「……おっと、よく黄昏てるね」

 こんにちは、と言いながら苦笑する。エンカウント率が高い。そこ松田くんのお家なんだけどな。

「勉強苦手でさあ。松田がいないときはサボってんの」
「まあ息抜きも大事だからね」
「注意しないの?」
「わたしよりお勉強できそうな子たちに言うことはないっていうか……。まあでも警察官になったら本当に用心だけはしてね、って思う。警察の服を着るだけで悪い人達に狙われちゃうからね」
「それはこの前聞いてハッとした。気をつけるようにする。油断しない。ありがとね」

 あ、松田くんが戻ってきた。と思ったらまた前と同じく萩原くんを締め出して慌てる。どうしてそう喧嘩腰なの、仲良く勉強してたんでしょうに。萩原くんが勉強サボってるのバレたのかな。……いやこんな窓際でわたしと会話してたんだからバレるね、そもそも机から離れてるもんね。そりゃ怒るか。

「お前マジでタイミング悪すぎて逆に哀れになってきたわ」
「うるせえよ。なんでお前ばっか。この」
「……仲良しなのかそうでもないのかよくわかんないねぇ。男の子の友情ってわかんないや」
「これはわからなくていい」
「バレたら恥ずかしいやつだもんねー」
「追い出すぞコラ」

 ふふ、と笑った瞬間、電話の音がなる。邪魔してごめんね、と謝って電話を手に取ってみれば嫌な人からで眉をしかめる。はあ、本当にしつこい人だなあ。いい加減警察に行っちゃうぞ。まあ行ったところで何も実害がない今何もできないんだろうけど。
 そうだ、とてのひらで震える携帯から松田くんたちへ視線を向ける。この良い声ふたりが協力してくれれば撃退できないだろうか。声を聞いただけで完全にイケメンなら諦めてくれないだろうか。不思議そうな顔をするふたりに、だけど言うのをやめる。いくら未来のおまわりさんでも今は庇護すべき子どもだ。年上のわたしがそんな迷惑をかけることしちゃだめだね。ちょっと参ってたのかもしれない。そうだ切ろう。律儀に相手をするから付け入られるのかもしれない。

「出なくてい」
「えいや」
「い、のか…………。……それ、出なくていいやつなのか」
「うん。出なくていいやつなの」
「……なんか困ってんなら力になるけど」
「何も困ってないよ」
「もう騙されねえぞ」
「……一瞬、泣きそうな顔してたよ、おねえさん。俺たち未来の警察だよ。俺には言えなくても松田には言ってあげて。今日は帰るわ。なんか俺も手伝えることあったら言えよ」
「おう、またな」

 絶対逃がさない、そんな目で見られてしまえばもうお手上げだ。萩原くんも大人すぎる。ふたりのきもちに感謝しながらまごつく口をどうにか開いた。

「ちょっと、ストーカー的な」
「……ストーカーにちょっとも何もねえよ。知り合いか?」
「知らない人。いや、顔は見た事あるんだけど、店員さんで、たぶんカード作るときの資料でかけてきてる」
「普通にダメなやつじゃねえか」
「ちゃんと断ったんだけど、彼氏いないならいいじゃん、ってしつこくて」
「……わかった。次電話かかってきたら俺にかせ」
「……うん、ごめんね」
「被害者が謝ることなんざひとつもねえだろ」
「ありがとう」
「……解決したらまた言ってくれ」

 うん、と言おうとしたらまたてのひらで震える携帯にびくりと肩が揺れる。ちょっとびっくりした。こんなに早くかけてきたのははじめてだ。

「さすがストーカー。しつけえな。貸して?」
「はい、あの、よろしくお願いします……」
「任せろ。……もしもし? あ? そりゃこの電話使えるんだからそういう関係だろ。人の女に手出すとか度胸あんな。てか職権濫用だろ? 訴えたらどうなんだろうな? まあ彼氏になれたのもある意味あんたのおかげでもあるから今度礼しにいくわ。覚悟して待ってろよ、じゃあな」

 ぶちっ、と音が聞こえたかのような遮断に目をぱちくりさせる。というか、撃退のためとは言え色々と心臓に悪い言葉がたくさんあった。人の女とか、松田くんがいうととても色気がある。恐怖のどきどきがどこかへ飛んで行って、代わりに違う意味でどきどきしてしまった。

「……演技、上手だね」
「……。典型的な女にだけ強いタイプの男だったから畳み掛けた。まあ一応今度その店教えてくれるか。顔出してくっから」
「ありがとう。……お友達にも今度お礼言わせてね」
「あんた萩原のことお気に入りだよな」
「萩原くんっていうの? いやお気に入りって、事案……いやそうじゃなくて、なんだろう、あの子しっかりしてるようでしっかりしてなさそうだから見てて心配っていうか」

 わりとエンカウントを重ねていた割に名前を聞いたのははじめてだったりする。というか名前教えてくれて助かりましたありがとう。いつボロが出てしまうか心配だったんだよ。

「……まあ、それはわかるけど」
「でもそんなこと思うのも失礼だったね。わたしのことふたりで気付いてくれたもの。未来のおまわりさんは伊達じゃないね」
「いやあれは誰でも気付くレベルであんたの顔がやばかった」
「そんなやばい顔してた?」
「……死にそうな顔してた」

 そんなに?と笑いそうになるけど、心の奥じゃそれだけ怖かったのかもしれない。この世界じゃ殺されないことばかり心配して、命を狙われてるわけじゃないから大丈夫とごまかしていたけど心の奥底では怖かったのかもしれない。

「そっか……、ごめんね心配かけて」
「……さっきも言ったけど被害者のあんたが謝る必要はない。それより、どこの店だ? あんたも一緒に行くか? 怖いなら俺一人で見てくるから」
「一緒に行く。……ごめ……、ありがとうね」
「うん」






────────

 早い方がいいと次の日の朝から松田くんと時間を示し合わせて例のお店へと向かうことにした。

「手ェ繋ぐか? 腕組むとかでもいいけど」
「……腕で。あの、ごめんね」
「いや、これは本当に謝らなくていい」

 お店までは普通に歩いていたけど、お店の最寄駅に着いた瞬間松田くんがきちんと彼氏のふりをしなきゃいけないと提案してくれて腕を組むことを選んだ。ものすごく近くて緊張するけど、手だと絶対に汗とかかいて申し訳なくなるし、それに、やっぱりちょっとあの人と対峙するのは怖いから腕にしがみついて恐怖を緩和させたい。
 身長がいつのまにか抜かされていたのは気付いていたけど腕を組むと体格の差がすごく感じられて大きくなったなあと松田くんを見上げる。かっこいいなあ。近いなあ。
 なんて、松田くんのかっこよさで誤魔化してもとうとうお店の前までついてしまった。ちょっと怖くて足取り重くなってしまって予定してた時間より遅くなってしまって松田くんには歩きにくい思いを無駄に長く感じさせてしまって申し訳ない。

「……どいつ?」
「あの、人」
「ふうん。逃げなかったんだ」
「あの、無茶は、しないで、ね?」
「あんたに迷惑かかるようなことはしない」

 元はと言えばわたしの問題なんだからそれはいいんだけど、本当に乱闘騒ぎにでもなったら松田くんに迷惑がかかるから心配。警察官になるのに、いくら正義のために戦ってくれたとはいえ少しでも迷惑になったらと思うとそれがこわい。

「よぉ。電話ぶりだな。……店長呼んでくれっか?」
「ヒッ」
「あの、お客様、うちのものがなにか……?」

 ひっ、て言いたいのは私の方のはずなのに、やっぱり松田くんの威圧オーラとイケメンオーラと彼氏のふりは強烈に効いたのかストーカー男が顔を引きつらせていて逆上するようなタイプじゃなくてよかったとホッとした。これなら話し合いだけでなんとかなりそう。




────────

 あれからスタッフルームに通されて、ストーカーの親まで呼んでくれて、一番年下なはずの松田くんの独壇場で全てのことが終わって呆気にとられる。本当に、呆気なかった。ストーカー以外がまともな人ばかりだったからというのもあると思うけど、やっぱり松田くんの手腕がすごいからここまで綺麗に解決したんだと思う。
 気が抜けたけど、抜けすぎて思うように歩けなくなったわたしのせいで公園のベンチに腰を下ろして改めてお礼を言う。

「本当にありがとう」
「あんたを守るのは当然だけど、こういうことをやらかすやつは次ももしかしたらやるかもしれない。もう2度と個人情報は扱えないようにしてくれって頼んだだけだよ」
「……やっぱり、すごいね。ありがとう。わたしだけじゃなくて、後の女の子たちのことも考えてくれたんだ」
「バイトはやめりゃ終わりかもしれねえから親はまともそうだったからこれからは見張ってくれるだろ。逆恨みで何かするようなタイプではなかったからいけたけど、もしかしたら逆上してなにかしでかすタイプのやつもいるしもし次にまたこういうことがあっても、前は話し合いで穏便に済んだからなんて思わずに絶対に俺に言えよ」
「……流石にそう何度もストーカーされたりしないと思う」
「あんた誰でも受け入れてくれそうな優しそうな感じしてるから変な奴に目つけられそうなんだよ」
「……優しくないんだけどなあ……。ちゃんと断ってるのに……」

 まああいつらは都合のいいように解釈する別の生き物だから、とさらりと毒を吐いた松田くんに苦く笑う。となりにある自販機から飲み物を買ってくれて手渡してくれた松田くんにお礼を言う。今度何かお礼しなきゃ。

「面倒そうなやつに声かけられたら俺がいるって言っとけ」
「松田くんにそこまで迷惑かけられないよ。彼女ができた時とか困るでしょ」
「……彼女にしたいやつに言ってるからいいんだよ」
「えっ」
「……ほんと、眼中にもねえんだな。どうせフるだろうから今は返事するな。今から意識して、そんでちゃんと考えてくれ」
2019/04/23


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