「……緩く見えて締めるところはきちんと締めるよな」
しまった、と思ったあとではもう遅い。見た目でとやかく言われるのが嫌なのは自分が一番よくわかっているはずなのに。
「俺が死ぬと陣平ちゃんが結婚できないんだよね」
「は?」
「なんだそれ」
だからといって謝るのもそれはそれで違う気がして罰が悪く閉ざしていた口がぽかんとあいてしまった。突拍子のない返事。意味のわからない返事。右隣に座る松田を見ればむっすりと機嫌が急降下していて、だけど目の前に座る萩原相手に怒っているわけではなさそうだった。左隣に座るヒロは不思議そうに首を傾げて、萩原の隣に座っていた伊達も疑問を声に出していた。俺は相変わらずなんとなく罰が悪くて不思議な返答を問いただしたいけど言葉が紡げない。
「陣平ちゃんの好きな人がちょっと特殊な人でね」
「どういうことだ?」
訳がわからん。と実直な伊達が素直に続きを促してくれるのがものすごく助かる。
「言っていい?」
「そこまで言ったんなら全部言えばいいだろ」
はん、と最大級に機嫌の悪そうな松田に萩原は肩をすくめて笑った。
「まあ信じなくてもいいんだけど、陣平ちゃんの好きな人、未来が見えちゃう人らしくて将来俺爆弾で死ぬんだって〜」
「は?」
笑顔で紡がれた言葉にシン、と周囲の空気が冷える。松田はずっとぴりぴりしているし、彼女持ちの余裕からか恋話かと和やかに聞いていた伊達も穏やかでない内容に眉を潜めている。
だけどきっと、冗談のようで冗談じゃないんだろう。
そもそものきっかけの会話が音にするつもりのなかった俺の不用意な発言ではあったが、萩原は締めるときはきちんと締める真面目なやつだという通りそんな萩原がこんな悪趣味な冗談を言うわけがない。
「そんで陣平ちゃんにはそのうち運命の人が現れるんだって。だからまあまずは俺が死ぬ未来を変えてその陣平ちゃんの好きな人に未来は変えられるんだぞコラーってしないといけないの。だから俺、真面目になりました」
真面目になりました、はーと。
内容は真面目に思えたが、言い方が真面目ではなかった。わざとらしいくらい上がった語尾にはーとが滲み出ていた。顔が良くてもきつい。
松田も鬱陶しく感じたのか盛大な舌打ち。
眉を潜めて萩原を見つめる。
爆弾で死ぬ? この男が? そこまで苦痛を感じず一番を極めてきた俺が、ここに入学して世界は広かったと反省するに至った原因の一人であるこの男が、この男の得意分野の爆弾で、死ぬ? 荒唐無稽な話だと思った。でもそれを話した人間が萩原だという事実だけで、真実味が増す。短い期間の付き合いだけれどこの男がそんな悪趣味な作り話をする訳がない。まして二人がかりで。
伊達も、ヒロもそう思ったのかひどく真面目そうな表情で何事かを考えている。
「難儀な恋をしてるんだな」
しばしの間無言になった空間を引き裂いたのは相変わらず一番の余裕が垣間見える伊達の声でみんなの張り詰めた空気が霧散する。多分みんな、考えていることは同じだ。死ぬ気はない。ならばどうすればいいか。もっと慎重に、もっと実力をつければいい。ただそれだけだ。軽くなった空気と伊達の呑気な言葉にみんなが笑みを浮かべる。
「難儀っつーか、馬鹿なんだよあの人」
チッ、と再度盛大な舌打ちと共に吐き捨てられた憎々しげな声に苦く笑う。とても好きな人に対する態度ではない。
「頑張れよ」
「俺を応援したいならお前ら全員何があっても死ぬなよ」
「俺らもか? いや、死ぬ気はないけどさ」
ヒロが笑って松田が睨む。
「俺のダチになった時点で全員が対象だからな」
ぽかん、とさっきとは違う空気に包まれて体温が上がる。たぶんみんなもそうだ。この目つきの悪い、俺が言うのもなんだがあまり他人に懐かないこの男が真っ直ぐ放つ言葉の威力にあわや祭りだ。
「デレがすごいな」
「それ好きな人にやればいいのに」
「お姉さんは陣平ちゃん並に頑ななんだよ……」
「年上なのか」
「うるせえ必死なんだ。お前らもこいつ見張れ」
先程デレを発した口が理不尽な注意を放って、見張られなくてもちゃんと真面目にしてるのにとぎゃんと喚いた萩原に笑いが響いた。
2020/06/01