「本当に受け取らないよな」

 俺ですら知らぬ間にロッカーに入っていたそれらを抱えているのに、松田本人にも渡せず、机やロッカーにも隙一つ与えない徹底した姿にほんの少し呆れてしまう。気持ちはわかる。どうせあのお姉さんとやらの為なんだろう。理由なんて聞かなくてもわかる。それは俺たちだから知っていて、わかるだけで、毎年それを知らない女の子たちが見事に当たっては砕けている。可哀想だ。いや誠実なのかな。応えもしないのに受け取る俺の方が、女の子達にひどいことをしているんだろうか。応えられないなら目の前の一途な男のように断るべきなんだろうか。そっちの方が優しいんだろうか。なんて、俺にはわからない女の子の気持ちを考えてへらりと笑う。

「俺ァあの人からのチョコが欲しいんだよ。百個集めたところであの人からもらえねえんなら意味ねえ」
「すっごい最低なこと言ってるからね、お前。陣平ちゃんがお姉さんを好きなように、あの子達もお前のこと好きなだけだから。お前だってフラれる気持ちはわかるだろうよ。あと百個の計算は自意識過剰だバーカ」

 お姉さんからチョコをもらえなかったことを拗ねているのか尖りきった言葉に苦言を呈せば唇をへの字に曲げてさらに臍を曲げた。めんどくせえ男だな本当に。思春期真っ只中の子どもか。いやまあ、そうか。初恋のお姉さんをずっと思い続けてるんだもんな。真っ只中か。

「フラれてねえ」
「いやお断りされてるだろ。お前が頑張ってストーカーぎりぎりのところ攻めて、お姉さんがぽわぽわしてっからなんとかなってるだけで」
「るっせ」

 真っ只中の男は拗ねて精神年齢まで下がったのか言い返し方までもが子どもだ。子どもだから、思いつかないのだろうか。大人になりたがるのは子どもだからだ、なんて背伸びしていた頃に言われたことがある。そんなことはない、とあの時は反論したけれど、事実、そうだ。二十歳を超えて、酒は飲める年齢になったけど、まだ大人になれている気がしない。いつになったら、大人になれるんだろうか。わからないけど、目の前の拗ねている男よりは大人だと思う。たぶん。

「なんで貰うことばっか考えてんの?」
「あ?」
「あげりゃいいじゃん」
「は?」
「陣平ちゃんが、愛のこもったチョコをお姉さんに、あげればいいじゃん」

 眉を顰める松田を指差し、お姉さんの住んでいる家の方角を指差し、言い切った。ぽかん、と間抜けに表情を歪めたのを見てケラケラ笑う。

「まあ今からじゃ手作りも無理だろうし、既製品の愛のこもったチョコだって値崩れしててかっこつかないだろうから、薔薇の花束でも渡しに行けば? そしたらホワイトデーにお返しはくれるかもじゃん。義理だろうけど」

 目から鱗が出る瞬間を目撃した。ぽつりと付け足した余計な言葉は耳に入ってなさそうだけど、バレンタインデーという素晴らしき日にふさわしい表情にはなったなあ、と小さく笑った。

2021/05/20


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