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「……ひさしぶりだな」
意地でも安室の仮面を外さなかった降谷が、降谷として云年振りに現れた。黒いサングラスをかけている俺は驚く様を見せずに済んだが(それでも目の前の男は優秀すぎるからバレているのかもしれない)萩原も目の前の男の心境の変化にほんの少し目を丸くしている。伊達だけが相変わらず俺たちの中で一番どこか大人びていて、ひさしぶりだなあとにこやかに挨拶を返していた。
ほぼ同時にこの部屋に辿り着いた経緯はきっと同じだ。本当にいつの間にか俺の私物に紛れ込んでいた紙に、謎の暗号と0の数字。謎の暗号だけなら俺だってきちんと上に提出した。萩原にいや絶対0の数字がなかったとしても単独行動してたでしょの目で見られたのは記憶から消した。みんなそれぞれその紙の暗号を解いて、この部屋へ集合している。
そして最後に到着した男が、ひさしぶりだなとどこか居心地の悪そうに部屋の中へ入ってきた。
0の数字からしてこいつだとわかっていた。仮面を外さなくても降谷だと俺たちは理解していて、店員と客の体をとりながら要らぬお節介をたまに焼いていた。まあ、俺たちが表立ってお節介を焼いている裏側でひっそりとお前が俺たちのために動いていたこともあるんだろう。だから何をそんなに居心地の悪そうな表情をしているのかがわからなかった。
ザザ、と無機質な音がした瞬間、もうひとり、久しぶりだなという声が聞こえて口角を上げた。
なんだ、勢揃いじゃないか。なのになんでお前はそんなにバツの悪そうな表情をしているんだ。安室の仮面を外して降谷として出てきたと思い込んでいたが今度はまた、常に不幸を背負ってます、みたいな新しいキャラ設定だったりするのか。それならそれで名乗れよ。きっとこの部屋は俺たち以外が話を聞くことはない対策は徹底的にされてるんだろうけど、それでも俺たちはお前が今誰なのかを把握しなきゃいけねえだろ。
「降谷零として、友達として、頼みたいことがあるんだ」
すぅ、と息を吸ってバツの悪そうな仮面を捨てた降谷が真っ直ぐに俺たちを見て瞬く。
「なんだよ、そんなことか。びっくりするじゃん。今から死にに行くから遺言聞いてねみたいな顔だったから変に覚悟しちゃったじゃんも〜」
はー、と大袈裟に心臓を押さえて驚くふりをする姿に眉を顰める。
「お前も大袈裟だけどお前も大袈裟なんだようぜえ」
べちん、と後頭部を叩いて長丁場になるんだろうかと壁にもたれて聞く体制に入る。伊達も地べたに座り込んでそれで?と降谷を見上げたのに、当の降谷が一番キョトンとしていてため息を吐きそうになる。
「……聞いたら後戻りできないぞ」
「別に大丈夫だろ」
今、誰が放った言葉なのかわからないくらい自然にみんなで同じ言葉を奏でた。聞いた降谷はもちろんぽかんとしていて、偶然にもハモってしまった俺たちもぽかんと目を見合わせる。
ザザ、と音がして音割れするほど笑い声が静かな部屋に響いて俺たちも口角を上げた。
「あはっははは! だから言ったじゃん、そんなあらたまって言いにいくことじゃないって。あの無駄な暗号メモに要件書いときゃ動いてくれたっての」
笑いすぎて震える声で息も絶え絶えに話す声に内心頷く。忙しいお前がわざわざ出向かなくてもよかったんだ。まあ久々に仮面を被った顔じゃなくて降谷の顔を拝めたことは土産になるが、それを言ってしまえば調子に乗るのが目に見えてるから黙っておく。
「……まあちょっと、……うまく文章にできる自信もなかった頼みだから」
快諾されたことが照れくさいのかぶっきらぼうに視線を外して呟く姿に笑みが溢れる。
「なんだ、珍しいな。説明とかうまかったじゃないかお前」
「人智を超えた話だから」
「あ? 陣地?」
「次元が違う話だから」
「ん?」
訳がわからない、とみんなが首を傾げた。
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「恋バナかと思ってウキウキしてたらめちゃくちゃスケールでかくて俺は困ってるよ」
「……俺の家族全員の命の恩人なのか、あの人は」
「というか真っ先に俺、死ぬ予定だったのか……」
「そんで俺はお前の仇をうとうとして死ぬ予定だったのか。まあ、確かにお前が生きてなきゃあれは俺死んでたな」
「……確かにあの時お前なんの情報もないのに観覧車と病院のこと聞いてきてたな」
ふ、と笑う降谷にみんなが顔を上げる。
「あんだよ」
「いや、実際に見てもいないのにお前たちは受け入れてくれるんだなと」
眉を顰めて睨みつけたってグラサンをしてるからわからないだろう。お前はことごとく俺たちを見くびっているな。こんな話、お前から聞かなければ信じるわけがないだろう。他の誰かがこんなことを言ったら、……そもそも聞くまでにたどりつくかもわからない。お前だからここまで来て、一つ返事で頷いて、聞いたんだ。
「まあだからってどうすりゃいいかはわからんが」
「とりあえず警護? でも俺たちが警護しててもその子が本物かどうかの判断はできないから、守れてるかどうかわからなくない?」
「とりあえず偽物は機械的なんだろ。前は事情を知らなかったから喧嘩してんのかと勘違いしてたけど、知った今は話しかけてみりゃ違和感くらいは掴めるだろ。刑事の勘で」
「陣平ちゃんは一回刑事なったけど真面目な俺はずっと爆発物処理班なんだよなぁ」
あ? 喧嘩なら買うぞと萩原を睨みつけようとした瞬間、ぶは、と空気を吐き出す音が聞こえて視線を戻す。降谷が口を押さえて肩を揺らしている。おいお前も喧嘩売ってんのか?
「ほんと、頼もしいな。彼女のことをよろしく頼む」
すぅ、と深く息を吸い込んで落ち着いたかと思えば直角かというほど体を曲げて頭を下げる降谷に、肩をべしんと叩く程度で許してやることにした。