▽▽▽ちゃんとした日にちゃんとした場所で

 きらきら輝くシャンデリアの下で、きらきら輝く夜景が見える場所にふたり、ドレスアップして見つめ合う。私の口から漏れたのか、降谷さんの口から漏れたのかわからない深呼吸が聴こえて、耳を澄ませた。

「だから俺と結婚し、」
「全員大人しくしろ!!」

 降谷さんは私が見たことのない表情で突如銃を持って騒がしく入場してきた覆面の男の人達に目を向けている。大人しくしろと言われてもそんなの銃を向けられ押し入られてしまって大人しくできる人がいるわけもなく。なんて、そういうことを考えられている時点で、染まったなあ、としみじみ思う。降谷さんと私、ただ2人だけが椅子から腰を上げずにじっとしている。
 降谷さんがいるから大丈夫。怖くないわけではない。ばくばくと心臓はあり得ないほど早く動いているし、怒声や銃は確かに怖いけれど、降谷さんがそばにいて、確実に降谷さんがどうにかしてくれるとわかっていて不安に思う必要はどこにもない。ただ、犯人の処遇を思うとほんの少しだけ不憫だ。降谷さんが犯人の要求通り大人しく動かず、視線だけを至るところへ動かし脳を働かせているのが目の前に座る私にはばっちり見えている。

「俺といるとどこかへ行くたびに毎回事件に巻き込まれるかもしれない。それでも、俺と結婚して後悔しないか?」

 ばちん、と忙しなく動いていた視線が私にぶつかる。

「降谷さんこそ、足手纏いにしかならない私と結婚して後悔しませんか」
「足手纏いどころか幸運の女神だよ。君がそばにいてくれるだけで俺は誰にも負ける気がしない」

 ふ、と場違いにもふたりで微笑みあってしまう。
 大人しくしろと乗り込んでこられて大人しくできるはずもなく、わあきゃあ泣き声と慌ただしい。本来なら私もあっち側だ。大人しくできていたとしても、震えて、怯えて、泣いて、固まっている。それが普通。だけど、私には降谷さんがいる。神様のような何かからも守ってくれると豪語する、降谷さんがついている。怖がる必要なんて、ひとつもない。

「絶対に、世界で一番幸せにする。だからお願いだ、俺と結婚してほしい」
「はい、……よろしく、お願いします」

 なんだか照れてしまってスマートな降谷さんとは正反対に少し言葉に詰まってしまう。嬉しくて、何度も頭を縦に振って肯定を示す。
 瞬間、私の唇を何かが掠めた。それが降谷さんの唇だと気付いた時には降谷さんは目の前の席に座っていなくて、というより、暗闇が広がっていてなにも見えなくなっていて首を傾げる。
 一般客の悲鳴とともに、う、だか、ぐ、だかいろんなところで呻き声が聞こえて、だけど真っ暗でなにも見えない。降谷さんが駆け回ってるんだろうか。どうしてこの真っ暗闇の中をそんなに自由に走れるんだろう。本当にすごい人だなあ。なんて、状況を忘れて頬を緩めてしまう。
 ふわり。また何かが私の唇を掠めた。
 それはさっきの感覚と同じで、降谷さんの唇。

「ごめん、嘘ついた。君といる俺の方が世界で一番幸せだ」
「嘘ついたんですか?」
「ああ」
「嘘ついたなら捕まえなくっちゃいけないですね」
「ああ。だから自首しにきた。一生かけて償うよ」

 ぶん、と電気が通った音なのか、鈍い音がして急な光に瞬く。
 そして一面に広がった絶景。

「ひえ」
「ふは、本当、君のそういうところが愛しくて愛しくてたまらないんだ」


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