「サンジくんサンジくんサンジくん!」
「ドワッ! なっ、なに?!」
背後から近付いてこられていたのはわかっていた。わかっていたけれど、まさかそのまま腰に手を回して背後から抱きつかれるなんていうご褒美をもらうなんて想像もしていなくて吸っていたタバコがぽろりと口からこぼれて慌ててキャッチする。ぐりぐり背中を額で擦り付けるレディに、腰砕けになりそう。一生このままがいい。時よ止まれ。
「サンジくんお願い! 今のもっかいして!」
「シて?! なにを?! え?! 口付け?! 喜んヴッ」
ぐりぐり擦り付けられていた額が一瞬宙に浮いて、打撃。レディの頭は正直あまり痛くはないけど、直に衝撃が来て声帯が揺れた。いやまあ、確かに、レディはもう一回してと言ったわけだから、一度もしたことがない口付けなんて論外なわけで。でもこんな背後から腕を回して抱きついてくるなんて、それはもう最早恋人関係なわけで、たぶんきっとおれが覚えていないだけで熱い夜を何度もすヴッ。ごめんなさい。
「たばこ! たばこでハート作らなかった?! もっかい作って!」
「ああ、かわいヴッ。何どうしたのレディ、おれの知らない間にキツツキにでも転職したのヴッごめんなさい」
痛くはなくても内臓が揺れる感覚に面白くなってきてしまう。でもそろそろレディの額が真っ赤になりそうだからふざけるのをやめる。なんとか。努力します。
レディの要望を叶える為にさっききいたばかりの言葉を思い出して吸う。
「はーと! かわいいー! ありがとう!」
おれにとって何がお礼になるのかわかっているレディは、ぎゅう、と柔らかな体をおれにひたすら押し付けて感謝を示す。海老で鯛を釣るレベルじゃない。ゴミが宝の山になった。ああいやゴミだって役に立つこたァあるわな。役に立たない何かが宝の山になって帰ってきた。どうしよう。おれももう一回って言ったらもう一回抱きついてもらえるのかな。
考えるまでもなく、体は先に動いていてスパスパと出来うる限り何かに見える形を空に浮かべていた。
「! すごい! かわいい! すごい!」
それに気付いた瞬間、レディの体がまるでおれに溶けていくかと思うくらいもっともっと密着して、次いで囁かれたのは、サンジくんありがとうだいすき、の言葉。
「ッ、……!」
瞬間、口の中に一瞬で血の味が広がった。鼻から垂らすのを我慢した結果、口の中に血が溢れ出たのがわかったけど、レディは背後。見えない。見えていない。なら、まだ、このご褒美タイムは続く。
「きめェから離れた方がいいぞ」
「え? ちょっサンジくん?!」
続く、はずだったのに。心底気持ち悪そうに低く唸ったような声が前から降ってきて、あたたかくやわらかい肌が離れて可愛らしい顔が目の前に現れた。堪える意味もなくなって、嬉しさと悲しさと悔しさがいっぺんに湧き上がった感情は血で流れ出てレディの可愛らしい顔が歪む。
「ちょちょちょちょっぱー!!!!! サンジくんが!!!! 血!!!!!」
「ごめんよレディ。マリモてめェ至福の時間邪魔すんなオラァッ! オロス!」
「おれとしてはそのまま天国に召されてもよかったんだけどな、そいつが犯人にされるのは忍びねェだろ?」
ハンッ、とふてぶてしく鼻で笑われてただでさえ沸騰している血が更に沸騰して血管がブチ切れそうになった。せっかくの至福の時間が、緑のせいでパァだ。
心配そうに見上げてくれるレディに謝って、マリモの脳天を打ち抜く為に宙に飛んだ。
2021/05/10