「君に何かあってもすぐ探せるように」
「……これ」
「GPS付き腕時計、急拵えだから君の趣味に合わなかったらごめん」
ぱか、と箱を開けるとシンプルでどんな服でも合わせられそうな腕時計が入っていて顔を上げる。
「守ると言いながら監視のような対処法しか思いつかなくてごめん。それにこれだと君が危険な目に遭う可能性を減らせるわけじゃなくて、危険な目に遭った君を見つけられるってだけでなんの解決法にもなってない」
いえそうじゃなくて。いや降谷さんが言ったことはとても大事だ。これを降谷さんが使うときは私は既に危険な目に遭っていて、これをつけたからといって危険から遠ざかれるわけじゃないのはわかってる。それでも、生きてさえいれば降谷さんは私を絶対に助けてくれる気持ちがある。
その気持ちだけで十分うれしい。
でもそうじゃなくて、どうにか考えるよ、と言ってくれたの、昨日の夜ですよね。私の記憶違いじゃなければ昨日の夜。それか私が眠り姫の如く三日ほど眠りこけていたり、しないですよね。
「……これだと危険な目に遭うのが前提だから、危険な目に遭わないような対処法もこれからきちんと考え」
「あ、その、そうじゃなくて」
思わず降谷さんの言葉を遮ってしまった。でも遮ったのは正解だったと思う。だって降谷さん、私が嫌がってると思ってる。監視されることに戸惑って固まってしまったわけじゃない。
「……寝ました?」
「……寝た」
うそだあ。思い切り顔を歪めてしまって、降谷さんを内心でも嘘つき呼ばわりしてしまった罪悪感に複雑な気持ちになる。いや、でも、うそですよね。寝てないですよね。
「なんだそっちか……俺はてっきり気持ち悪がられたのかと……というか好意を寄せる男からGPS贈られて気持ち悪がらない君がこわい……俺は君に嫌われたくないのにこれしか思いつかなくて苦渋の決断で渡したのに、……相変わらず俺の心配ばかりする」
私だってこれが降谷さんじゃなければたとえ善意からのGPSだったとしても嫌な気持ちになったと思う。でも降谷さんは本当にただ私を心配してくれているし、降谷さんの正義を疑う気持ちなんて微塵もない。
「俺のことを知ってるなら目的のためなら違法なことにも手を染めることくらい知ってるだろ」
くしゃりと乱暴に前髪をかき上げないでください。呆れたように笑わないでください。ちょっと美しすぎて話の内容飛ぶかと思った。というか確かに降谷さんは違法なことにも手を染めてるけど、私利私欲で動いてるわけじゃないし、そんなに卑下しなくったって降谷さんの周りにいる人達は降谷さんを信じてるのに。
「……君にそういう心配をするだけ無駄か」
「そうですね……正義を信じてるので……」
「うん、……あと君いつもの調子取り戻しちゃったな」
あーあ、とわざとらしくため息をつく降谷さんに首を傾げる。いつもの調子とは……。
「君今さっき俺に見惚れて話半分だっただろう」
「うっ」
「まあそういうところが君らしくていいんだが……あーあ、しばらくは俺優勢だと思ってたのにな」
「え、あ、その、」
優勢だの劣勢だのの話になってしまうと下手に言い訳もしにくくなってしまって口籠る。こんなふうになってしまっている時点でどこが私優勢なんだろうか。
そんな表情が滲み出てしまっていたのか、降谷さんが肩をすくめて口を開いて覚悟する。
「先に惚れた方の負けって言うだろ」
覚悟なんて意味がなかった。
「……ところでこれ麻酔銃付きですか?」
「は?」
「ごめんなさい今のは忘れてください」
2020/07/07