この間のスモーカーくんの発言の意図が掴めない。あの後すぐ通報が入って海賊たちを縛りあげに仕事の脳へと切り替えたから何も考えずに済んだけど、仕事を終えた今、ぐるぐると無駄に考え込んでしまう。どうしよう。からかわれたのかな。スモーカーくんがそんなことする訳ない。でもじゃあ、あの言葉の意味は、私にとって都合の良い解釈しかできなくてそれもおかしいと頭をぶんぶん振って余計な考えを追い出そうとする。

「おもしれェことになってるな」
「ぎゃっ」

 後ろから降ってきた声に驚いて、ずっと右手に掴んでいた海楼石の鎖を思い切り引っ張ってしまって縛りあげた海賊の悲鳴が上がる。

「ごめんなさい!」
「ヒィッ」

 不必要な痛みを与えてしまったことに慌てて謝っても怯えきった海賊はさらに甲高い悲鳴をあげて慄くだけで苦く笑う。そんなに海軍がこわいなら海賊なんてならなければよかったのに。同じ海を好きならこちらを目指せばよかったのに。

「おいおい、いつもよりビビられてるじゃねェか。何したんだ」
「ぎゃっ」
「ああほんとごめんなさい意味もなく痛めつける気はなくてあのごめんなさい代わりに連れて行ってくれる?」

 ゆらゆらと煙が近付いてくる声にまたやってしまって慌てて通りすがりの後輩に鎖を押し付ける。わかりましたと訳も聞かず素直に従ってくれる可愛らしい後輩に癒される間なんて勿論なくて、くつくつと楽しそうに喉を鳴らす後ろの人の一言一句にびくびくと反応してしまう。

「なんだ、こんなに面白いてめェが見られるならもっと早くに動けばよかったなァ」

 影がおりて、顔を覗き込まれる。本当に楽しそうに笑う姿はスモーカーくんの人となりを知らなければとんでもない悪漢にしか見えなくて、きゅっと喉が閉じる。

「まあ関係はねェが、聞いてやる」
「なに、を?」
「あ? てめェの好きな男のことだよ。そいつのこと考える最後の時間をやる。おれがやると言ったらやる男なのはお前も知ってるだろうが。でもまァ、お前を逃す可哀想な男の名前に興味が湧いた」

 ぱち、と目が瞬く。スモーカーくんは相も変わらず楽しそうにあくどい表情で私の返事を待っている。

「……スモーカーくんは、……自信の塊みたいな人だと思ってた」
「あ?」
「全部わかってて私のことからかってるのかと、いやそんなことしないのはわかってるんだけど」
「おい、無視か?」

 愉快そうな笑顔がどんどん歪んでいく。そりゃそうだ。だって私今全力でスモーカーくんを無視して言葉を紡いでる。というより、思考がついてこなくて頭で考えたことをそのまま口に出してしまっている。

「……私のことが好きなの?」

 ずっと頭にチラついていた都合の良い解釈を舌に乗せる。間違っていたらとんでもない勘違い女になってしまうけど、きっとスモーカーくんなら間違ってても笑い飛ばすだけで、私のことを馬鹿にしたりなんてしないと思う。

「……話の流れ的に考えろよ」
「じゃあ、話の流れ的に私の好きな人のことは分からなかったの?」
「あァ?」

 濁された言葉だったけれど、都合の良い想像がどんどん現実味を帯びていく。

「……おれのことが好きなのか」
「話の流れ的に考えてよ」

 だけどまだ確信がもてなくてスモーカーくんの言葉を借りる。

「……おれはお前が好きだ」

 スモーカーくんが重たく吐き出した煙と、言葉にぱちぱちとまた瞬く。うれしい。けど、そんな渋面で言うこと? だけどそんな顔になる気持ちもわかってしまって、小さく笑ってしまう。罰の悪そうに舌打ちをされても今しがた言われた言葉が嬉しすぎて全然怖くない。

「ねえ、……私、諦めたつもりだったけど諦めきれてなかったみたい」
「あ?」
「私なんか、って諦めようとしたけど、……でも、諦められなかった……。スモーカーくんみたいに一歩踏み出す勇気はなかったけど、きっぱり諦める勇気もなかった。どんな形であれ、ずっとそばにいたくて」

 照れくさくて頬をかく。情けないよね。スモーカーくんは、あの流れで私が他の誰かを好きだと思ったのに、それでも一歩を踏み出したのに。私はただ、私なんかが、なんて勝手に落ち込んで勇気を出さなかった。

「……それで、どんな形でおれのそばにいる?」
「スモーカーくんの恋人として、ずっとそばにいてもいい?」

 スモーカーくんは既に私に好きだと伝えてくれたのに、それなのに自分がそれを伝えるのは海賊と対峙する時よりこわくて、言葉が震えてしまった。

「いいぜ。……ずっとは困るけどな」
「え、」
「恋人以上もあるだろうが」
「あ、」

 ぎゅ、と心臓が止まった気がして、続いた言葉に脈拍も体温も急激に上がった。

「紛らわしい言い方するのやめてよ、スモーカーくんのバカ」
「最初に紛らわしいことしたてめェが言うな、バカ」

2021/01/17