タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
お題関係ない小ネタ
これの続き

2021/06/24


「あっ、」

 通り雨のような小さな雫がほんの少し身体を湿らせて、ばちん、と空中で申し訳なさそうな顔をする女と目があった。そしてその女が海面に叩きつけられたのと同時に、ばしゃん、と通り雨どころではない海の雨がおれの体を襲って、ぴき、とこめかみが疼く。

「ご、ごめんなさい、大丈夫?」

 顔にかかる前髪を後ろに撫で付けて、睨む。大丈夫なわけがあるか。おれは能力者だぞ。それも、水が天敵の砂の能力者だ。ずぶずぶに濡れ鼠になったおれはまたか弱いというレッテルを貼られるだけの人間に成り下がって、なんのためにこの船をここにつけていたのかわからなくなる。人魚の目撃情報を聞きつけ、か弱いと言われたあの時の鬱憤を晴らすためだったのに。

「なにしてる」
「……ちょっとその、友達のイルカと遊んでて」

 視線をずらせば遠巻きにイルカの群れが女を心配そうに見守っていて鼻で笑う。人魚よりイルカの方が賢いな。本能でおれが危険なやつだと悟ったんだろう。人魚の女はわかってるのかわかっていないのか謝りながらすいすい近付いてくる。

「そうかい、お嬢さんはお気楽でよかったな」

 へらり頬を緩ませているが嫌味なのは通じているのかいないのかわからない。

「あなたはどうしてまた海にいるの? 泳げないんだったら海には近付かない方がいいのに」

 ぴくり。善意しかないのはわかってる。わかっていてもこの女の放つ言葉ひとつひとつがおれの劣等感を抉り、腹が立って仕方がない。おれが本調子であればこんな女、すぐにミイラにできるのに。海水でびっしょり濡れた体では何もできなくてイライラしながら見下ろすだけ。

「でもこの辺りなら船に乗っても大丈夫だからね」
「あ?」

 思いの外剣呑な声が出ても、ぷかぷかと浮かぶ人魚は何も気にはしておらずただにこにこ笑っている。

「顔に縫い目があって、鉤爪の大きな男の人が溺れていたら教えてねってみんなに言って回ったの。だから、この辺りの海に落ちたならいつでも私が助けに来てあげるから、いくらでも溺れて大丈夫よ」
「……あぁ?」

 言われた言葉の意味が分からなくて、口から音だけが零れ落ちた。