「えっひげ」
「……は?」

 思わず出てしまった声を慌てて手で隠す。

「……もしかしてだけど、これのことか?」
「あ、いやその、ごめん」

 ざらり、なんて音は聞こえないけど、きっと松田くんが今触れた場所はそんな感触がするんだろう。

「ガキ扱いやめてくれたと思ってたんだけどな」

 子ども扱いはやめたつもりだった。それでも、それでも画面越しに見ていた大人のあなたも、そんなもの生えてなかったから。

「……俺もあんたと同じ人間なんで、成長するしヒゲも生える。ただかっこつけたいからあんたと会えるかもなって思って窓開ける前は家の中なのに外行くより気合入れてただけだ。……けどまあ、結果オーライだからいいか」
「結果オーライ」

 思わず鸚鵡返ししてしまった。だって何を言っているかわからなかった。話すたびにそれに目がいってしまって話に集中もできない。

「男として意識してくれたっぽいからな」
「お、女の子もひげは生えるよ」
「いやあんたと違って知ってっけど? 俺はあんたのこと好きだけどあんたのこと人間だってわかってるし。男として意識した、ってのが嫌なら、人間として意識した、って言い換えてやるよ。そもそもただの言葉の綾だしな。あんたと俺の性別がどうだろうと俺はあんたのこと好きになるし」

 わたしの精一杯の反論はなすすべもなく打ち砕かれて口を噤む。

「あといい加減目ぇ見て話せ?」
「ご、ごめん」
「なに、ヒゲ好き? 生やすか?」
「や、やだ」
「……ふぅん」

 にやり、と笑われてまたざらりと顎を撫でる松田くんがなんだか、なんだか、……なんだかわからないけどこれ以上その姿を見るのはよくないと本能が察知してぴしゃりと窓を閉めてカーテンまで閉めてしまった。
 あまりにも失礼すぎるその態度に怒られるかもしれないと固まってしまったけど、窓を閉めているにも関わらず聞こえた松田くんの楽しそうな笑い声に肩が揺れる。
 怒って、ない?
2019/08/13


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