「ウソップは、彼女がいるから」
「か、か、か、カヤはべつ、べつにそ、そうい」
「ふふふ、誰とは言ってないのになあ〜」
ボンッと全身が爆発したかのように真っ赤になるウソップにけたけたと笑った。唐突だったからかいつもは流暢な嘘が口から溢れ出てこない。落ち着こうとしてるのか深いため息をついて自分の膝に両肘をついて頭を抱える姿を隣で見守る。
なんでおれに恋愛相談なんかするんだよ、その一言がきっかけだった。
「ナミちゃんやロビンちゃんって、とびきり良い女でしょ」
「……おめェだって良い女だろ」
「カヤちゃんには負けるよ〜」
「くそ、からかうなよ」
頭を抱えてうずくまりながらも私の言葉を律儀に噛み砕くウソップに頬を緩ませる。そういうやさしいところ。カヤちゃんに一途で、真摯なところ。
「……良い女すぎて、たぶん、私の悩み、わかんないと思うんだよね」
「だからってなんでおれなんだよアダルト組にでも相談しろよぉ〜」
私が嫌いだから追い払おうとしてるわけじゃない。役に立たないから、わからないから、恋愛経験が豊富だろうアダルト組を推薦してくるその誠実さ。だからウソップに話してる。
「そんなアダルティな恋愛相談したいわけじゃないもん。ほのぼの〜な恋愛相談がしたいだけだから」
「……せめてサンジとかさあ」
ふふ、と思わず笑ってしまう。
いまだにうずくまったままのウソップの耳元にこそこそと内緒話をする手の形を作って囁く。
「本人に恋愛相談する馬鹿がどこにいるの」
「……ぐぐ」
「ふふ」
今まで名前を出したことはないけどきっと察してくれていただろう名前を初めて具体的に出した結果ウソップが呻く。
「お前が好きだって言ったら喜ぶだろ、あいつ」
「喜ぶだろうけど断るよね」
「わかんねェだろ」
きっと喜んでくれる。なんなら鼻血を出して喜んでくれる。でもきっと、本当の本当に私がサンジくんを求めたら、レディにはもっと素敵な人が現れるよ、だなんて言ってくるのが想像に容易い。サンジくんは優しいけど、そういう、優しすぎて酷い男だ。
「恋愛相談っていったけど、ただの愚痴だもん。聞いてほしいだけ。ナミちゃんやロビンちゃん達みたいに捕まえに来てほしいわけじゃない、アダルト組みたいに大人の駆け引きがしたいわけじゃない、子どもみたいに自分のものにしたいわけじゃない。でも、私だけしか知らないの、寂しいから。私が好きなこと、知っててほしい。知ってるだけでいいの、好き、好きなだけだから……」
「……わァーったよ」
わかんねえけど、わかったよ。再度そう呟いたウソップはやっぱり優しくて、だからウソップに聞いて欲しかったんだよと頬を緩ませた。
──────sideサンジ
「私が好きなこと、知っててほしい。知ってるだけでいいの、好き、好きなだけだから……」
「……わァーったよ」
その会話が聞こえてきて、固まる。不寝番をしているウソップに、寝る前に飲み物の差し入れをと片手に登っている最中だった。不寝番をしてるウソップと、密かに想いを寄せているレディの声。
想いを告げる気なんてなかった。
振り向いてもらう気なんてもっとなかった。
だっておれは、好きなレディがいるっていうのに女性に対してだらしがないし、血だって汚れてる。迷惑しかかけられない。だから、仲間として、そばにいられるだけでよかった。
なのにどうして、こんなに苦しい。諦めてたんだから、苦しがる必要もないだろう。期待してたんなら苦しくなったり悲しくなったりするのもわかる。でもおれは、期待なんて何一つ持ってなかった。それなのに一丁前に傷付いて、本当に馬鹿だ。
ウソップは良いやつだ。嘘吐きだけど、誰かを傷付ける嘘はつかない。ビビリのくせに結局はいつも誰かしらを庇って大怪我をしてる。狙撃の腕だってピカイチだ。表面だけを見るんじゃなく、きちんと中身を見ることのできるレディが惚れるのも仕方ないくらい、かっこいい。
表面だけを着飾って偽りだらけのおれなんか、かなうわけがない。こんなこと、考えてるだけでルフィにまた殴られそうだ。それでも思わずにいられない。心をコントロールするのは上手な方だったのに。恋ってこんなに心がしっちゃかめっちゃかにされるものだったのか。
────────
「ウソーーップ!」
「ウワッなんだお前あぶねェ!!!!」
ウソップは自分のことを弱くて頼りないと思い込んでいる節があるけれど、いざというときは頼りになるし、何より普通の人なんかよりよっぽど肉体的にも強い。この船に乗ってる他のみんなが異常なだけで、ウソップも、普通の人と比べるまでもなく強い。現に私が急にタックルの勢いで背中に抱きついてもたたらを踏むだけで転んだりはしないし踏ん張って私を支えてくれている。
「一緒に買い物行こ」
「おめェさァ……その可愛げを出せば鼻血出して喜ぶと思うぜ」
「えへ。私かわいい?」
「あーかわいいかわいい」
ウソップの言葉は嬉しかったのは事実だけど思わず茶化した私に鬱陶しそうに繰り返すウソップに自分ではぐらかしておきながらムッとした。
「だって、……ナミちゃんやロビンちゃんにときめくのはわかるけど、その他の人にときめいてるの見るの、いやなんだもん」
「あいつのアレはもう病気だからなァ……」
とすとすと私の頭を叩くように撫でるウソップから体を離す。二人相手にメロリンしてるのは全然傷付かない。だって素敵だ。それに私にだってメロリンしてくれる。狭い範囲で繰り返されるそれは平気。だけど一度陸に降りるとサンジくんのフィールドは世界中に広がってしまう。わがままな私は、それを見るとほんの少しだけ傷付いてしまう。
「あいつが誰かと付き合ったとしてもアレが治るの、想像できねェよな。……あっ、やべ、お前に言うことじゃなかった、悪い」
「私も想像できない」
きっと特別を作っても、世界中の女の子に優しいんだろう。それに耐えられる女の子だけが彼の横に立てる。でもそんな女の子、存在するんだろうか。自分を特別扱いしてくれない王子様を健気に支えるお姫様なんて存在するんだろうか。存在するならきっと、サンジくんと同じくらい、心の綺麗な人だ。
心の狭い私には、とても無理。
「ウソップ、……っと、一緒に買い物行くの? お前レディに荷物持たせるなよ?! わかってんだろうな?!」
「わかったわかった! もーーめんどくせェ奴らだなァ!」
ふ、と音もなく船から梯子も使わず降りてきたサンジくんに驚く暇もなく私のためを思ってウソップを怒鳴りつける姿に思わず笑う。私のため、と言うよりレディのため、だということはわかっててもそれでも嬉しいのが乙女心だ。
「あ、何か食べたいもののリクエストはある? レディのために仕入れとくよ」
「ん〜サンジくんが作ってくれるのはなんでも美味しいからなあ……ええと、じゃあ、この島で一番美味しい果物でデザート作ってほしいな」
サンジくんにリクエストを問われるのは頭を悩ませる。結局いつもその島の特産品のデザートや食事を頼むという無難なことしかできなくて、人のために料理を作るのが大好きなサンジくんにとってはリクエストの聞き甲斐がないだろうなと反省する。だけどサンジくんの手にかかればきっと、なんだって美味しくなるのがわかってるから悩ましい。もっと可愛げのあるおねだりをできるレディになりたかったな。
「はーい! レディのためにとびきり美味しいフルーツ見つけてくるからね」
なんて反省してもサンジくんはこんな可愛げのない無難なリクエストにだってこんなに目を蕩けさせて喜んでくれるんだから本当に優しい。ウソップはまーたサンジの女好きがはじまったぞと呆れ顔でくねくねするサンジくんを見てるけど、私はこれも嬉しいからいいんだよ、なんて恋は盲目状態。
「じゃあ行ってくるね!」
「気を付けてね! おいウソップ! レディに変な輩を近付けさせるなよ!」
「オウオウわかったよ、ほらよ、御所望通りさっさと変な輩から離れような〜」
「ア?! おれは変な輩じゃねェ!」
「あはは!」
ウソップとサンジくんのやりとりにほんの少し沈んでいた心が晴れて声を出して笑った。
──────────
「おめェさ……サンジと向き合う努力をしてみろよ」
「女の人相手なら誰にだって優しいサンジくんに?」
「そうやって決めつけるところ、どうかと思うぜ〜」
決めつけるも何も、揺るがぬ事実じゃん。むす、と唇を尖らせてウソップを睨む。
「誰かを特別扱いするサンジくんとか、想像できないし」
「あいつのアレは病気なだけで特別扱いではないだろ。更にその上の対応があるかもしれねェじゃねェか。見たことねェんだから決めつけんなよ」
「悪魔の証明じゃんそれ〜……」
「そうだな。でも誰も悪魔に挑戦すらしてねェ」
ウソップは自分を臆病だとネガティブだと思い込んでるくせに、そうやって無意識に強い発想になるからやっぱりすごい男なんだなと実感する。それとこれとは別の話で他人事だと思って無責任なことをのたまうウソップには腹が立つけれど。
「フラれたら責任取ってくれるの?」
「責任ってなんだよ」
「カヤちゃんにウソップのかっこわるかったとこ全部バラして嫌われるように仕向けるけどいい?」
「うぉいとんでもねェ道連れやめろ!」
うそだよ、と小さく笑う。仮に私がそんなことを言ったとして、それを上回るウソップのかっこいいところを私以上に知っているはずだから意味なんてない八つ当たりにしかならない。
「ウソップが私のために言ってくれてるのはちゃんとわかってるよ、ありがとう」
──────────
「最近ウソップと仲が良いね」
カウンターでサンジくんからもらったデザートを頬張っているときにぽつりと落とされた言葉に味わう間もなくつるりとアイスが喉元を通ってしまった。ごくん、と飲み込んでサンジくんを見上げる。
最初の頃はサンジくんが立って仕事をしているのに私だけ優雅にデザートを食べているのが申し訳なかったけれど今ではもうこうしてキッチンにサンジくんが立ってくれていないとなんだか落ち着かないようになっていた。
だからその言葉を聞いて久々になんだかそわそわとした気持ちになってしまう。サンジくんはちょっとした世間話として出したんだろうけど、勝手にサンジくんについて話しているから少し気まずい。
「ウソップは、こう、……聞き上手だから」
「たしかに。おれもたまに愚痴聞いてもらうよ」
はは、と笑いながら頷いてくれるサンジくんにホッとした。
「サンジくんも聞き上手だし話し上手でこういう時間がすごく楽しいよ」
「じゃあおれとも話してくれる?」
笑ってくれたサンジくんに安心して、油断してしまっていた。力を入れすぎてカツン、とアイスを通り越してお皿をつついて行儀悪く音を出してしまって固まる。
わかってる。サンジくんは別にウソップと話してる内容をそっくりそのまま話してくれなんて言ってるわけじゃない。女の人にこれでもかってくらい優しくて甘い人だから、ただ私ともたくさん話をしたいと、そう願ってくれてるだけだってわかってる。わかってたのに、うん、と頷けば良いだけだったのにサンジくんにだけは打ち明けられない隠し事という後ろめたさがある罪悪感のせいで固まってしまった。
優しいサンジくんを傷付けてしまった。見なくてもわかる。変な間をあけてしまった。人の心にさといサンジくんが気付かないわけがない。どうすれば。どうしたら。
「ミステリアスなレディも魅力的だ」
優しいサンジくんは、傷付けられた側なのに私をフォローしてくれる。
「ちがうの、ちがう、サンジくんに話したくないわけじゃないの」
そのことに焦って顔を上げた。サンジくんは微塵も傷付けられた表情をしていない。でもわかる。サンジくんはさみしがりで、優しくて、傷付きやすい。だってずっと見てきたんだもの。サンジくんを傷付けたいわけじゃない。私自身が傷付きたくないって理由ももちろんそうだけど、サンジくんを傷付けたくないから黙ってたのに。優しいあなたは恋心を向けられて無碍に出来ないだろうから、フラれるのは私なのに、私以上に私を傷付けることに傷付くのがわかっていたから黙ってたのに。その優しい心に傷をつけてしまったのなら、もう隠してたって意味がない。嘘の理由で傷付けるより、本当の言葉の傷の方がきっとマシ。それでも優しいサンジくんは心を痛めてしまうだろうけど。
ウソップのバカ。道連れにしてやる。八つ当たりでもしなきゃ勇気も出せない私が一番バカ。
「好きな人の話を聞いてもらってたの」
「言わなくていい、ごめんよ、レディの秘密を暴こうだなんて紳士じゃないよね、ちょっと気になっただけで、ミステリアスな君も素敵、」
「サンジくんの話をしてたの」
「だ、から……え、?」
「ごめんね、嫌いだから隠そうとしたわけじゃなくて、好きだから言えなかっただけで、傷付けたいわけじゃなかった」
ウソップのバカ。絶対にカヤちゃんにあることないことバラしてやる。
ムカついて頭の中はそれ一色だ。告白をしたっていうのになんでウソップのことばかり考えなきゃいけないの。それがムカついて余計に負のループに陥ってしまう。
でもまあ、ちょうどいいのかもしれない。これで真実を知ったサンジくんは今から私をフるという優しい人にはしんどい仕事をしなくちゃいけないけど、勘違いで変な傷付き方をしないで済むし、私は今からフラれるけど悲しさより怒りの方が勝ってる。本当なら号泣ものなのに、怒っていられるから、怒ってるけどウソップには感謝しなくちゃ。それはそれとして道連れには絶対にするんだから。いいじゃん、ウソップは相思相愛なんだから。ちょっとかっこわるいエピソードをあることないこと言うだけだよ。どうせそれでもウソップとカヤちゃんの絆は壊れない。ちょっとした腹いせだ。ふん。
今からフラれる不幸せな私と、幸せいっぱいなウソップの対比にムカムカして放置してしまっていたアイスを頬張る。
「……、っ、ッ???」
あれ、それにしたってサンジくんの反応が全然ないな。どうしたんだろう。優しいサンジくんが優しくフる言葉を選ぶために時間をかけることは分かっていたけどここまで反応がないと心配になる。やっぱりどっちにしたってサンジくんを傷付ける羽目になっちゃうんだなあ、本当に申し訳ない。
なんて、顔を上げた瞬間、白い肌が燃えるように真っ赤になっていて目を見開く。
「サンジく、ん?」
「お、おれの、おれのこと、すきなの」
「え、あの、うん、え?」
「う、ウソップのこと、好きなんじゃ、」
「いや、好きだけど、ん? あれ? ちょっと待って私の言い方が悪かったかなごめんやりなおしていい?」
「……そう、だよな、うん、今度はちゃんと聞くよ、うん」
ふたりしてなんだか会話が噛み合っていなくてキッチンにクエスチョンマークが散乱する。まさかフラれる以前に話が通じてなかったとは思わなかった。
「あのね、ウソップと話してたのは恋愛の話なの。サンジくんの好きなとことかかっこいいとことか話すの聞いてもらってて、だから本人に恋バナするわけにはいかないでしょう? その、サンジくんが嫌いだから話せないわけじゃなくて、恋愛の話を好きな人本人にできないから隠し事したみたいになっちゃって、サンジくん傷付けてごめんね、その、……今度は伝わった?」
さっきだって燃えてしまうのかと言うほど真っ赤になっていた皮膚が、ぼ、と今度は言葉通り発火してギョッとする。一瞬だけ燃えて一瞬で鎮火したけど、真っ赤な皮膚だけは冷えることはなくて瞬く。伝わったんだろうか。さっきとほぼ同じ反応のせいで伝わったかどうかがわからない。
「……ごめんね、優しいサンジくんにこんなこと言っちゃって。どうせ傷付けるなら勘違いじゃなくて本当の理由の方がいいと思って」
「……なんでおれが傷付くの」
「えっ? だってサンジくん、優しいから、その、……しんどいでしょ……?」
「おれ、やさしくなんかないよ」
ぽつり、と言葉を落とされて首を傾げる。サンジくんを知ってる人で、サンジくんを優しくないなんて言う人、この世にいないと思うんだけど。どうしてサンジくんってこう、自分に対して厳しすぎるんだろう。人に優しくするのと同じくらい、自分に優しくしてほしい。
「だっておれ、わざと君を困らせるようなことしたんだ」
「え?」
どういうこと、と瞬きを繰り返す。たしかにサンジくんの言動に振り回されることはあったけど、あれは私が勝手にどぎまぎしたりヤキモチを妬いたり、恋をしていたから勝手に振り回されて困ってただけ。サンジくんがわざと私を困らせてたわけじゃない。
「……君がウソップを好きだと思ってて、……それで最近仲が良いね、だなんて、君が困るようなことをわざと意地悪で言った」
「……私の好きな人はサンジくんだしその勘違いはとりあえず置いておくとして、……それのどこが意地悪なの?」
「ぐ、……だって、……冷やかした。普通に祝福すればいいのに、イヤミったらしく仲が良いね、だなんて、優しいやつはそんなこと言わない」
一度うめいたサンジくんの補足にやっぱり首を傾げる。優しすぎるサンジくんの自白する意地悪が本当になんのことかわからない。
「それの何が意地悪なのかわからなかったけど、今のサンジくんはちょっと意地悪だと思う」
自罰的な表情でよくわからない意地悪を語っていたサンジくんの表情がぽかんと抜け落ちる。いや、まあ、今から言うことも全然意地悪でもなんでもないんだけど。意味のわからないことを言うサンジくんのおかげなのかせいなのか、だんだんウソップへの八つ当たりが落ち着いてきてしまった今、この状況がほんの少し居心地が悪い。優しいサンジくんが言葉を選ぶために時間がかかるのは仕方ないけれど、もうとっととこの恋を終わらせてほしい。
「私今、サンジくんに告白したの。すぐには消化できないと思うけど、頑張って好きなの辞めるから、だから早く終わらせてほしい」
「ど、どうしてそんな、意地悪を言うんだ」
「え?」
意地悪されてるのは返事を長引かせられてる私の方なのにどうしてサンジくんがまた傷付いた表情になっているのかがわからなくて戸惑う。
「おれが優しくないから、酷い男だから幻滅して嫌いになったの? おれなんかのどこを好きになってくれたのかわからないけど、がんばるから、そんなこと言わないでくれ」
「……? 好きなのやめないでいいなら私は助かるけど、迷惑にならない? 同じ船に自分のこと好いてる人いるの、こう、すわりが悪いと思うよ」
サンジくんはやっぱり優しくて、優しすぎてちょっと酷い男だ。それでも優しいからこそ誰かから好意を向けられて今まで通り、だなんてことはきっとできないはず。だから、私がサンジくんを好きなことを捨てるのはきっとできないけど、表向きだけでも捨てられたように見せられるならそれに越したことはないと思うのに。
「好きな人に好かれて迷惑に思う男がどこにいるの」
「……え???」
「きみのことが好きだったからウソップを好きなことが勘違いで、おれのこと好きでいてくれて嬉しいのに、でも勘違いしてた時にきみを傷付けようとしたおれなんか嫌われても当然だし、」
俯いてとつとつとシンクに落とすようにこぼされる言葉に固まる。
「でも一度好きになってくれたんだから、嫌われてもまた、また頑張るから、」
不意に上げられた顔は、真っ赤で目が離せなくなる。
「……もう二度と君を傷付けたりしないから、だから、嫌わないで。君のことが好きなんだ……お願いだ、なんでもするから、頼むから、」
乞われる言葉の端々に気を取られて一瞬頭が働かなかった。
「……え、私のこと好きって言った?」
「好きだ。……本当は一生言うつもりなんかなかった。でも君がウソップのこと好きだと思って、傷付いて、傷付けようとして、なのにおれで、……もう、どうしたらいいのかわからなくなって、君が幸せに生きてくれてるだけで十分だと思ってたのに、……でもそれがおれの横ならもっと嬉しいって気付いて、気付いちまったらもう無理だ。すげェ情けないこと言ってるのわかってる。わかってるけどなりふりなんて構ってられない。君に好かれたい。君が欲しい。君が、んぐっ」
もう何を言われてるのかわからなくて、わかるからこそわからなくて、ほぼ溶けているアイスをスプーンに乗せてサンジくんの口に突っ込んだ。これ以上何かを言われたら、気絶してしまいそうで。
突然の私の暴挙に目を白黒させて驚いているサンジくんは、さっきまで私が使っていたスプーンを突っ込まれていることに気付いていない。気付かれると今度はサンジくんが気絶してしまうから気付く前にこの事態の収拾をつけないといけない。
どんな敵と戦うより難しいミッションに頭が沸騰しそう。
「あの、つまり、その、……私とサンジくん、両想いということでいいの?」
ボッ、と燃えた音が発せられたのが私なのかサンジくんなのかわからなかったけれど、スプーンを咥えながら、おれはきみがすき……、とふにゃふにゃと告げられた言葉。わたしもサンジくんがすき、と負けず劣らずふにゃふにゃした音になったけれど、たしかにサンジくんに届いた。
「ねえウソップ聞いて!! サンジくんってすごいめんどくさいの!!」
「知ってる……後ろ見てほしい……」
「私がウソップのこと好きだって勘違いしてたし、好っ、……とにかく色々めんどくさいの!」
「知ってる……頼むから後ろ見て……」
「……ねえウソップ、色々聞いてくれてありがとね」
「どーいたしまして! めんどくせェ彼氏がおれのこと視線だけで殺しそうだから早くあっち行けほんとめんどくせェカップル!!」
2021/04/17