慣れるために毎日お話ししましょうね、なんてにっこり冗談混じりに言われて出勤前に通り道のポアロで二言三言会話してますが、やっぱり慣れません。というより降谷さんがポアロでほぼ毎日働いてるの見ると休みはあるんだろうかという心配がすごくて。それにこうしてほぼ毎日顔を合わせてもやっぱり顔が良過ぎて綺麗だなあと再確認するだけになるので慣れる気がしない。
 今日は久々の休みだからと諸々の用事を済ませようとなんの心構えもなく銀行に立ち寄ったのがいけなかったのかもしれない。今日はポアロに行かないからと油断していたところに視界に入った人に息を呑む。

「ひゅ」
「……今度はなにに驚いたのかしら」
「ごめんなさい……急に可愛かったから……」
「……」

 呆れた目で見られて不審者でしかない返答をしてしまったことに気付く。またやってしまった。でもこの子見て冷静でいられる方がすごい。この前も思ったけどやっぱりなにもかもがかわいい。事件になにも巻き込まれていない安心した状態というより油断した状態で見る可愛さの暴力に耐えられなかった。
 でも今事件に巻き込まれてないだけで哀ちゃんがいるということは今から事件が起こる可能性。いや、哀ちゃんと一緒にいれば安全なのだろうけど。

「……ねえ、ここに住む覚悟は決まったの?」

 うろ、と視線が揺らいで聞きにくそうに呟いた質問内容に少し逡巡して口を開く。

「やっぱりまだたまに引っ越したいなって思ったりして覚悟は決まってないですけど、でも、この町のおまわりさんを信用しようと思って」
「そう」

 ほっとしたように微笑んでくれて頑張って、と小学生に励まされる私、どれだけあの事件で情けない大人と認識されてしまったんだろう。いやでもあれが普通なんですよ哀ちゃん。この町に住んでるから事件慣れしてしまってるのかもしれないですけど普通あんなのに巻き込まれたら顔面蒼白になって何も考えられずに震えてるのが普通なんですよ哀ちゃん。ねえ。なんて心の中で哀ちゃんの背中に語りかける。
 博士についてきたのかATMを操作する博士の足元にいるせいで余計に小さく見える哀ちゃんににっこりする。かわいい。
 順番待ちで暇なだけで知り合いの子どもを眺めるのは別に怪しくないですよね。わからない。もうこの世界で何をして何をしていなかったら怪しくて怪しくないのか全くわからない。
 視線が突き刺さったのか振り返った哀ちゃんとパチリと目が合う。しまった。ガン見してたせいで。そらす方が変だろうし手をひらひらとふれば、ふ、と大人っぽく微笑まれて胸を抑える。可愛すぎて困ります。
 ようやく私の番が来て面倒な作業を終えて振り返れば、博士と哀ちゃんがコナンくんを見つけて合流しようとしていたところで息を呑む。ものすごい勢いで走ってきた男の人がその勢いで博士を突き飛ばし、哀ちゃんを引っ張る。

「ひ、」

 私の悲鳴か、誰かの悲鳴か、とにかくそこかしこで息を呑む声が聞こえてみんなが固まる。
 ────バンッ。
 天井に向けて放たれた銃声に肩が揺れる。銃、銃だ。人質にした哀ちゃんを片手に引きずり怒鳴りながら銀行の真ん中にまで歩いてくる犯罪者。
 だめ、だめだ、その子を傷付けないで。

「待って!」

 思った時にはもう声が出てしまっていた。

「ああ?! 関係ねえやつは黙ってろ!」
「その子の姉なので関係あります! 子どもは人質には向いていないのでは?! すぐ泣きわめくし、小さいから連れ歩くにも目立つし、言うことをきちんと聞かないかもしれないし、だから、だから私と交換しましょう! ほら、今にも泣きそう! その子は一度泣いたら手がつけられないんだから!」

 そんなことはなかった。なんならコナンくんは今にも飛び出して救い出しにいきそうな感じで、哀ちゃんだって、場数を踏んでるからか、緊張感のある表情ではあるけど泣きそうだなんてことはない。私の方が涙目だ。私は彼らの邪魔にしかなっていないのかもしれない。だけど彼らは、彼らは見た目は子ども、頭脳は大人だと言うけれど、それでも実年齢でも彼らは未成年だ。守られるべき、未成年だ。
 私は彼女に幸せになってほしい。ただのモブが、そんなこと思うのはおこがましいかもしれない。でも、今、今、私が何かできることがあるのなら、それをやるだけだ。大人は子どもを守る。理屈なんかじゃない、体が動いた。
 もし、邪魔をしていたらごめんなさい、と心の中で謝りながら、震える足で床を踏みしめる。
 犯人は興奮して頭が回らないのか、血の繋がりなんて完全にないとわかる私達の容姿を見比べる事もしない。ただ私の言う通り子どもは確かにめんどくさいと思い直してくれたようで、乱暴に掴んでいた哀ちゃんの手を離して私に銃を向ける。こわい。こわくて銃から目が離せなくて、哀ちゃんが無事にコナンくんの元へ戻れたかどうかも確認できない。でもきっと無事だ。だって彼女を傷つける可能性のある唯一の武器は私に向けられている。何かあっても、一度目は私だ。時間稼ぎさえできればコナンくんがなんとかしてくれる。
 未成年は守られるべきだ、なんてかっこつけたくせに、結局はその未成年を頼りにして、なんて情けない大人だと心の中で苦笑した。
 銃を突きつけられながら乱暴に手を伸ばされて目を閉じたくなるのを我慢する。だってもし、もし目なんて閉じてこの銃の向きが変わったら守れるものも守れない。こわいけど、銃口の向きが私以外に向かないように注意する。

「──おねえちゃん!!」

 スローモーションになったかのように犯人の手が私の体に届くのは遅かった。辺りは騒然としていて静まり返っているはずがないのに、私の耳は私の心臓の音しか感知できない。
 なのに誰かの悲痛な叫び声が耳に届いて目の前が弾ける。犯人が、消えた。
 消えた……?
 そんなわけない、どこに、じっと注意深く見つめていた、私以外に被害が向かないように、なのに、どうして。
 静かだったのか、私の耳が機能したのかはわからないけれど、途端に周囲がざわついて、特に目の前の下の方がうるさくて、視線を下げる。犯人が、いた。褐色と、金髪、神様に愛されたかのような美貌を持った人にのしかかられた犯人が。芸術とばちりと目が合って固まる。ぎりぎりと音がしそうなほど犯人を締め付けているのに、困ったように優しく笑んだ瞳にようやく緊張がとけて瞬きができたような気がした。

「必ず助けると言ったでしょう」
「っ、」
「少し待っていてくださいね、片付けるので」

 この惨状に不釣り合いなほど優しい声がうめき声をバックにして聞こえて、下手な笑みを返す。
 ここで死んだらどうなるのかなんてことを考える余裕もなかった。ただひたすら目の前の銃のことで頭がいっぱいだった。降谷さんがいたなんて気付いてなかった。
 邪魔をしただろうか。犯人を無駄に刺激し、予測不可能な行動を取らせてしまって、もっとスムーズに鎮圧できたはずなのに、邪魔をしてしまっただろうか。

「ウッ」

 なんてぐるぐると考えていれば足元に突然衝撃を受けてよろけて転ける。えっいくら恐怖で腰が抜けかけてたとはいえ情けない。
 床に手をついて衝撃のもとを見れば、腰に小さな生き物が抱きついていて固まる。

「どうして、」
「え」
「どうしてあんな無茶したの!! 怖がりのくせに!」
「私が情けない大人だってことはちょっと忘れていただけると……そんなことより怪我はない?」

 怖がりのくせに、なんて怒鳴られて肩身が狭くなる。確かにあの時は今みたいに犯人と対峙するような直接的な危険を感じていなかったくせに物凄くビビり散らしていましたけどもその印象でずっと見られるのは恥ずかしい。あの時ははじめての事件巻き込まれでまともな思考回路してなかったんですよ。だからって2度目の事件で銃の前に飛び出せるようになるとは自分でも思ってなかったけど、人間、人を守ろうと思えば火事場の馬鹿力ならぬ火事場の勇気を振り絞れるみたいです。

「そん、……そんなこと?! 銃の前に飛び出すことが、そんなこと?! 馬鹿なこと言わないで!」

 あんなことできたのに小学一年生に押されただけで転ぶくらい腰が抜けてるしやっぱり情けないなと反省してれば、ぱちん、と控えめな音がして固まる。痛くなさすぎてわからなかったけど、腰にしがみついていた哀ちゃんが立ち上がって私の頬を叩いた、らしい。驚きに目を見開いて固まっていればぽろぽろと大粒の涙をこぼしはじめた哀ちゃんに心臓が止まりそうになる。

「な、泣かないで、ごめんなさい、」
「あなたみたいな普通の、ただの良い人が、私なんかを助けて撃たれたら、死んだら、」
「っ、私なんかって言わないで」

 哀ちゃんがこれほどまでに取り乱すなんて思わなくて、だけどその言葉だけは看過できなくて言葉尻が強くなる。きっと哀ちゃんは犯罪なんておかしたことのない普通の人間が黒の組織に関わっていた私を助けて死ぬなんて、なんていう変な天秤で考えてしまっているんだろう。それを知らないふりをしなきゃいけない私はそれについて言及はできないけど、それでも普通の大人としてその言葉は咎めることができる。

「私なんかって言わないで。……なんの策も考えずに飛び出して、哀ちゃんを怖がらせてごめんなさい。でも哀ちゃんだから私も頑張れたの。前に私をたくさん励ましてくれたから今度は私が哀ちゃんを守りたかった。結局私は何もできなかったけど、でも私なんかって言わないで。哀ちゃんだから、哀ちゃんを、助けたかったんです」

 ぼろぼろと涙をこぼしているのに損なわれない美貌に少し臆したけど、でもやっぱり泣いてる子を放っておくなんてできなくて手を伸ばして抱きしめる。びく、と可哀想なくらい体がこわばった哀ちゃんに一瞬失敗したと思ったけど、控えめに服の裾を掴んでくれた哀ちゃんにこんな時に不謹慎で申し訳ないけど心の中の私が胸を押さえた。

「じゃあ、……じゃあこれで貸し借りなしなんだから、もう2度とこんなことしないで」
「そ……それはちょっとわからないです」
「しないで!」

 無理です、無理じゃないわ、そもそも本当にもう事件に巻き込まれたくないです、でも2度としないって約束して、約束はできません、約束して!
 ぽろぽろ泣くのはおさまったのかすんすんとすすり泣きくらいになりながらも私に注意してくる哀ちゃんにすみませんすみませんと問答を繰り返していればそっと見守ってくれていたらしい阿笠博士とコナンくんが控えめに近付いてきて哀ちゃんに謝りながら視線を移す。
 これ以上はのれんに腕押しでしかない問答に痺れを切らした阿笠博士が哀ちゃんを半ば無理やり抱き上げて無理やりやめさせたせいでぽこぽこと叩かれている。すまんのう、と申し訳なさそうに謝ってから、本当にありがとうと感謝をされてぶんぶんと首をふった。本当に私はただ飛び出しただけで何もできてはいないからその感謝はあまり受け取れない。
 意地でも約束しなかった私に怒っているのか赤い目元を晒しながら睨みつけてくる哀ちゃんに苦笑する。これこれと阿笠博士にハンカチを押し付けられて離れていく哀ちゃんにひらりと手を振れば、ふんっと思いきり顔を背けられてしまった。怒られてしまった。

「お姉さん、本当に大丈夫?」

 わりとショックを受けていれば阿笠博士たちと一緒に行ったと思っていたコナンくんが横にいてぎょっとする。びっくりした。そして私は完全に腰が抜けたせいで地べたに座り込んだままだから小さいコナンくんとも思いきり視線がかち合う。

「……哀ちゃん怒らせちゃって悲しいです」
「そうじゃなくて」

 わかってる。聞きたいのは怖くなかった?とか怪我はない?とかそういうことなんだと思う。でも普通大人は小学生にそんな弱みは見せないものなんです、わかって。本当はまだこわくて腰が抜けてるせいで座り込んだままの情けない姿だけど強がらせてほしい。普通の大人として接させてほしい。邪魔をしてごめんねと言いたいけど、それは知らない私が言えば無駄に疑わせさせてしまうだけだから。

「……お姉さんは良い人だね。ありがとう、灰原を助けてくれて」

 そうやって気持ちを汲んでくれるコナンくんも良い人だよ。小学生のふりをするならちょっと物分かりが良すぎて大人っぽすぎるけど。

 阿笠博士を追いかけるようにして後を去ったコナンくんの背中を見送りながら、抜けた腰をどうにかできないかと考えたけど、考えてどうにかなるなら腰は抜けない。諦めも肝心ですとへたりこんだままきょろりと視線を動かす。いた。
 降谷さんが警察官に事情説明してる後ろ姿を見つけてホッとする。本当に、降谷さんが来てくれて助かった。降谷さんの邪魔をしたかもしれないからそこは本当に申し訳なく思うけど。
 犯人を無事に引き渡して引き継ぎも無事に終わったらしい降谷さんが乱れた服をなおしもせず私に近寄ってきて思わず目を背けそうになる。だって、見ちゃいけない気がして。鎖骨が。腹チラが。

「……僕のこと、思い出してくれましたか」
「え」
「……いえ、いいです。そんな暇なかったですよね。でも、」

 す、と顔に色がなくなった降谷さんに息を飲む。こわい。座ったままの私に合わせるように目の前にしゃがみこんでくれた降谷さんに身を縮こませる。

「子どもを守る姿勢は立派です。でも、それであなたが、」
「わ、たしは、」

 説教がはじまる予感がして、降谷さんの言うことはもちろん絶対正しいのはわかっていてもつい、口を挟んでしまった。

「私は、この町の警察官を信じることにしたんです」
「……、」
「だから、……事件が多い町だから引っ越したかったけど、事件が多いからこそ、こうしてすぐに対応できるほど優秀な警察官たちがたくさんいて、すぐに対処してくれるから、だから、絶対に解決してくれると信じてるから、それまでは頑張ろうと思ったんです」
「あなたの言う、解決、に、あなたの生存は含まれていますか。解決はいつでもできるんですよ、……頼むから、無茶はしないで」

 ぐ、と肩を掴まれて俯かれる。でもお互い座り込んでいるとは言え降谷さんの方が高いから、表情が丸見えで固まる。ぎゅ、と唇を噛み締め苦しげな表情が見えて罪悪感に胸が軋む。

「今回は、僕がたまたま挙動の怪しい人物を追っていたからすぐに対処できたものの、……もし、……」

 もし、の後は音にならなかった。

「僕の友達の命を大事にしてください」

 頼むから、と耳元で声がして固まる。耳元で? どうしてそんなところから。考える暇もなく痛いほど抱きしめられて理解する。肩に降谷さんの額がくっついている。

「あなたが僕を幸せにしてくれたから、僕は幸運にもそれを知らなくて、あなたの知る僕より僕は弱いのかもしれないけど、……幻滅しないでください」
「そっえっ、安室さんに幻滅するなんてそんなこと天地がひっくり返ったとしてもないです!」

 ものすごく真面目な話だったと思うのに、密着度がすごすぎるのと耳元で囁くように紡がれる音に混乱した私が放った言葉がこれで自分でもどうかと思った。たしかに歩んだ道が違うからかたまに思っていた降谷さんと違うなと思ったことはあるけれど、私は降谷さんの正義が大好きで、あと芸術のような美貌が大好きなので、環境が変わろうと根底が変わらない降谷さんに幻滅するなんてこと絶対にありえないので大丈夫です。ただのモブの私に大丈夫と言われても何が大丈夫なのかわからないけど、ただのモブの意見でもいいなら本当に降谷さんは大正義なので安心してほしい。

「……。神様扱いもしないでください」
「あっすみません」

 降谷さんも私の肩に額をすりすりするのやめてほしいです。すりすりされて髪の毛が首筋にさらりと当たるたびに私の寿命が縮まってる気がするので。いや降谷さんが民間人の寿命減らすわけがないので有難さで逆に寿命増えてるのかもしれない。それはそれで困るな。

「また変なこと考えてますね」
「ちょっとあの芸術が爆発してまして」
「……死にかけたのわかってます?」
「あの、はい、……すみません……」
「……犯罪者でもない人にGPSつけたい気持ちになったのははじめてだ」
「えっ、………………安室さんの仕事の邪魔になりそうなのでやめときましょう」
「友達にGPSはつけないので我慢しますけど、あなた今悩みましたよね?」

 いえでもだって降谷さんに居場所管理してもらうと本当に何があっても死ななそうでちょっといいなって思っちゃったんですごめんなさい。









 GPSは断ったし、降谷さんもしないとは言っていたけど、最近の毎日の朝の二言三言の会話は今日は何時頃に帰るんですか?なんていうスケジュール管理ばかりです。降谷さんに包み隠さず予定を話すこと自体には抵抗はないし、むしろ言っておいた方が安心安全だからぺらぺらと話すんですがそれはそれで自分のプライバシーを守ってくださいと質問してくる降谷さんにたしなめられるという謎。

「今日はまっすぐ帰ります」
「人通りの多いところを通って帰ってくださいね。路地裏を通ると近いからってそこを通っちゃダメですよ」
「大丈夫です。絶対通りません」

 路地裏なんてそんな事件が勃発しそうなところ、夢だと思い込んでたあの時ならまだしも今は通ろうなんて絶対思いません。怪しい人の取引とか見ちゃうかもしれないので視線すらやりません。胸を張って答えれば満足そうに頷かれる。

「おねえちゃん」

 登校時間とかぶっているから小学生のきゃっきゃっとした可愛らしい声が聞こえてきて、今の会話を聞かれていなかったろうかと少し恥ずかしくなる。だって大の大人が小学生に言うようなことを言われている。あの人おとななのにと笑われていないだろうか。

「お姉ちゃんってば!」
「えっ」

 クンッと手を引っ張られて驚く。私の手を掴んでいる子に恐る恐る視線を移せば哀ちゃんで余計に驚きを隠せない。

「無視しないでくれる?」

 むすっとした表情で怒る哀ちゃんも大変可愛らしいですが、お姉ちゃん、と言いませんでしたか。

「……あの、私のことですか」
「こうして手も引っ張っているのにあなた以外に誰がいるの」

 もしや未だ銀行の時のことを怒っているのだろうか、いささか機嫌の悪い哀ちゃんに少し戸惑う。だけど聞いたそれを肯定されて思わず降谷さんを見上げて、降谷さんと私を比べてつい口が滑ってしまう。

「……この人はとても綺麗な人なので女の人に見えなくもないです」
「無理があります」
「いえ安室さんなら絶世の美女になれます」

 つい口が滑ってしまっただけだけど呆れたような表情を浮かべて即答する降谷さんに確信する。降谷さんが本気を出せばなんにでもなれる。

「……私のお姉ちゃんは胡散臭くないわ」
「……僕そんなに胡散臭いですかね」

 うんうんと内心頷いていれば哀ちゃんの否定の言葉に若干傷付いた声を出した降谷さんに申し訳なくなる。私が現実逃避で話を振ったばかりに流れ弾に当てさせてしまってすみません。
 長い現実逃避をやめてどうにか頭を回転させる。お姉ちゃんと呼ばれてしまった。哀ちゃんに。それは嬉しいことだけど、申し訳ない。

「あの時は勝手にお姉ちゃんを名乗ってすみません……」
「どうして謝るの」
「哀ちゃんに本当にお姉さんがいたら勝手に名乗ったの申し訳なくて」

 だから今更ながらだけど握られた手をそっと握り返して目線を合わせながら謝る。

「……もし私にお姉ちゃんがいたとしても、お姉ちゃんが一人増えたところで特になんの問題もないわよ」
「いや問題はあると思いますけども」

 えっおかしい。思ってた反応と違う。ふん、とさっきからずっと拗ね気味だけど言われている言葉は全て可愛らしいもので、なんだか懐かれていると勘違いしてしまいそうになる。
 お姉ちゃん、ともう一度手をぎゅっと握られて確かめるように呟かれて固まる。

「あなたから言いだしたことなんだから。お姉ちゃんって呼んでもいいわよね?」

 お願い、とまるで懇願されているかのような手の力強さに胸がぎゅっと痛くなる。本当はそんなおこがましすぎる提案は断りたい。お姉ちゃんと呼ばれることが嫌なわけじゃなく、哀ちゃんの特別なお姉ちゃんと同じ呼び方をされてもいいような立派な人間じゃないから。だけど人に関わることがきっと得意ではないだろう哀ちゃんが、勇気を出して言葉にしてくれてる。そんな哀ちゃんのお願いを断れるわけがなかった。

「……哀ちゃんが、いいのなら」
「いいから呼んでるのよ」
「じゃあ、あの、はい。自由に呼んでください」

 締まりのない返事だったのに哀ちゃんの不機嫌そうに寄っていた眉間のシワが緩んで私もつられてホッとする。不機嫌だったわけじゃなくて、緊張していたんだろうか。

「お姉ちゃん」
「ひえかわいい」

 私の許可を得て嬉しそうに目を見て発した哀ちゃんに思わずいつもの悪い癖が出てしまって申し訳ない。哀ちゃんのせっかくの可愛らしい笑みを呆れの表情に一転させてしまって心の中でものすごく反省する。でもだってすごい可愛かった困る。

「僕の時よりすんなり受け入れましたね? 僕なんか身内枠ですらない、友達を受け入れてもらうのに随分かかったのに」
「ひえすみません」

 ずっと見守ってくれていた降谷さんの声が頭上から降ってきて反射的に謝罪の言葉を口にした。それとこれとは話が別ではないでしょうか許してください。これからも頑張りますので許してください。
2019/11/21


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