「野薔薇ちゃんなんでそんなにかわいいの?」
「……最初は嬉しいと思ったけど毎日5回も10回も聞くとありがたみが薄れる」
どうして!と嘆きすがる。私は毎回毎回心を込めて全力でかわいいと言ってるのに!
「あとあんたの美的センスが最近疑わしいことに気付いたから嬉しくない」
「えっなにどういうこと? 野薔薇ちゃんはかわいいよ?」
「私以外にそれ言わないじゃない」
「だって、だって野薔薇ちゃんだけがかわいいのに他の人にかわいいって言ってどうするの?」
「……例えばこいつ。かっこいい?」
携帯を目の前に突きつけられて野薔薇ちゃんと私の距離を遮られる。早く答えて野薔薇ちゃんの可愛い目と目を合わせたいから慌てて頭を働かせる。
興味が湧いたことはないけど何度かテレビで見た記憶がある。でもそれだけ。
「野薔薇ちゃんの方がかっこいい」
「……例えばこれ。かわいい?」
さすがに私でも知ってるくらい可愛いと有名なアイドル。でもそれだけ。
「野薔薇ちゃんの方がかわいい」
「……例えばこの人。きれい?」
野薔薇ちゃんが見ていたドラマに出ていた先生役の人。野薔薇ちゃんがきれいだとうっとり眺めるから嫉妬に塗れて私の心の中で暴風雨を巻き起こさせた人。憎い。
「野薔薇ちゃんの方がきれい」
「……ほらね」
「なにが??? なにがだめ??? 先生私何がいけない??? どうすれば伝わるの?」
ふん、と携帯をいじって俯かれて涙が出そうになる。どうして信じてくれないの。俯いて携帯をいじる野薔薇ちゃんの表情が見えなくて先生に助けを求める。
「うーん巻き込まれちゃった」
「だって野薔薇ちゃんより素敵な人、見たことないんだよ? 本当なのに、信じてもらえないのどうしたらいいの? 先生なんでも知ってるでしょ教えてよ」
「なんでもは知らないよ。それこそ女の子の気持ちなんてもっとわからないからね」
藁にもすがる気持ちで先生に尋ねたのにいつものように飄々とかわされるだけでとうとう声が震えてしまう。野薔薇ちゃん、お願い、信じて、こっち見て、お願い。
「私、これから先一生、絶対、誰にも、野薔薇ちゃん以外にかわいいとかかっこいいとかきれいとか言わないよ。ねえ。嘘付いたら呪ってもいいよ。本当だよ。絶対、誰にも言わないの、だって野薔薇ちゃんだけがかわいくてかっこよくてきれいだから。ねえ、」
お願い、こっち見て、と震える声で呟けば携帯を机の上に置いてくれて野薔薇ちゃんとまっすぐ目があってホッとする。目があったことにホッとするだけで野薔薇ちゃんに疑われたままの現状には安心できない。どうすれば信じてもらえるんだろう。じわりじわりと目に涙が溜まっていく。
「……こっわ」
五条先生が視界の隅で何かを呟いた気配がしたけど、野薔薇ちゃんに集中していた私には何も聞こえなかった。ため息をつく野薔薇ちゃんにびくりと肩が揺れる。
「……嘘ついたら呪い殺して良いのね?」
「うん。そういう誓いを立てたら信じてくれる? 五条先生証人になってくれる?」
「面白そうと思って見てなきゃよかったな」
だけどため息のあとに放たれた言葉に全力でしがみつく。まだ野薔薇ちゃんに肯定されてないけど五条先生の服を全力で掴んで逃がさない。だって最強の五条先生が証人だったら疑いようもないでしょ? そう思ったのに野薔薇ちゃんはどんどん気難しい顔になっていてまた目を逸らされて今度こそ堪えていた涙が溢れた。
「どうしてそこで他の人間が私達の間に入ってくんの。他の誰でもない、あんたの大好きな私に誓えばいいでしょ」
「ぅん……うん! ちかう! 私、野薔薇ちゃんだけがかわいいし、かっこいいし、きれいで、大好きなの! だから信じて、疑わないで、お願いだから」
野薔薇ちゃんの言葉に五条先生の服を離して椅子に座っている野薔薇ちゃんを抱きしめる。感極まりすぎたせいで勝手に抱きしめちゃって慌てて離れようとしたのに私の背中にそっと触れるふたつの手にぴきんと固まる。野薔薇ちゃん、の、手? ということは、え? 抱きしめ返されてる?
「あんたの言葉、疑って悪かったわね。今からは疑わないから。……でも1日に5回も10回も言わなくていいから」
「野薔薇ちゃんがかわいいこととかかっこいいこととかしなかったら私だって1日に何回も言わないもん。今の野薔薇ちゃんも、とってもかわいい」
「……あんたも可愛い」
本当に小さく小さく呟かれた声がばっちり耳に届いて胸がきゅんきゅん変な音を奏でる。嬉しくて抱きしめる力を強くした。野薔薇ちゃんもぎゅうと更に抱きしめ返してくれて今日何度目になるかわからない言葉が自然と口から溢れていった。
「そろそろ帰りなよ、二人とも」
「邪魔すんな」
「先生邪魔しないで」
「僕先生なんだけど。さっきまであんなに全力で巻き込んできたくせに全くも〜……女の子の考えること本当わけわかんない」
2020/12/07