「虎杖と伏黒のどっちが好きなのよ」

 いつもと同じように、それこそファッションの話をするときのように流れるように言えた、はず。ちょっとふてぶてしくはなっちゃったかもしれないけど。
 私は全然興味ないけど、たぶんふたりとも世間一般的に良い男だ。アイツらにならまだ任せられる。泣かせることもなさそうだし、守ってくれそうだし。いや、アンタは守ってもらう側じゃなくて守る側なんだろうけど。体力技術は私達の中で一番弱いけど、というかなんだったら普通にちょっと毛が生えた程度だけど、でも私はいつもアンタに助けられてる。
 アンタが生きてるだけで、笑いかけてくれるだけで、このクソみたいな世の中が天国だったんじゃないかって気持ちになる。ふわふわする。
 ふわふわして、ああ、これが恋か、ってすとんと腑に落ちた。
 でも私にはアンタを同じような気持ちにさせることは無理だって思った。私と一緒にいると楽しそうに笑ってくれるけど、でも、私と一緒にいるだけで私みたいにこの世が天国みたいだなんて思ってもらえる自信なんてなかった。いつも自信に溢れてる私が。恋をすると強くなるけど、弱くもなるんだな、なんて鼻で笑って、不思議そうに見つめてくる目を見つめた。

「? 野薔薇ちゃん」
「そんなのはわかってんのよ、私も好きよ。そうじゃなくて、……恋愛対象として好きなの、どっち」

 すぐに私だって言ってくれるくらい、仲良くなれたのも幸せ。でもたまにこうやって突きつけられる。照れもせず、普通に言えちゃう関係性。仲の良い友達。寂しい。でも間髪入れずに私だって言ってくれることは嬉しい。でも悲しい。嬉しくて、寂しくて、訳がわからなくなって視線を逸らす。
 私も好きよ、本当に。
 でもそうじゃない。
 誰が好きなの。応援する。できる。
 アンタが幸せなら私も幸せだから。

「野薔薇ちゃん」
「いや、だから」

 そうじゃなくて、ともう一度顔を上げた瞬間、ばちりとまっすぐな視線がかみ合って固まる。野薔薇ちゃん、ともう一度はっきりと告げられて心臓がばくばくと激しく動く。何かを言おうとして、だけどそのまっすぐな目と言葉に目を奪われて唇を小さく動かしても声が出ない。

「野薔薇ちゃんに恋しちゃ駄目なの?」

 悲しげに言われた言葉にすぐに声が出なかった。理解できなかった。なのに体だけは正直で、離さないように、縋るように両手で手を掴んでしまう。その手が振りほどかれることもなく受け入れられている事実にじわじわと言葉の意味を理解して緊張に渇いた口を開いて声を出す。

「駄目じゃない」
「……よかった」
「私もアンタに恋していい?」

 絞り出すような囁き声になってしまった。
 恋していい?なんて、既に恋に落ちてるのに震える声で、期待に染まる声で呟いてしまった。
 あまりにも小さな声だったから聞こえなかっただろうか。だけどこの距離ならどんな小さな声だってしっかりと聞き取れたはず。

「私、もっと頑張るから、野薔薇ちゃんに釣り合えるようにもっともっと頑張るから、だから、野薔薇ちゃんも私に恋してほしい」
「がんばんなくてもアンタはもう世界で一番可愛い」

 今までだってアンタは可愛くて、世界で一番可愛かったのに、ふわふわしてたのに、今のアンタはふわふわだけじゃなくてきらきらしてて幸せに目が眩みそうになる。

「……一番可愛いのは野薔薇ちゃんだよ」

 ムッとして笑顔が消えても、それでも可愛いんだから素直に受け取ってりゃいいのよ。

2021/02/14