「野薔薇ちゃんって好きな人いるの?」
お泊まりの会話といえばこれでしょ、と部屋まで招き入れてくれるくらい仲良くなれた野薔薇ちゃんに聞く。野薔薇ちゃんはボディクリームを塗りながらマッサージをしている。部屋の家主の準備がまだなのに私は既にベッドにお邪魔させてもらっていて野薔薇ちゃんの匂いに包まれて浮かれてしまっていた。客が先にベッドに上がるだなんてと思ったけど良い匂いすぎて離れがたい。
私の質問にウゲェ、と可愛くない表情を作っても可愛いのはなんでなんだろうなあと思いながらも外してしまったらしい話題をどう逸らそうか思考を巡らせる。
「あーえーと、ほら、こないだ京都の人達と交流会したじゃない? その時に東堂くんがどんな女が好みだ?みたいなこと言ってきたじゃん、その、」
東堂くんになすりつける逸らし方しか思い浮かばなかった。ごめん東堂くん。心の中で謝りながらええとそのあのと視線をあちこちにやりながら弁明を図る。
「野薔薇ちゃんみたいに素敵な子が好きになる人ってどんな人かな、ってその時気になっちゃって、えと、」
「好きな人が知りたいの? 好きなタイプが知りたいの? 結局アンタが聞きたいのはどっちなわけ」
ウゲェ、という可愛くないはずなのに可愛さが損なわれない表情はどうにか引っ込ませてくれたもののどこか機嫌の悪い野薔薇ちゃんの問いに慌てる。どっち、いや、どっちってことはどっちも答えられるってこと? えっ、好きな人、いるの?
「す、きなひとがいるなら教えてほしいし、いないなら好きなタイプ、教えてほしいな、って」
「欲張りねー」
野薔薇ちゃんの機嫌がもとに戻って目をぱちくりさせる。野薔薇ちゃんの機嫌が上下する鍵がわからない。最初は恋愛話が駄目なのかと思ったけど、こうやって話にまだ付き合ってくれるってことはそうじゃないっぽいし。
「教えたらアンタは何してくれるの?」
「なに? なにって、なに?」
おーわり、とマッサージが終わったのか立ち上がって私を見下ろしながら言う野薔薇ちゃんにクエスチョンマークが浮かぶ。
「えと、ええと、好きな人がいるなら、その、協力したいし、その、」
一緒のベッドで眠るんだからそりゃ近いのは当然だけど、きし、とベッドを軋ませながら私の横に体を置いてじっと見つめてくる野薔薇ちゃんに唇が震える。よいしょ、と私の横に横たわった野薔薇ちゃんの顔に緊張で更に瞬きが増える。ちかい、かわいい。こんな可愛くて強い子の恋路の協力はきっと必要ない。けど、野薔薇ちゃんが幸せになるためのお手伝いが私にもできたら嬉しいなって。お泊まり会と言えば、なんて軽い質問のはずだったのに。
「……ふうん。じゃ、アンタの好きな人は?」
「わた、私はその、いないよ、その、授業についてくのに必死で」
「好きなタイプは?」
「え、えと、その、な、なんだろ、」
野薔薇ちゃんの笑う吐息が私の肌に触れるほど近くて何も考えられなくなる。そんな私を見て余計に楽しそうにくふくふ悪戯げに笑う野薔薇ちゃんに余計に混乱して目を白黒させてどうにかこうにか答えを探そうと思考を巡らせる。
「えと、……わた、わたしのこと、世界で一番好きな人……?」
「それだとアンタ一生恋人できないわよ」
「えっ、な、なんで」
困る、だってその、ちょっと恥ずかしいこと言った自覚はあるけど、大大大前提なことなのに。そんなに私は魅力がないってこと? そりゃ野薔薇ちゃんのそばにいればみんな野薔薇ちゃんを好きになっちゃうのは仕方ないくらい野薔薇ちゃんが素敵過ぎて私は霞んじゃうかもしれないけど、でもいつかはほら、あらわれるかもしれないのに。
ぐるぐる悩んでいれば野薔薇ちゃんが私の頬を突っついて楽しそうに笑う。
「だって私がアンタのこと世界で一番好きだから。ぽっと出の変な男どもに私が負けるわけないじゃない」
「ゔ」
「何その反応」
「野薔薇ちゃんがかわいくてかっこよくてときめき死しちゃう反応」
私が呻いた瞬間呆れた野薔薇ちゃんにそう言えばまた楽しそうに笑うからばくばくと心臓がうるさくなる。
「興奮して寝れなくなっちゃう……」
「もっと眠れなくなるようなこと、言ってあげようか」
いらない、と否定すればいい話だったのに、野薔薇ちゃんがあまりにも綺麗で見惚れてしまって、なに、と無意識に続きを促してしまう。化粧を落としても赤くてうるうるした唇をにんまり蠱惑的に歪めて悪戯げに笑う野薔薇ちゃんに心臓がぎゅうっと掴まれる。
「私の好きなタイプ、アンタみたいなの、って言ったらアンタ、どうする?」
好きなWタイプWであって好きなW人Wじゃないんだ、ってがっかりした時点で、私の答えはもう決まってるようなものだった。
2021/02/16