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目が覚めても夢の中の事故を引きずっているのか興奮状態で仕事も手に付かなかった。どうにかミスなく帰れて異常に疲れたまま眠りについて、また夢を見る。今日は少年探偵団を遠くから見れた。可愛かった。事件に巻き込まれてる様子もなくみんなで遊んでる姿は微笑ましかった。実は女の子で一番だいすきな哀ちゃんももう登場していた。豆粒くらいの距離があっても可愛さで目が潰れるかと思った。
いつまでたっても夢から覚めなくてあれ、と思いながらも観光をした時と同じ手順で歩いてあれが私の家なのかなと思う場所に帰れば外観は違えど室内は現実と同じ部屋にたどり着いてホッとする。夢の中の自宅とはいえナイトルーティンをすませて夢の中で寝る。
夢の中で寝るなんて面白いと思いながらも眠って起きればカーテンの外はまだ夢の中で首を傾げた。今日は長いな。
部屋に飾ってあるカレンダーを見つめて今日は休日だとわかる。なら出かけてみようか。そうだ、この間は哀ちゃんも登場していたしそろそろ安室さんが登場してる時期なんじゃないか。この間は毛利探偵事務所を見て一瞬で起きてしまったけど、今日は下にあるポアロも目に焼き付けたい。もし安室さんがいたとして、関わるのもなんだか気恥ずかしいし、もう伝えることは無くなってしまったからどうすればいいのかわからない。遠目で見るだけでじゅうぶん目の保養になる。
道は知らないけどやっぱり夢だからか都合よく適当に曲がり角を曲がればそこは毛利探偵事務所が見えて頬が緩む。向かいの道路のかなり遠くからポアロを眺めていれば、看板娘の梓さんが玄関前を掃除していてなんだか癒される。ガラス越しに金髪が見えてやっぱり安室さんは既に登場しているんだと満足して踵を返した。
また同じ室内で目を覚ます。カーテンを開けば現実で、なんだかややこしいなあと苦笑いした。
また目を覚ます。今度は夢の中でこの連続した夢にももう慣れて驚きも少ない。だけどなんだかものすごくはっきりした夢だからか体が疲れるし最近は頻度が多すぎるので贅沢な悩みだけれどもう少し少ない頻度でもいいんだけどなあと肩をすくめる。
今日は仕事らしい。通勤路はなんとなく体が知っているようで道なりに歩いていれば会社の名前は現実と一緒で、夢の中でくらい小さな頃に憧れてた職にでも就けばいいのに、なんて思いながら現実と同じ仕事をした。なんで夢の中でまで仕事しなきゃいけないの……。それともこれしか知らないからこうなってしまったのか。夢の中でくらいサボったっていいのに。
仕事を終えた帰り道、聞き覚えのある声に耳が釣られて顔を向ければ萩原さんと松田さんがじゃれあう姿が見えて頬が緩む。
ああ、なんて幸せな夢。
今日もまた2日連続で夢の中だ。夢の中で眠るのはなんだかおかしくて、だけどきちんと眠れるから次の日がくる。夢かそうじゃないかはカーテンを開ければわかるからいいけど、なんだか二倍生活を送っているようで、楽しいけれどなんだか体がとても疲れる。
今日もまた、夢の中。
5日連続で夢の中にいたときは現実での日付感覚が狂ってしまって仕事場の人に笑われてしまった。二倍の仕事をしてるのだからお給料も二倍にならないかなあなんて考えて笑う。
二週間連続で夢の中だ。
通り過ぎる園子ちゃんと蘭ちゃんが戯れているのがかわいい。
通学路が近いのか哀ちゃんとすれ違うことが多くて幸せ。
たまにポアロの向かいの道路を通ってガラス越しに降谷さんと、萩原さんたちがなんだか楽しそうにしている姿を見るのが幸せだ。
幸せな世界。もうじゅうぶん堪能したからもうこの夢はいいよ。お母さんに会いたい。
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寝ても寝ても寝ても寝ても寝ても寝ても、帰れない。起きたらここで、夢から覚めない。あれからさらに二ヶ月がたった。仕事場は一緒。携帯にお母さんや友達の電話番号もある。だけど、電話をかけることができない。かけられた電話も怖くて取れないから電源を落とした。もし、違う人が出たら? 夢の世界と思っていたここが現実で、現実と思っていた世界が夢だったとしたら? 私の家族は? 知らない。こわくて確かめられない。確かめたとして、都合の良い夢だと思ってしまう。こわい。はやく、はやく目が覚めてほしい。
「どうしました?」
ちらりと重たい視線を向ければ降谷さん、というより安室さん。何度かポアロをのぞいてはいたけれど、生で安室さんを見るのははじめてだなあ。何気に私と会うときは安室さんがまだ誕生していなかっただけかもしれないけど、他に人もいなくてずっと降谷さんで通していたから。
「こんにちは」
「こんにちは。初めまして、安室透です。今日の予言はなんですか?」
はじめまして、と名乗ったくせに早口に、今日の予言は、だなんて言うから思わず微笑む。暗い気持ちが少しどこかへいってはじめましてと降谷さんに乗っかる。降谷さんはとても優しい。変な女だと思われてると思うのに、予言は、なんて私に合わせて優しくハニトラしてくれて。
「……大丈夫ですか? 具合でも?」
「いいえ、睡眠はばっちりですよ。仕事と睡眠しかやることないので」
「は?」
降谷さんだ。私の意味不明な発言に安室さんが一瞬引っ込んだように思えた。でも降谷さんがそんな簡単に仮面を外すわけがないから私の気のせいだと思い直す。
「……食事はとってますか?」
「あっ、食事もとってます。健康的な毎日です」
お風呂もちゃんと入ってます。は、当たり前すぎるからもう付け足さなくていいか。でも今、私は当たり前のことができていない。夢から目覚めるという当たり前のことが。
「でもものすごくつらそうですよ」
「……母に、会いたくて」
「え」
会えばいいじゃないか、と言いたそうな目で小さく笑う。きっと私のことなんてもう調べ尽くされてるんだろう。母が健在なことも、家族仲が悪くないことも、きっと知られている。だからこそその不思議そうな表情で。でも降谷さんが調べて知っているそれは本当に私の家族なんだろうか。
「喧嘩でもしてしまいましたか?」
「……、まあそのようなものです」
もし、電話をして、私の知っているお母さんじゃなかったら?
「……僕が一緒に謝ってあげますよ」
「……私が悪いことしたの前提なんですか?」
思わず笑ってしまう。安室さんも失礼なことを言ったと思ったのか慌てた様子を見せて、イケメンがあたふたしている姿がまたおかしくてくすくすと声を出して笑い声をあげてしまう。優しい、優しいな、降谷さんは。こうやって人を自然に笑わせることができるんだから。でももうみんな助けられたし、色々変わったこの世界で予言なんてもの、もうできないからハニトラもやめたほうが降谷さんにとって負担が少ないのに。怪しすぎて監視しなきゃいけないなんて、申し訳ない。
「あの、ええっと、こわがってるように見えたので、」
「安室さん、一緒に謝ってくれなくていいので、隣で見守ってくれます?」
「え、も、もちろん」
ただでさえ怪しい女が問題を抱えていたら降谷さんだって気にせざるを得ないから、だから、勇気を出して携帯を手に取る。電源がつく間に深呼吸して気持ちを落ち着かせる努力を形だけでもして、番号を押す。ワンコール、ツーコール、もしもし、と聞こえた声は確かにお母さんの声で、声が震えそうになる。
「おかあさん?」
どうしたの、と私の震える声に気付いたのか心配そうに尋ねてくる。いつものおかあさん。だけど、夢なら都合の良い展開になったっておかしくない。どっちが夢でどっちが現実かなんて判断、結局できない。
「私の知らない私のこと、教えて?」
「え」
隣で降谷さんが不思議そうに声を漏らしたのが聞こえた。
でも、だって、私の夢なんだから私が知っていることを聞いたところで意味がない。私の知らないことをお母さんから聞きださないと。私の知らない、私の情報をお母さんが知っていれば少しの可能性を見出せるはずだから。でも結局、知らないことの答え合わせなんてできないからどっちにしろ意味なんてない。どうしようもない。
電話の向こうで不思議そうにどうしたの急にと心配する声が聞こえた。だけどお母さんはすぐに切り替えて、そうねえ、と私の知らない、覚えていない幼少期の話をしてくれた。もう少し遡っておなかの中にいたときのことまで話してくれた。都合の良い夢かもしれない。だけど、このお母さんの話は、声は、私を愛してくれているのがよくわかる。嘘じゃない。だから、だからもういい。どっちが夢で、どっちが現実かなんてもう考えない。
「ありがとう、お母さん。そのうち帰るね」
電話を切った瞬間、今まで我慢していた涙が堰を切ったように流れでて隣の降谷さんがまた息をのむのがわかった。ごめんなさい、さっきから。降谷さんには訳がわからない女だとただでさえ思われているのに今日の私はいつもよりおかしくて、いくら降谷さんでも混乱してしまうだろう。
「だ、大丈夫ですか、とりあえず、これを」
汚れるからと断る前にすばやく、だけどそっと頬にハンカチを当てられてさすがだなあと涙を流しながら思う。
降谷さんは、安室さんは、さすがに混乱を隠しきれていない。わざと感情を隠していないだけかもしれないけど、でもたぶん、この慌て方は本当なんだと思う。降谷さんからしたら訳がわからなすぎる。
だけど少し気が晴れた。もうこれからは次の日を迎える恐怖は感じないで済む。降谷さんは何人もの悲しみを背負わないでいい。悲しみを胸に毎日を生きなくてもいい。それだけで、この世界は私にとって幸せだ。この世界を夢だと思い込んでいなければ、もう少し、もう少しできたこともあったかもしれないけど、今のこの状況にできただけでもただの一般人にしては上出来なのだから。降谷さんと、優秀なおまわりさんがこれだけ揃ってるなら、もう大丈夫。
「もう、大丈夫です。ありがとうございました。ごめんなさい、びっくりさせて。ちょっと色々あって。でももう大丈夫です」
「……何かあれば聞きますよ。こう見えて探偵なんです。僕が頼りないなら毛利先生を紹介しますし」
「いいえ、もう解決したんです。エセ預言者も引退です」
「え」
「もうこれ以上なにもできないんです」
「……」
「あなたにはきっと下手な誤魔化しも、嘘も、通用しないのはわかってるからこそ正直に言います。もう、なにもわからない。なのでもう、これが最後です」
「……別に、何かを聞きたいからあなたに近付いたわけではありませんよ」
安室さんは困ったように肩をすくめて私は笑う。
「近付いていたのはいつも私からですよ」
夢だと思って馴れ馴れしくしすぎてしまった。