「熱烈な視線だよね」
「バレた?」
「うん」
そっか〜と恥ずかしそうに笑う姿が憎らしい。その視線の先が私だったらよかったのに。視線の先は、悟で。
「……いつも通りに接してくれる?」
「それはもちろん」
いつも通り楽しく話して、いつも通り真面目に任務をこなして、いつも通り可愛いなと思って、いつも通り素敵だなと思って、いつも通りに嫉妬するだけ。君の望むいつも通り。
「……よかった、安心した、ありがと」
ふわりと笑う姿は可愛いのに、口の中が呪霊の味にじわじわと侵食される。気持ち悪い。吐き出したい。
「……私が人の恋心を笑うようなひどい男だと思ってたのかい?」
「頭ではわかっててもこわいものはこわいの! 夏油くんがそんな人じゃないってのはわかってるけど、それでも不安になっちゃうんだよ。そういうのに振り回されるのが恋でしょ?」
そうだろうか。君の恋している姿はとても愛らしい。恥ずかしそうではあるけれど、苦しそうだったり悲しそうだったり辛そうだったり、そういった負の感情に振り回されてない。ただただ幸せそうで、ただただ綺麗だ。
対して私は、君の幸せなんて今すぐにでも壊れてしまえばいいのに、成就しなければいいのに、悟が誰か別の人を好きになればいいのに、そんな汚い感情ばかり。
君が想っている恋と、私が想っている恋、どうしてこんなにも差があるんだろう。片想いというカテゴリーは一緒なのに君はとても幸せそうで、私は、……憎らしくてたまらなくなる。
「……さあ、私はあまりそういうの、わからないから」
結局同意もできずに、でも否定して嫌われたくもなくて曖昧な言葉で濁す。
「それはほら、夏油くんは不安になる必要ないからだよ。夏油くんは素敵だもん」
「……君も素敵だよ」
「そういうところ! そういうところがね、女子の心を揺さぶっちゃうんだから気をつけた方がいいよ! もう! 刺されても知らないからね!」
照れ隠しなのか私の肩をぱちんと叩いて嬉しそうに笑う姿を横目に私の心は呪霊と肩を並べそうなほど醜く軋んでいる。誰に勘違いされて刺されるんだ。君にしか言わないのに。君しか見ていないのに。
「気をつけるよ」
気をつける。
そうは言ったもののどうやって?
彼女のことを見ないように気にすれば気にするほど彼女の視線や態度や声が全て針のように突き刺さって抜けない。他の男を思って笑う姿でも可愛くて、なのに憎らしくもなる。
あれから1日2日3日と云週間がすぎて、落ち着くどころがどんどんイライラが募っていく。だからだろうか、口が滑ったのは。
「それにしても悟のどこを気に入ったんだか」
「え?」
しまった、と思ってももう遅い。親友だとは思っている。思っているけどそれは私と悟が男同士だから分かり合えて築ける絆があるだけで、女性受けをするのは見た目だけだろう。少し、……少し破天荒なところがあるから性格を知ればまともな女性はこれは手に負えないと降参するしかないイイ性格をしている。悟に付き合えている私も、きっと中身を知られてしまえばあまり女性受けはしないと思う。悟の影に隠れてほんの少しマシに見えることはあるかもしれないけれど、どんぐりの背比べだ。
そんなことを考えていたからか、溢れた言葉に彼女が不思議そうに首を傾げて私を見上げていた。しまった、やってしまった。好きな人の悪口とまではいかないけれど嫉妬に塗れた言葉を聞いて気分が良い人間などいるはずがない。
嫉妬はどうしてこうも醜いんだろうか。
どうしようかと顔には出さずに必死で打開策を考えても何も思いつかない。
「五条くんがどうしたの?」
ぱちりと瞬きをして本当に不思議そうに尋ねる姿は私の醜い心の内に全く気付く気配もなくて、なんだか情けなさすぎて小さく笑ってしまった。嫉妬心が丸わかりでしかない発言を気にも留めない。全く眼中にない。意識すらされていないのか。ならもうどうでもいい。気にされていないなら、聞いてしまえ。どうせ聞いても何も気付かない。君のことを好きだから探りを入れてるなんて気付くはずもない。
「いや、そのままの意味だよ。悟のどこを好きになったんだろうなって」
どうせどんな答えが来ても傷付くだけなのに自傷行為にしかならない質問を自棄になって舌で転がして吐き出した。
「え? 私の好きな人はずっと夏油くんのまま変わらないよ? 私そんなにころころ好きな人変わるようなタイプっぽく見えた?」
「────え?」
「え?」
さっきのぽかんとした表情よりもっと目を丸くして私を見上げる君の言葉に時が止まった音がした。
2020/12/12