「サンジくん、抱きしめてもいい?」
「ぶっ!!!」

 若干こうなるだろうなあって自覚はあったから私、殺人未遂で自首した方がいいかな。でもまあもともと海賊だし、未遂だし、被害者は血を流してはいるものの恍惚とした笑顔だからいいや。
 床に崩れ落ちて手を真っ赤にさせるだけじゃなくて床にもしたたるほど鼻血を流すサンジくんに視線を合わせるために私もしゃがみこむ。

「質問だけでこんなことになってるしほんとに抱きしめたら死にそうだからやめとくね」
「と゛う゛し゛て゛」

 つんつん肩をつつくたびにごぽり、と音を立てて血を流すサンジくんの為の言葉だったのに、当のサンジくんは絶望しきった声と涙目で私に縋ろうとして血が抜けすぎて貧血なのかそれができなくて呻いている。かわいそう。引き金を引いたのは私だけどまさかこんなになるとはさすがに思わないじゃない。だってただの抱擁をしてもいいかという言葉だけで死にかけている。

「もしサンジくんが鼻血出さなくなったら抱きしめさせてね」
「ヴッ」
「チョッパー呼んでくる。不用意なこと言ってごめんね」
「ま゛っ゛て゛」

 わあ血みどろだあ。早くチョッパー呼んでこよ。これたぶん私もめちゃくちゃ怒られるやつだなあ。





 案の定めちゃくちゃ怒られた。でもさすがに私も反省してたから素直に正座してお説教を聞きました。余計なお仕事増やしてごめんねチョッパー。あと貴重な血大量に失わせてごめんねサンジくん。

「……ゔ、ところでどうして急にあんな、かわいらし、ぅ、こと言ってきたんだい?」

 思い出しただけで鼻血出そうになってるじゃん、サンジくん。私のちょっとした好奇心のせいでごめんね。加害者である私にいつもと同じように美味しい飲み物とデザートを持ってきてくれるサンジくんは本当に優しい。

「えーと、そんな大した理由はないの」
「レディがおれを抱きしめてくれることにたいそうな理由はいらないしいつでも、ゔ、ウェルカムだけど、でもいつもと違うことを言う君の心配をするのに理由が必要かな?」

 途中で一度呻いて鼻血を出しそうなサンジくんに苦く笑ってしまったけど、ただひたすら優しい心配を向けられて変に隠すのが心苦しくなった。本当にそんな大した理由じゃないのに。

「……ちょっとした好奇心だったの」
「え?」
「……マーメイドの子達相手にとっても流血してたでしょう? 私でもそうなるのかなって、ちょっと好奇心が」

 そんな好奇心で殺人未遂現場にしてしまって申し訳ない。

「……やきもち?」

 乙女のように人差し指と人差し指をくっつけてどこかもじもじそわそわとしたサンジくんの質問にまたたく。やきもち?

「うーん、やきもちではないかな」

 別にマーメイドの子達相手以上に鼻血を出してくれないだなんて!っていう発想にはならなかったし。ただ本当に好奇心で、どうなるのかな、って。
 両手を落としてわかりやすく落胆する姿に小さく笑う。ほら、こんなにも好いてくれてるのに、やきもち焼く暇なんてないよ。

「……鼻血、出さなかったら抱きしめてもいいの?」
「いいけど……無理でしょ?」
「がんばる」

 絞り出すような声にまた笑った。

2021/03/31