タイトルを考えるのが死ぬほど苦手

 
2022/04/22
これのサンジくん視点


「上手になったでしょ?」

 ふふん、と満足気に笑うレディがおれのぴかぴかになった指を持ち上げて思わず頬が緩む。

「うん、すげェ上手。いつもありがとう」
「んふふ、私の方こそいつもありがとう」

 なぜかいつもレディもお礼を返してくれることが謎だけど、その声と表情が甘くぶつかって蕩けた脳はいつもそれを尋ね忘れてしまう。夜更けにレディがダイニングに来ておれが爪の手入れをしているのを見つけたのがきっかけ。おれの爪が伸びて爪切りをしようとするタイミングでレディが声をかけてくれることが増えてありがたいことに習慣になった。
 一度目はすごく緊張していて眉を顰めて敵と対峙してる時のような凛々しいお顔でしゃりしゃりとやすりを左右に動かしていたから、てっきりおれだけがとても楽しくて二度目はないかなあ、なんて思ってたのに、おれの爪の手入れはレディにとって思いのほか楽しかったらしい。伸びた? 伸びた?と時折確認しにくるレディが愛らしくていつもより少ししか伸びてなかったけど伸びたねェと相槌を打てば、リベンジと二度目のお願いをされて一も二もなく頷いてから首を傾げたのも懐かしい。リベンジも何も、一度目に失敗された覚えはなかったから。ただやするだけなのにものすごく緊張してるなァ、とは思ってたけどレディに整えてもらったからいつもよりぴかぴかに輝いていて気分も良かったのに。
 二度目三度目四度目とリベンジを繰り返すうちに、しゃり、しゃり、と恐る恐るだったやすりの動かし方がどんどんスムーズになっていくのと同時に緊張も解れたのかレディの表情も柔らかくなっていくのが嬉しくて、指が触れ合うのも、ふたりきりの時間も、一度目からただのご褒美だった。レディが自信を持って、上手でしょ、と笑う姿までこんな間近な距離で見られてご褒美じゃなかったらなんだっていうんだ。

「うん、……かんぺき」

 初めて聞く言葉に心臓が音を立てる。一度目は女神の気まぐれで、二度目からはリベンジの形だった。それなら、完璧、とまで言われてしまったらもうこの至福の時間はおしまいなんだろうか。寂しくて、相槌が打てない。最初から完璧だったよ、そう心の底から思ってるくせに、相槌を打つことでこの至福の時間がなくなる可能性があるから言えなくなる。レディはおれの手を持ち上げて上から下から右から左から、それこそ宝物を鑑定するかのような目で見つめて満足そうに何度も頷いている。

「この腕があればサンジくんの爪のお手入れに専属として名乗りあげても大丈夫そう?」

 言われた言葉の意味が分からなくて固まったまま何度も瞬きを繰り返すだけしかできないおれとレディの目が合って戸惑う。

「慣れるまではちょっと下手だったけど、サンジくんが根気良く付き合ってくれたおかげですごく上達したでしょ? だから、これからずっとサンジくんの大事な手のお手入れは私がしたいな」