思いで、どんな状況の中で戦いに身を投じているのかを。

「あの……アオイさん」

私は手にしていた隊服と針を一度膝の上に置き、真っ直ぐにアオイさんを見つめた。

「隊士の皆さんの任務って、普段はどのように行われているんですか?」
「リサさんからそんなことを聞いてくるなんて、珍しいですね」
「突然すみません。でも、気になってしまって」

アオイさんは少し驚いたように丸い目をしばたかせたあと、手に持っていた針を止めた。
畳に落ちる行灯の影が、ゆらりと揺れる。
私は知らないから。そんな言葉で自分を納得させて、ただここで誰かの無事を祈るだけの存在でいるのは、もう嫌だった。知ろうとしないのは、無知に逃げているのと同じだ。
鬼殺隊という組織が何を背負い、どのような覚悟で成り立っているのかを。そして、『鬼』という恐ろしい存在のことも。

「そうですね……。基本的には、鎹鴉から伝令が来ます。全国の鬼の目撃情報や被害の知らせを受けて、任務に向かうんです」
「一人で行くことも?」
「はい、もちろん。対応できる隊士は限られていますから。どうしても単独行動になりがちです」

普通の隊士でさえそれほどの過酷さを強いられている。一人では、一度足を滑らせれば敵に背を向けるのと同じ。
その頂点に立つ柱たちは、一体どれほどの重荷を背負わされているのだろう。

「じゃあ、柱の方々も同じように任務を?」

気づけば、私は焦燥感に急かされるようにして問いかけていた。

「柱の方々は少し違います。彼らには担当地区が割り当てられていて、警備する範囲は普通の隊士よりもずっと広いです」
「担当地区?」
「はい。十二鬼月の情報が出たときや、被害が大きい地域には必ず駆り出されます」
「……じゅうに、きづき?」

聞き慣れない不穏な言葉に首を傾げると、アオイさんは声を低くして言った。

「鬼の中でも特別に強い、上位の存在のことです」

ただでさえ恐ろしい鬼という存在の中に、上位の猛者がいるなんて考えたこともなかった。
やっぱり、私は何もしならなかった。呑気に、またすぐ会えるだろうなんて。生きていられるだけでも奇跡なのに。
冨岡さんは…しのぶさんは、いつもそんな化物たちと一人で戦ってきたのだろうか。
私たちがこうして暖かい部屋で静かな夜を過ごしている間にも、彼らは暗闇の中で、その鬼と刃を交えていたのだろうか。
柱だから絶対に大丈夫。心のどこかでそう信じ込もうとしていたのは、私の甘えであり、無知ゆえの楽観でしかない。

「ごめんなさい。鬼殺隊の皆さんがそんなに大変だなんて、私、知りませんでした」
「知らなかったんです。知らなくて当然ですよ。でも、リサさんがそんなことを気にかけるなんて、やっぱり珍しいですね」
「そう、ですか?」
「はい。普段は日常のことに一生懸命なのに。何か気になることでも?」
「……それが、実は……」

喉の奥まで出かかった問いを飲み込みきれず、私はアオイさんに尋ねることにした。



____



「えっ!水柱様が行方不明?それに、しのぶ様と恋仲?一体どこからそんな妙な噂を聞いてきたんですか」
「えっでも、井戸端で後藤さんたちがそう話していて……」
「尾ひれがついた噂ですよ。間に受けないでください」

アオイさんはハァと深いため息をつくと、呆れたように額を押さえた。

「冨岡さんは無事ですよ。北の山の任務も滞りなく終えられて、さっき鎹鴉から事後処理が終わり次第こちらに向かうと連絡が入ってます」
「えっ、じゃあ消息不明っていうのは……」
「鴉が一時的に見当たらなかったのだったら、誰かが勝手に勘違いしたんじゃないですか?第一、冨岡さんがそれくらいでどうにかなるわけないじゃないですか」

アオイさんのあっけらかんとした言葉に、胸の奥で固まっていた重い塊がすっとけていくのが分かった。
無事、だったのだ。怪我をして動けなくなっていたわけでも、雪山で遭難していたわけでもなかった。

「あの、じゃあしのぶさんが青ざめて本部に向かわれたっていうのは……?」

おそるおそる尋ねると、アオイさんは急に表情を曇らせ苦々しい顔になった。

「ああ……それです。しのぶ様が真っ青になって本部へ行かれたのは、冨岡さんは関係ありませんよ。本部の医務方から『傷薬の在庫管理に不備があり、一部が使用期限切れになっている可能性がある』って緊急の報告が入ったからです」
「傷薬の……不備……?」
「はい。蝶屋敷で調合して納品している薬の管理体制に不備があったかもしれないなんて、調合責任者であるしのぶ様にとってみれば顔が青ざめるどころの話じゃありません」

整然とした裏付けを聞かされ、私は力の抜けたような小さな息を吐き出した。
尾ひれがついた噂と、タイミングの悪い重なり。すべては私の無知と、勝手な取り越し苦労が生み出した幻に過ぎなかったのだ。

「万が一にも隊士の命に関わりますから、大急ぎで事実確認に本部に飛んで行かれたんです。まさかそれが『恋仲の冨岡さんを心配して』なんて話にすり替わっているなんて、しのぶ様が知ったらそれこそお説教ものですよ」

な、なんだ。そうなのか。良かった…。
身体から一気に力が抜けていく。だから、後藤さんもあの噂を間に受けてなかったし、軽く流していたのか。きっと、よくあることなんだ。それを私は新人隊士と同じように、間に受けて。
彼はいつも通りに自分の責務を果たし、今も変わらず生きている。
けれど、いくら今回のことが尾ひれのついた噂だったからといって、彼らが常に命の危険と隣り合わせの場所に身を置いているという事実に変わりはない。
この誤解があって、良かったのかもしれない。もし、後藤さんたちの会話を耳にすることがなかったら。私はきっといつまでも何も知らないままだった。

「まったく、リサさんまで本気にしちゃうなんて」
「すみません。私、勝手に一人で取り乱しちゃって……」
「別に、リサさんが謝ることじゃないですよ。噂話が紛らわしかったんですから。でも、びっくりしました。リサさんがそんなに水柱様ことを心配するなんて」

その言葉に、私は上手く言葉を探すことができなかった。
そう。私は、気になっていたのだ。今日一日、朝からずっと心が落ち着かなくて、手が止まりそうになるのを必死で誤魔化しながら過ごしていた。

「でも、そうですね。どれだけ強くても、どれだけ頼もしく見えても、人間である以上……絶対なんてない」

アオイさんの声に、ほんの少しだけ陰が落ちる。
蝶屋敷で多くの患者を看取り、送り出してきた彼女だからこそ知っている鬼の容赦のなさ。
私も今回、取り越し苦労という形でそれを突きつけられたのだ。彼らが生きていることの奇跡と、背負っているものの重さを。

「さ、余計な心配をしてお腹が空きましたね。早く手直しを終わらせて、夕餉の準備をしちゃいましょう」
「……はい。アオイさん、ありがとうございます」

けれど、この胸を占領しているざわめきの正体は、一体何なのだろう。
ただ単に、冨岡さんの安否が気になっていただけなのだろうか。それとも――。
自分が彼に対して抱いている感情の輪郭がつかめないまま、私は指先を強く握りしめた。




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