大学に入学して、高校に進学して、二人とも時間に余裕ができて登校時間も似ているのか会話することが増えた。もちろん名前を度々呼ばれてびくびくしてる。やめてほしい。完全にからかってるよね。

「なんで今日そんなオシャレしてんの」
「あー……発表会的なものがあるから。オシャレっていうかいつもが適当すぎるからちゃんとしてるだけだけど」
「……デートかと思った」
「そんなめんどくさいことしないよ」
「めんどくせえの?」
「松田くんもめんどくさいって言ってたじゃない?」
「そうだけど」

 まあ松田くんのめんどくさいとわたしのめんどくさいは種類が違うけど。松田くんは言い寄られるのがめんどくさい。わたしは言い寄りに行くのがめんどくさい、だから。言い寄りに行きたいなと思う人も今の所はいないし。

「好きなタイプとかねえの?」
「ええ……なんだろう。ちゃんとしてる人かな」
「……意味わかんねえ。優しい人とかありきたりなこと言われた方がまだ納得する」
「え、大事だよ。ギャンブルとか犯罪行為に走らないとか怒鳴らないとか人を大事にするとか、当たり前のことをちゃんとできる人っていそうでいないもの」
「……変な奴にばっか今まで引っかかってきたのか?」
「違いますー。今のところ恋人いたことありませんー」

 まあこの世界を知ってるからこそ出てくる言葉なのだけど。今のところ犯罪に巻き込まれたことはないけどいつ巻き込まれるかわからない世界だし、そんな世界だから普通の人が少ないんだろうなという絶望感もある。加害者にならないのはもちろんのこと、せめて被害者にならないようにちゃんと生きていきたい。たまにただの逆恨みもあるからそれからはどう逃げたら良いのかわからないけど。

「ふうん。意外とモテそうなのにな」
「意外とは失礼だね。まあ松田くんと比べると全くモテないけど」
「……好きじゃない奴にモテても仕方ねえし」
「それはまあ、仕方ないよね……人の心はどうこうできないし。まあいずれ素敵な子と両想いになるはずだから」

 天国で、は嫌だから、どうにか助けてあげたい。高木くんはその場合どうなるんだろう。うーん。恋愛なんてどうなるかわからないからとりあえず生きてくれるのを目標にしよう。そしたらまずは松田くんより萩原くんなのだけど。接点がないからなあ。

「……相変わらず俺のことガキ扱いしてくるな」
「えっ今のも子供扱いだった?!」
「眼中にもねえって感じだった」
「わたしの眼中にないんじゃなくて松田くんの眼中にないって方だから安心して」
「……はー」
「そういえば新しい高校、お友達たくさんできた?」

 この話題は思春期があまりなかったわたしには難しいからとわかりやすく話題を変えた。

「まあ、たくさんはできてねえけど。ひとり気の合うやつがいる」
「100人友達作るより、ひとりの親友だよ」
「……親友ではねえかな」
「これからだって」

 それ萩原くんだったりしない?とは聞けない。気味悪がられてもいやだし。

「お家とかで遊んだりしないの?」
「その点だけはすげえしつけえ」
「お家で遊ぶの嫌なの?」
「別に嫌ではねえけど……」

 じゃあよんでみたら、なんて軽々しく言う。一回教えたら全力で遊びにくるような子なんだろうか。でもそういう、人の気持ちを推し量れない子なら松田くんはそもそも仲良くなったりはしなさそうだし。

「あんたはあんまそういうのねえな」
「家の中に他人呼びたくないタイプなんだよね」
「……意外だな」
「そう?」

 わりと妥当だと思うんだけど。めんどくさがりだよ?

「……松田くんは嫌じゃないタイプなんだし一回くらいおうちで遊んでみたら?」
「気が向いたらな」
「うん」





────────

 ばちり、と視線があってしまって固まる。多分この子あれだ。萩原くんだ。どうしよう。あまりにもばっちり視線が合いすぎてそのままスルーするのも問題な気がしてとりあえず会釈する。人に好かれそうなにっこりとした笑顔で手を振られて思わずチャラいと思って少し笑ってしまった。瞬間、がちゃりと玄関を開ける音がして松田くんが出てきて松田くんとも目が合う。ぎょっとした表情でわたしと萩原くんを見比べてなぜか萩原くんを思い切り叩き出した松田くんに今度はわたしがぎょっとする。

「ちょっ、えっ、ま、松田くんあのどうしたのお友達に訳もなくいきなりそんなことしちゃダメだよ」
「訳があっても叩いちゃダメだと思うよお姉さんイテ、ちょ、まじでいてえごめんって!」
「うっせえ! だから嫌だったんだよ……もう2度と呼ぶか帰れ」
「あっ、ご、ごめんね、そうだよね、男の子同士で遊ぶのに近所のお姉さん出てきたらやりにくいよね、ごめんね。でもわざとじゃなくて、宅配便がちょうどきちゃって……ごめんね」
「……またガキ扱いしたな」
「子ども扱いじゃなくて男の子扱いだよ……わたしにはわからない男の友情に水を差しちゃってごめんね」
「……てかあんたは悪くねえから。こいつが女と見りゃちょっかいかけるタイプだからムカついただけだから」

 えっそんな子だったっけ。警察官になるくらいだからチャラいはチャラくてもそんな悪い子じゃないはずでしょ。でも松田くんから見たら女の子に声かけるだけでそう見えるのかもしれない。松田くんは自分から女の子に関わらないタイプだもんね。なるほど。ものすごい対極的なふたりだなあ。

「おねえさんも一緒に遊ぶ?」
「てめえは締めっぞコラ」
「えっと、邪魔してごめんね、楽しんでね」
「振られちゃった」





────────

「あ」

 おねえさんだーとまたにっこり微笑まれてしまった。仲良くなったなあ。もう2度と呼ばねえだのなんだの大騒ぎしてたのにもう結構遊んでるよね。いや盗み聞きとかでは決してないんですけど、窓とか開いてたら聞こえちゃうんだもの。会話の中身は聞こえないけど楽しそうに騒いでるのが。
 なのに今日はなんでそんなに静かだったんですか。いないものと思って空気の入れ替えしようと思い切り窓全開にしたらなんだか窓辺で黄昏てた萩原くんとかちあってしまった。恥ずかしい。寝巻きじゃなくて良かった。

「こん、にちは」
「こんにちはー。こここんなに距離近いんすね。松田ともこんな感じで喋ったりするの? リアル少女漫画じゃん」
「……いや、わたしもびっくりしてるよ。ここ人が顔合わせるとこんなに近いんだね。はじめて知った」

 隣の席みたいな距離の近さじゃん。隣家が近いのは知ってたけど、思春期の男の子がいる家だし極力窓は開けないようにしてたしカーテンだってずっと締め切ってた。わたしは構わないけど松田くんが嫌がるかなって。思春期だし。

「あれ、松田くんは?」
「飲み物とってきてくれてるー」
「そっか。静かだったからいないと思って勢いよく開けちゃってごめんね」
「今日は勉強してたから。もしかしていつもうるさい?」
「ん? そんなことないよ。楽しそうだなーって微笑ましいだけ。それにしてもえらいね、勉強会かあ」
「持ってきた……ってオイコラお前本当ふざけんなよなんで毎回お前ばっか」
「まっ、ちょ、松田くん、叩いちゃダメだってば! わたしがいるのわからなくて窓あけちゃったんだから怒るならわたしだよ!」
「あんたはいいんだよ!」

 飲み物を持ってきて戻ってきた松田くんがものすごいスピードで飲み物を机に置いたかと思えばまた萩原くんをべちべちと叩き出して慌てる。松田くんほんとごめん。思春期なめてたほんとごめんって。

「俺がおねえさん独り占めしてたのが原因だから気にしないでイテテテテいてえよばか!」
「うるっせえ! ばか!」

 あわわと慌てふためくことしかできなくて困る。

「あ、あ、勉強! なんの勉強してたの?」
「ナイスおねえさん!」
「……警察、なりてえからそのための勉強」
「警察官になるの? わあ、すごいね。似合いそう。小さい頃から正義感強かったしわたしのことも守ってくれたしぴったりだね!」
「……別に」
「ふーん」
「きみも一緒に警察目指すの?」
「うん」
「頑張ってね」
「ありがと」

 名前すらも聞けてないから忠告なんて。忠告してもなんだこの女の人ってなりそうで怖い。だけど、だけどもう今しかないんじゃないか。

「すごく昔に映画か何かできみたちみたいな警察官を見たけど、きみたちは長生きしてね」
「は?」
「ものすごく天才でやり手のバディだったんだけど、爆弾解除でイェーイ余裕だぜーって防護服着ずに挑んだら遠隔操作でどーんって爆発して殉職……とかあったからさ。映画とかだと盛り上がるための演出だけど、実際に顔知ってる子たちがそんなことになるのはいやだからね」
「警察ってそんな物騒なもんじゃねえだろ」
「ええー。松田くんは優秀だから爆弾とかも解除できそうだもん。ルービックキューブも得意だし」
「……だからあれはやり方知ってたら誰でもできんだって」

 言っちゃった。忠告しちゃった。でもちょっと無理やりだったかもしれないけど話の流れ的には自然でしょ? 自然だよね? でももうこれ以上はできないから。あとは口酸っぱく言って祈るしかできない。

「……おねえさん用心深いね」
「そうかな。警察なんて危ない人相手の職業、どれだけ用心してても悪いことにはならないと思うよ。警察を恨む悪者だってたくさんいるだろうし、普通に生きてく人よりもっと警戒して生きてかなきゃいけない大変だけど立派な職業だと思う。頑張ってね」


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