観覧車の上で乱闘したり、子どもが飛行機にぶらさがったり、重力無視なスケボーさばきができる世界観なんだから、理解して鍛えたらどうなるのか試してみたい。だけど、むきむきにはなりたくない。見た目だってこの世界、磨けば磨くほど光る世界なのかもしれない。そうだ、なら、試してみよう。

「鍛えるのも見た目磨くのも楽しすぎる」
「引くわ」

 そう思って全力で今まで頑張ってきた結果、かっこいいと思っていた男の子から引かれたけど、でもその男の子を助けられそうなくらいには鍛えられたので良しとします。

「どこらへんが引くところ?」

 でもかっこいいと思ってる男の子に引くわと言われたのはやっぱりちょっと悲しいので私がなおせるところがあるなら努力したい。この世界での努力は、見えないパラメータでも存在するのか目に見えて結果に結びつくので好きです。

「……俺より強いところ」
「あー……」

 それは絶対条件なのでなおせない。あなたを連れて観覧車から飛び降りなきゃいけないから。いけるいける。いけるはず。キュラソーさん並みの脚力があればいける。そしてあわよくばキュラソーさんだって助けるんだからね!

「でも、私より強い人なんてそこらにいるよ」
「は? んなもんがゴロゴロいてたまるかよ」

 あと数年して降谷くんに会って前言撤回してくれるのが楽しみです。男がノーカンだと言うのならちょっと時間はかかるかもしれないけど蘭ちゃんや和葉ちゃんや佐藤さんとか、たくさんいるから。いるから。前言撤回してね。

「そもそもなんでそんな鍛えてんだよ」
「好きな人を守るために決まってるでしょ」
「は?」
「なに、こわ」

 絶対零度もびっくりなくらい空気が冷えて驚く。めちゃくちゃ驚いたのは事実なんだけど、私の返事が軽すぎたのか火に油を注いだ気がして内心焦る。今のは怒らせた気がする。意味がわからないけど、怒らせた。それを茶化したかのような返事でさらに怒らせた、気がする。でもなんで怒ったのかそれがわからないから困る。

「……好きな人いるの、そんなに意外?」
「お前がそんなに鍛える必要あるとか、どんなヒョロ男なんだよ」
「いや、普通に強いと思うよ。むしろ世間一般的に考えたら上の方だと思う。そんな人を守ろうと思うんだからこんなに強くなったわけだし、ヒョロ男ではないよ。ヒョロかったとしても別に私が守ればいいし、どっちにしろ変わらないけど」
「……誰だよ」
「いや言うわけないよね」

 それはもはや告白だからね。そもそも最初から伝える気はないし。好きな人だけど、付き合いたいとかそういう感情ではないから。生きてるだけで幸せだから。同じ世界線で生きられるならもうそれは天国だし。あっ死なないです。死なせないです。

「……なんで」
「松田くんは好きな人いるの?」
「は?」
「こわ」

 今日の松田くんは機嫌が最悪すぎてこわすぎる。あと私の返事の軽さがやばすぎる。学ぼう? いやでも言葉が漏れるのは反射だから仕方ない。そもそも私がちょっとアホで軽率なのは松田くんもよく知ってるんだからそこまで怒らなくてもいいのに。頭方面はちょっと鍛えるの難しくて……。前世の分がなんとなく予習になってくれてるおかげでなんとか上の下を保ててる程度だからちょっと頭働かせるのは私には向いてなかったんだと思う。
 私の間抜けづらに腹が立ったのか盛大な舌打ちをして俺のこたぁいいんだよと自分ははぐらかすからずるい。私のことだってどうでもいいんだよ。

「誰だよ」
「だから言わないってば。松田くんが長生きしたら教えてあげないこともないけど」
「は?」
「ねえそれ怖いからやめてくれない?」
「なんで今言えねえんだよ」
「なんで言わなきゃいけないの?」

 言わなきゃいけない理由なんてないから松田くんは黙るしかない。これ以上突っ込まれると困るから思わず遮断するような発言になってしまったごめん。松田くん相手だから仕方ない。別に言ってもいいんだけど、避けられたりすると助けようにも助けにくくなっちゃうし。助けたあとなら別に口が滑っても大丈夫だけどそれはそれで見返り求めてるみたいになりそうだから絶対言っちゃダメなやつかもしれない。もし助けた後に言ったらどうこうなりたいわけじゃないのに助けたんだから責任取れよぐへへみたいに受け取られちゃうかもしれないから。そんな悪代官みたいな真似好きな人にしないよ。
 つまり一生教えられないから結局嘘をついてることになるんだけど。

「……じゃあどんなタイプだよ、そいつ」
「……ええ……? なんか常にグラサンかけてて女子高生も負けるレベルに携帯の扱いがすごくて手先が器用で顔も声も中身も良い」
「……悪いとこは」
「長生きしないとこ」
「は?」
「や、えーと、自分の命を大事にしなさそうなところかな。他の人守って死にそうなの。なおすとこなんてないくらい良い男だけど、自分のこと大事にしないのだけは悪い男だね」

 思わずついて出た言葉に松田くんの眉が上がって慌てて言い繕う。

「だからあの人が他人ばっかり守って自分のこと守らないなら、私があの人のこと守ろうと思って。それだけだよ」
「……あっそ」
「うん」
「誰だよ」

 すきあらばポロリと言うかなと思ってるのかな? 私基本的に迂闊だけどそこまで馬鹿なわけじゃないからねと小さく笑えば大きな舌打ちを返されてしまった。まって、今の私が悪いの?




──────

「うわ松田くんグラサンデビュー?」
「眩しいからな。……うわってなんだよ、そんなに似合わねえか」
「いやそういう意味じゃないよ。イケメンは何してもイケメン」

 褒めたのに舌打ちされた。だからなんで。
 それにしてもあのこだわりがありそうなグラサンの理由が眩しいからってだけだったの意外だった。確かに今日はびっくりするくらい眩しいけど。なんかもっとこう、よくわからない細かい理由とか色々あると思ってた。

「……お前一応俺のことイケメンだと思ってんだな」
「一応も何もイケメンじゃん」
「……そのわりには他の女子みたいな反応はしねえんだな」
「あー」

 さすがに耐性ができてるというか。できてないというか。そもそもまだ松田くんが松田くんじゃないからまだ我慢できてるというか。
 松田くんは確かにかっこいいけれど今はまだ少し幼さが残っていて。もっとかっこよくなるのを知っているから、今でも十分イケメンなのだけどまだ成長途中だから大丈夫というか。

「……もっとかっこいいからなあ」
「あ?」
「うわ怖えっなに急にキレるのやめてというか何にキレたの」
「お前ほんと無神経っつーかデリカシーねぇっつーか馬鹿っつーか」
「怒涛のディス」

 あまりのキレっぷりに逆にスンッて冷静になっちゃったじゃん。えっまってなんで私が呆れられてる視線向けられてるの???

2019/10/07
2021/02/21


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