そう思っていたのに彼女とは全く会えなくて。たまに視界の端に彼女のような人影が映ることもあったけど、そういう時に限ってポアロは大繁盛だったりして彼女に声をかけることができない。そもそも今は安室透としてこの町にいて、彼女になんて説明をすればいいのやら、なんて本人を目の前にすればそんなの頭からすっぽぬけていた。

「どうしました?」

 どこか暗い顔で歩いている彼女を見つけた瞬間何も考えず話しかけてしまっていた。

「こんにちは」
「こんにちは。初めまして、安室透です。今日の予言はなんですか?」

 そしてつい、匂わせてしまう。公安失格だと思う。だけど未来が見える預言者に隠し立てしたって仕方ない。
 名前が変わったことに全く動揺しなくてニコリと微笑むだけでやっぱり彼女は預言者だと確信を得てしまう。ヒロにこんなこと言ったら思いきり頭を心配されそうだ。
 だけど彼女はどこかぼんやりしていて、いつもの俺への顔に対する不思議な言動もしない。流石に見慣れたのかと納得はするがなんとなく寂しい。
 そして今更顔色が蒼白なことに気付いて目を見開く。恩人に会えて完全に浮かれていた。

「……大丈夫ですか? 具合でも?」
「いいえ、睡眠はばっちりですよ。仕事と睡眠しかやることないので」
「は?」

 おかしな言動はいつものことだ、だけど今日のはいつものとは違う気がする。そんなことがわかるほど、彼女と交流はないが、なんだか違う気がするんだ。
 体調が悪いのかと聞いてもそうじゃない、睡眠も食事も取ってる。健康的な生活を送っている、そう答えられても目の前の人は今にも倒れそうなほど苦しそうで見ていられない。

「でもものすごくつらそうですよ」
「……母に、会いたくて」
「え」

 食い下がれば重い口を開いてくれたが言われた理由に固まる。会えばいいじゃないか。県は跨ぐが日帰りで帰れる距離に住んでいるだろう。家族仲も悪くないだろう。調べたせいで知っているそれを言いそうになる程、不思議な理由だった。急に病気にでもなったのか、いや違う。なら喧嘩でもしたのかと、そんなわけないだろうと思いつつ言えば途端に怯えた表情を見せた彼女に目を見開く。

「……僕が一緒に謝ってあげますよ」
「……私が悪いことしたの前提なんですか?」

 4人もの命を救った人がまさかそんな喧嘩なんてするはずないと思いながらも言えば小さく笑われて焦りつつもホッとする。

「あの、ええっと、こわがってるように見えたので、」
「安室さん、一緒に謝ってくれなくていいので、隣で見守ってくれます?」
「え、も、もちろん」

 どこか覚悟を決めた表情で、かばんから携帯を出したかと思えばまず電源をオンにするところからはじまって驚く。そこまで。
 母親はすぐにでてくれたらしく、すぐに彼女の顔が泣きそうに歪んだ。声も震えていた。なぜ。

「私の知らない私のこと、教えて?」
「え」

 そして繰り出された質問に今度こそ声が漏れてしまった。
 何かを確認するにしても共通の話題でなければ確認できないのに、なぜわざわざ私の知らない私のことを教えて貰う必要があるのか。意味がわからなかった。そのうち帰るねと電話を切った瞬間堰も切れたのか涙が止まらなくなった姿にも驚いた。何もかもがわからない。ハンカチを頬に当てて涙を拭いながら考えても考えてもわけがわからなかった。
 大丈夫だとしか言わなくなった姿に、大丈夫じゃないだろうと詰め寄りたくなる。本当に、どうしたんだ。

「いいえ、もう解決したんです。エセ預言者も引退です」
「え」

 涙が止まったかと思えばまた彼女のお告げが始まって固まる。終わり、というお告げが。

「もうこれ以上なにもできないんです」
「……」
「あなたにはきっと下手な誤魔化しも、嘘も、通用しないのはわかってるからこそ正直に言います。もう、なにもわからない。なのでもうこれで最後です」

 預言者という推測は正しかったのだろう。彼女は俺のことを知りすぎている。俺の周りのことも。だけどもう終わりだという。彼女の言葉はわけがわからないことが多いけど、嘘はついていないことはわかる。だからきっと、もうわからないというのは本当なのだろう。だけどこれで最後というのは意味がわからない。

「……別に、何かを聞きたいからあなたに近付いたわけではありませんよ」

 情報が欲しいから声をかけたわけじゃない。そりゃ、また何か予言をしてくれるならありがたく聞くが俺たちは警察なのだから自分たちで捜査して、自分たちで解決する。声をかけた一番の理由は、恩人にお礼を言いたかったからだ。予言が終わるからって最後にする必要はないだろう。

「近付いていたのはいつも私からですよ」

 肩をすくめて言われた言葉に、それは、と言葉を詰まらせる。
 だけど、彼女はいつも予言をするくせに、未来が見えるくせに俺と会う瞬間はいつも驚いていた。未来が見えるなら俺と会うタイミングだってわかるはずなのに、どうしていつも驚くんだ。
 俺が何かを聞きたいから君に近付いたわけでもないし、君も、俺に近付こうと思って近付いたわけじゃないんじゃないか? 結果的に予言はしたけど、君から近付いたわけでもないんじゃないのか?
 君は一体なんなんだ?


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