「引っ越し? なぜ」
「なぜ、と言われても。もうここにいる必要もなくなったので」
「予言が終わったから?」
まあ、そうですね、と曖昧に微笑む。降谷さんはもう私のことを預言者として扱うことに決めたのか安室さんの名前で呼ぶようにとは言われたけど周りに人がいないときはほぼ降谷さんの口調だ。
最後に会った日はあまりに私が具合悪そうに見えたようであれからすぐに家に送り届けてくれた。緊張の糸が切れたんだと思う。申し訳ないです。でもやっぱり降谷さん私のこと調べてたんだなあ、私の家あっちですともなんとも言ってないのに先導して送ってくれたもの。疑わしいものは調べる、それが降谷さんのお仕事だし別に気にしてはいないけど。
でもだからって面と向かって事情聴取のように根掘り葉掘り聞かれるのは困ります。
だってこの町が怖いから離れますなんてこの場所を守ってる降谷さんにはとても言えない。でも黒の組織関連が解決するまでこの町はやっぱりただの一般人には危険だと思うのですぐさま離れたいです。今まで夢だと思っていたからなんとも思わなかったけど、こっちが現実だと覚悟を決めたからには自衛もいろいろしなければ。まずこの町から離れる。それが一番の自衛だと思う。たぶん。
「嘘だろう」
「歩く嘘発見器ですか」
「これくらいあなたが助けた奴ら全員わかる」
「ええ……」
優秀すぎて最早引く。それにしても、あなたが助けた、なんていうと大層なことをしたように思えるかもしれないけど、私はその時夢だと思ってたわけで、結局命大事にを周りに広めてくれたのは降谷さんだし、私はほとんどなにもしてないのになあと苦く笑う。松田さんだって萩原さんが生きてたから頭に血が上ってなかった結果ダブルエースの実力で助かったわけだし、景光さんだって降谷さんが冷静になれたからで、あれから結局どうして解決したのかは私には想像もできないし、伊達さんは、……伊達さんだけは頑張ったなあって自分を褒めてもいいような気がするけど、でも腕を引っ張ることしかできなかったし。
「私はなにもしてないですよ」
だからこれは謙遜でもなんでもないのに。
「なにもしてなかったらあいつらは生きてない。そうなんだろ?」
「……いやそんなことないですよ」
「……」
「……」
歩く嘘発見器すぎて気まずい。私の嘘が下手すぎるのか、降谷さんが規格外すぎるのかどっちなのか気になるところ。
「どうしてそんなに頑なにここを離れようとするんだ」
ここが米花町だからですよと言えたらどんなにいいか。
────────
目を覚ませば現実世界だった。あんなにみっともなく人前で泣いて、覚悟を決めたのに拍子抜けだった。だけどやっぱり嬉しくて、お母さんに速攻で会いに行って泣きついた。どうしたの、と夢の中のお母さんのように何も聞かずに優しく包み込んでくれるお母さんに何も言えずにただただ泣いた。
────────
頑なに引っ越そうとする彼女をみっともなく問い詰め続ける。最近は会うたびに引越しをやめてくださいと言うものだからか彼女に避けられはじめた。せめて理由を言ってくれれば納得するのに、あるはずの理由を教えてくれないから余計に納得ができない。俺が嫌いになったとかそういうものなら言いにくいのもわかるが、彼女が親と電話して号泣してスッキリしてからはまた俺の顔を見て、はわ、だの、ひえ、だの反応を示すようになったからそんな理由ではないのは誰が見ても明らかだ。別に予言が終わろうと続こうと近くにいればいいじゃないか。
ずっと同じことばかり考えてしまうのを無理矢理止めて顔を上げれば心の中で噂していた本人を見つけて近付く。
「こんにちは」
「こんにちは」
にこりと返事をされたけどいつもの反応がなくて首を傾げる。今度こそ慣れたのか? いやそれにしても唐突な。
「今日も観光地巡りですか?」
「え? 観光地巡りって……私ここに住んで十年以上ですよ? 何を観光するんですか。ふふ、おかしいですね」
「え?」
くすくすと笑う彼女に固まる。俺は彼女の言葉を引用しただけだ。
「この間、観光するってあなたが言ったんじゃないですか。僕も面白い言い方するなって思いましたよ」
「……そんなこと言いましたっけ?」
本当に不思議そうに首を傾げて考える姿に眉根を寄せる。意味がわからない。
「悩み事は解決しましたか? いつでも相談に乗りますよ。引越しのこと以外なら」
「悩み事……? 何もないですし、……引越し、は予定もないですよ?」
「……今日の予言はなんですか?」
「? なんですか、それ。私、占いはできないですよ」
お前は誰だ。
2019/04/23