また夢の中。もう疲れたのでやめてほしい。まあやっぱり向こうの世界の方が馴染み深いからこの間は目が覚めて安心して号泣しちゃったけど。
 でもやっぱり一回覚悟決めて腹をくくったからかそこまで落ち込むことはない。なんだまたか、みたいな。でも私の涙を返せ。どっちのお母さんもお母さんはお母さんだしなんかもう振り回される方が疲れる。私の世界はこういうものって割り切った方が早い。でも涙は返せ。あと二重生活は疲れるからなんとかしてほしいけど。片方が夢なら夢らしく楽しいことだけならまだいいのに仕事は仕事でどっちでもやらなきゃいけないから世知辛い。

「……こんにちは」
「はわ、こんにちは」

 いやそんなの降谷さん前にして思うことじゃなかった。三つの顔を持つ人の前で二つのお仕事しんどいですとか怒られそうだし。いやあえて怒られてみたい気もする。気持ち引き締まりそう。というか急に現れるのやめてほしい。いい加減人の顔見て奇声あげるの失礼だからやめたいのに、急に出てこられると心の準備ができてなくて声が漏れる。
 延々変なこと考えてた私に引いたのか難しい顔でだんまりな降谷さんに焦る。やばい。ただでさえ変な女と思われてるのにこれ以上はいやだ。あと忙しい降谷さんに私を疑うなんていう無駄な仕事増やしたくない。

「今日の予言はなんですか」
「えっ。もう終わりって言ったじゃないですか。これ以上はもう無理なんですって。全部知ってたらちゃんと全部言いますから」
「……」

 こわい。あっ引っ越そうなんてしてるから余計に疑わしいのか。そりゃそうだ。でも引っ越したらもうここには関わらないしそしたらいつになるかはわからないけど降谷さんもわかってくれて私を見張るなんて無駄でしかない仕事も無くなるし、やっぱりモブは引っ越すのが一番だと思う。あとこの町は何で殺意持たれるかわかったもんじゃないしなんのスキルもないモブは逃げるに限る。かろうじてまだ事件に巻き込まれてはいないけど、これからだって巻き込まれたくないもの。

「……大事な話がしたいのですが、お時間よろしいですか」
「えっ引越しの件ならいくら説得されようと決めたことですからね」
「大事な話です」
「説得は無駄ですよ」
「それは後にしてください」
「あっはい」




────────

 私の家は降谷さん的に大事な話をするのに適した場所なんですか? 私は寝起きするたびにどっちの世界にいるのかわからなくて戸惑う場所なんですけど。まあでも精神的に危うい場所でも降谷さんが大事な話ができるくらい物理的には安全な場所なんだなと思うことにする。この世界で物理的に安心なのはとても大事。

「双子だったりしませんよね」
「わかっててきいてますよね」
「あなたの口から聞きたい」
「違いますよ」
「……もう1人のあなたに会いました」
「えっホラーな話ですか?」

 それとも私に変装した誰かに会いましたか。でも私に変装するメリットもないし首をかしげる。

「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれない。昨日の記憶あります?」

 昨日は現実パート……いやもうどっちが現実かはわからないんだけど、昨日はもうひとつの方で過ごしてたから、記憶は向こうの分しかないです。なんて言えるはずもなく、へらりと笑う。

「……俺に下手な誤魔化しや嘘は通用しないと言ったのは君だ」
「あっはい。そうですね。……あー……」

 急に口調が降谷さんになってなんとなく身が引き締まる。でもだからってこんなことどうやって言えばいいのか。予言はなぜか受け入れてもらえたけど、さすがに実は私は別の世界の人間で夢の中だと思って好き勝手してたら最近はどっちも現実世界みたいになっててやばいんです。なんて、私の頭がやばいと思われてしまうからちょっと言いにくい。

「……最初は多重人格かなにかかと思った」

 ちょっと待ってそれはそれでありえそうでホラー案件だからやめてほしい。ただでさえ夢と現実があやふやなんだから。

「だが違った。周りの人間の証言も監視カメラの記録も君の顔をした誰かの言う通りで嘘はついていなかった」
「えっと……私が2人いるってことですか?」
「いや、君は1人しかいない。だけど、俺と会う時だけありえない場所に君がワープでもしたかのように移動してる。そしてまた元の場所に戻ってる、ようだ」
「えっと、……」
「君の予言関連だけ、世界から隔離されてる。周りの人間の記憶、監視カメラのデータまで辻褄があうように調整されてる」
「こわ」
「……その反応で大丈夫なのか」

 私の軽めの返答に降谷さんが眉根を寄せて声が低くなる。降谷さんもこわい。いや、なんかもう最近ちょっとやそっとじゃ驚かなくなってきてて。こわいのはこわいけど、でもふたつの世界を行き来してるし私が2人いたとしてもワープしてたとしてもまあおかしくないかなと。

「……そんなに動揺してないってことは予言はもう終わりだって言ったのにやっぱりわかってたのか」
「なんていうか……あー……」

 どうすればいいのやらと口ごもっていれば、あなたの言うことを信じる、と真面目な顔で言われてもうどうにでもなれと覚悟した。降谷さんに捕捉された時点で逃げられないことは決まりきってるんだから。この世界で探偵に怪しまれたらその時点で逃げるのは諦めた方がいいと思う。
 信じる、という言葉自体は信じられないけど、でも降谷さんの正義は信じられるから、私の処遇はもう降谷さんにお任せしよう。

「最初は夢だと思ってたんです」
「え?」

 信じるといった降谷さんが早速聞き返してくる。仕方ない。私だって時間をかけて納得した問題なんだから。信じてくれるにしてもすぐに信じられる方がハニトラかな?って思ってしまう。

「私の世界ではここは物語の世界でした。だから夢だと思ったんです。降谷さんは覚えてないかもしれませんが、二言三言言葉を交わして、私は現実世界で目が覚めて、とても楽しい気持ちで現実世界で仕事をしてたんです。そしてまた眠って、降谷さんと会って、降谷さん曰く予言を、私にとっては夢の世界だから物語を変えてみようなんて軽いノリで調子に乗って喋ってしまったんです」

 降谷さんの眉間にどんどんシワが寄っていく。でも顔が良いのは損なわれない。羨ましい限りです。そうやって心の中で茶化しても心は晴れずひたすら口を動かす。

「最初は本当に30分もなかったんです。ほら、夢って現実では6時間きちんと眠れているのに五分の出来事だったりするでしょう? それに私が夢だと思い込んでた原因は、町の構造を知らないのにその角を曲がればあそこに辿り着くって思い込んで曲がったら実際にその場所に着いたから、余計に夢だと思い込んでたんです。おかげで観光はとても捗りました」
「……それは良かった」
「でも、伊達さんの時、高木さんや伊達さんを引っ張った腕がとても痛くて、事故の音が耳に響いて、運転手さんの怪我を見て、とてもこわくて、夢なのに、夢のはずなのにこわくて、そこからおかしくなったんです」

 降谷さんの表情は眉がよったまま変わらない。私の声はどんどんか細くなっていく。だって、自分でも信じられないことを口にするなんて。

「最初は2日、帰れなかった。だけど夢ってそういうものだし、最初は気にも留めなかった。今日は長いな、って思うくらい。でもだんだん、だんだん起きれなくなった。夢の中で眠って、夢の中で起きて、夢の中で仕事をして、二ヶ月もそれが続いて……安室さんに会った時、母に会いたくて、って言ったことがあったでしょう?」
「……喧嘩をしたのかと」
「夢から覚めて母に会いたかったんです。でもできないから、どうしたらいいかわからないから、降谷さんがそばにいるならなんとかなると思って覚悟を決めて電話をして、私の夢の中なんだから、私が知ってることを聞いても夢だから答え合わせになんかならないと思って、だから、私の知らないことを教えてほしかったんです。それでも、私の知らないことだから答え合わせなんてできないし、結局わからないことだらけなんですけど。でもそれでも、母の声は私を愛してくれているし、覚悟を決めて、ここも現実だと思おうと思ったんです」
「……」
「……私の世界だとここは物語の世界だって言ったじゃないですか。ジャンル、推理漫画って言えばなんとなく察してくれると思いますけど、覚悟を決めてもこの町はただの一般人には怖かったんです。降谷さんの守ってる場所を危険な場所だとは言いたくないけど、でも、怖いんです。だから引っ越そうと思いました。ここに住む覚悟を決めたのに、また目が覚めたんですけど」
「それがあなたじゃないあなたが現れた原因ですか」
「それはわかりませんけど、まあ、私が夢を見ていない間は誰かが私をやらないと、それこそ辻褄が合わなくなってしまいますもんね」

 難しい顔で黙り込んだ降谷さんを、被告の気持ちで判決を待つ。

「そもそも私の顔をした誰か、って降谷さんは言うけど、そっちが本物かもしれないですよ?」
「は?」

 重い沈黙に耐えきれずに空気も読まずに軽口を叩かなきゃよかった。芸術のように綺麗な顔で怖い顔するの本当に怖いからやめてください。このタイミングで軽口を叩いた私が悪いんですけど。

「俺を見て変な声を上げて変な予言をするのが俺の知ってる本物の君だ」
「……変な女ですね……」
「君のことだが?」
「いやわかってるんですけど、……ちょっと面白くて」
「……その割に笑ってないな」

 降谷さんの前でみっともない姿を晒したくないのに、降谷さんの前で号泣するの、2回目だ。だってなんだか心強くて。降谷さんに太鼓判を押されたら、もうそれが本当の本当だって気がして。なんだか安心して涙が出てきてしまう。降谷さんにハンカチを貸してもらうのは二度目だけど、今度は降谷さんだからか少し拭うのが乱暴で、少し痛くて、なんだかその痛みも本当の証のようでまた嬉しくなる。





────────

 泣き止んだ私に降谷さんはまた一言、信じる、と呟かれて小さく笑う。当人の私ですら二、三度現実逃避をしたのに他人がそんなすぐに信じられるわけがないのに、優しいなあ。

「……そんなに物語の俺は嘘ばかりついてるのか」
「いえ降谷さんは正義の塊でかっこいいですよ」
「だけど俺の言葉はあまり君に届いていない」
「降谷さんが私を本物だと言ってくれて、嬉しくて泣いたのに?」

 それはそうだが、と不本意そうな降谷さんに苦笑する。目的のためなら手段を選ばない降谷さんを見ているせいで優しい言葉や甘い言葉を信じることはできないから申し訳ないけど、でも、降谷さんの正義は信じているから。

「……なんだか違う気がする。君は確かに俺のことを信じてくれていて、きっと俺のことが好きだからこうして色々助けてくれてるんだろう。だけど、なんだろうな、……俺のことを好きだからこそ、俺のことをよくわかっているからこそ、信じてくれていないような気がする」
「最終的には信じているんです。ただちょっと、予言……情報目当てかな?って気持ちになるんです。ごめんなさい」
「…………」

 難しい顔になった降谷さんに申し訳なくなる。私なんかの情報が役に立つならいいんですけど、でももう言えるものは全部言ってしまったからもうこれ以上はないですよと、なんだかもうそう言えば言うほど怪しさ満点なのは自分でもわかってるんです。わかってるけど事実なんですもん。降谷さんには休んでほしいんです。

「何も質問しなければ情報目当てだと思わないか?」
「……いや降谷さんはすごい人なので些細な私の言動を引き出そうとしてるのかなと」
「……八方塞がりだな」

 呆れたように笑われて思わず私もつられて笑う。申し訳ないです。降谷さんがすごすぎる人なおかげで疑心暗鬼です。

「俺のことが好きなら信じてくれないか」
「……好きだからこんな変な女見張ってないで休んでほしいんですよね……」
「……見張ってると思ってたのか?」

 ものすごく驚いた顔で聞かれて逆に私も驚く。えっ見張ってなかったんですか? 変な女すぎて逆に大丈夫だと判断してたんですか?

「……見張ってると思ってたのか……。いや、そりゃ……調べはしたが、見張ってはいなかったぞ」
「どうしてですか?」
「命の恩人だから。犯罪に身を落としていたら命の恩人でも逮捕するが、調べた結果は白だったし、俺が個人的に会いに来てるだけだ」
「個人的に」

 個人的に会いに来ているとはなんだろう。対して役に立ってないし降谷さんがただ頑張っただけだから受け取るお礼もないけど、それでもと言われてあんまり納得はしてないけどなんとか受け取った。から、お礼でもないはず。それならやっぱり怪しまれてると思うのが普通だし、疑うのは警察の仕事だから別に嫌な気にもならないし、そんなに甲斐甲斐しく優しく接してくる必要なんてないのに。

「……なるほど」

 降谷さんが個人的に会いにくる理由をうんうん考えていれば急に納得されて顔を上げる。
 上げなきゃよかった。
 真顔の降谷さんが私の目をまっすぐ射抜いていて固まる。おかしなことを言った時の「は?」みたいな塩対応の顔より真顔のほうが怖い。美人の真顔はとてもこわい。はじめて知った。
 怒らせてしまったのか、呆れられてしまったのか、何もわからないから余計にこわい。でも私が何かしでかしてしまったということは馬鹿でもわかる。降谷さんが理由もなくこうなるわけがない。

「君と俺の関係を簡潔に言ってみてくれ」
「え」
「ぱっと思いついたものでいい」
「憧れの人と、モブ……?」
「……同級生ですらないのか」

 真顔だった表情にようやく色が戻ってほっとするけど、呆れられた表情に変わっただけで何も安心はできない。でも何もかもの感情が削がれたかのような真顔よりは全く怖くないから良し。それにしても、同級生、とは。

「……私、降谷さんと同じ学校な設定なのはわかってるんですけど、正直なところ、その時はたぶん10分も夢見てないんですよね……」

 制服着てたのは覚えてるけど、顔が良いって思った5分と、命大事にって言ってなんだこいつみたいな顔された5分と、その感覚しかその制服着てた覚えがないから同級生って感じが全くない。ちょっと駆け足すぎてもったいない。

「……じゃあ知人」
「そんな恐れ多い」
「知人でか」

 即答した私に溜息をつきそうなほどの呆れ顔の降谷さんに申し訳なくなる。

「……俺は君のことを友達だと思っていた」
「え」
「確かに君は怪しすぎる人だったけど。たまに会って話したりするのは友達じゃないのか? まあ君からすればそれは取り調べだと思っていただけだったのが今判明したが」

 ともだち。
 ちょっと待って友達ってなんだっけ。

「……大丈夫か?」
「ともだち、調べていいですか」
「……」

 やばいなこいつ、なんて目で見られながらもどうにか同意は得たので携帯を取り出して意味を調べる。ともだち、友達。
 ともだち、とは、勤務、学校あるいは志などを共にしていて、同等の相手として交わっている人。
 一番最初に出てきた文字を目に入れて、ついでに声にも出す。

「……学校、は確かに同じ設定ですけど、その」
「さっきも聞いた。十分もないんだろ。でも俺も君と話してるのは、君曰く、夢を見ている時だけだ。それでも俺は君のことを友達だと思っている。同等の相手というのが引っかかるのは、俺だってそうだ」
「そうですよね、私と降谷さんが対等だなんて」
「本来なら、俺がもっと立場をわきまえるべきなんだ。命の恩人に馴れ馴れしすぎるだろう」

 ひ、と喉の奥で声が引きつる。同意を得られたと思ったのにまさかの真逆の考えに恐れ多すぎて気絶してしまいそうだ。降谷さんに、立場をわきまえるべきだなんて思わせてしまった。あの、降谷さんに。

「たいしたことしていないんです……」

 消え入るような声しか出なかった。

「夢だと思ってたんです」

 命の重さなんて考えてなかった。
 ただ楽しんでた。どうせ夢だしこうなったら嬉しいな、って。

「志なんて、ないんです」

 降谷さんのように、正義を貫こうとしたわけじゃない。夢だと思ってなんの覚悟もなく、ただ楽しんでただけ。夢じゃないとわかってたら行動できたかどうかもわからなかった。

「別にいいだろ」
「え、?」
「君は一般人で、鍛えてるわけでもない。夢だと思ってたから行動に出て、結果俺たちの命の恩人になったけれど、これを最初から現実だと思って行動してたら俺は怒ってたかもしれない。無謀な行動はやめろと。もし君にも不測の事態が起きて、守るべき民間人に庇われて警察官だけが助かっていたらなんて考えるだけで恐ろしいことだ。……みんなが助かったあとだから後出しジャンケンのようにいくらでも都合の良いように言えるし卑怯でかっこつけてるだけかもしれない、でも、夢だと思ってくれててよかった。民間人は平和で穏やかに過ごしてただ自分の命を大事にして生きてほしい。無事でよかった」

 降谷さんを見上げると目を真っ直ぐ見つめられながらもう一度、無事でよかった、と微笑まれる。ぐ、と涙が出そうになるのをこらえてその優しさに甘えて頷くことしかできなかった。
 無事でよかった、景光さんをどうにか助けようとしたあの時、もしかしたら黒の組織に目をつけられてたかもしれない。鉢合わせてたかもしれない。無事でよかった、本当に。

「……ところでどうすれば友達になってくれる?」
「え」
「俺のことを理解してくれて、命の恩人で、面白い人とは離れたくないだろ。……理解してくれてるせいで友達になるの難航してるが」

 真面目な空気が霧散して気が抜ける。どうしてそこまで私なんかと友達になりたがるんだろう。いや理由も言ってくれたけど不本意だし。理解してるなんておこがましすぎるし、命の恩人なのも正直ちょっと話しただけであまり役に立ててる感ないし、……面白い人、っていうのは、まあ、その、うん。どういう意味なんだろう。どんな意味かによっては否定したいし。

「……友達なら私じゃなくても」
「君と友達になりたいのに君以外と友達になってどうするんだ」

 馬鹿なのか、という視線を向けられて、それは友達になりたい人に向ける視線じゃないですと思いながら体を縮こませる。

「友達ってなにするんですか」

 私の声はかぼそいままで尋問じゃないけど尋問されてるかのような気持ちで降谷さんを見つめる。嘘です、ちょっと目を合わせ続けるのは心臓に悪いから形の良い鼻あたりを見つめてます。失礼なのはわかってるんだけど、こんなに長いこと対峙したことがなくてもう心臓がもたなくて。

「……他愛もない話をしたり、笑ったり、喧嘩したり、……改めて聞かれると俺もわからないな」
「降谷さんと喧嘩なんてしたら私死んじゃいます」
「当たり前だが犯罪者でもない女性に手荒な真似はしたことがない」
「いえそういう物理的な意味じゃなくて精神的な意味で……。降谷さんと喧嘩なんて、考えるまでもなく私が悪いことしたんだろうし……」

 物理的な意味だったとしても死ぬけど。フロントガラス割っちゃう人だもん。普通の車のならわかるけど、降谷さんの車ならもっと頑丈に加工されてそうだし、それ割っちゃえるならもう私なんてポキッだよ。いや降谷さんが意味もなく暴力振るうわけがないのはわかってますけど。
「……それをいうならそろそろ折れてくれないか?」
「え?」
「今も十分俺たち、喧嘩してると思うんだがな」
「え」
「友達になるならないで喧嘩してる。だろ? ……別に友達にならないことが悪いことなわけではないけど、そんなに俺の言うことが絶対なら友達になってほしいっていう俺の願いも二つ返事で頷いてほしい」
「屁理屈じゃないですか……」
「それくらい必死なんだ」

 言葉とは裏腹にやれやれと肩をすくめてお茶目な感じで言う降谷さんがなんだかおかしくて思わず頬が緩む。

「……そうですね、……そうでした。私、降谷さんが幸せな世界が見たかったんですよね、なら、降谷さんの思う通りにするべきですよね……むずかしいですけど」
「……君と話してると、まるで神様にでもなった気分になる」
「ほぼそのようなものです」
「それを利用させてもらっておいて言うのもなんだが神様扱いじゃなくて友達扱いしてくれ」
「……わがままですね」
「知ってるだろう?」

 降谷さんのわがままは正義にだけ発揮していただきたい。私に対してわがまま発揮してもなんの得もないです。物語をつぶさに覚えてるわけでもない、ただの凡人です。もっと色々読み込んで何もかも覚えてたらもう少しお役にも立てて自信を持って友達になれたかもしれないのに、ただの凡人だから少し肩身がせまい。

「……あの、えっと、じゃあ、友達扱いってどうすればいいですか」
「普通でいい。友達って何か考えて何かしたりするわけじゃないだろ」
「そうですけど」
「ふ」

 何が面白かったんですか。とても素敵な笑顔だったので大抵の理由なら受け流せますけど理由によっては戸惑います。

「……悪い。楽しいなと思っただけだ」
「ひえ」

 穏やかな笑みは受け流せない。心臓に悪い。

2019/05/14


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