「サンジくんはさ、どんな女の子も素敵だって目をハートにするじゃない?」
「んなっ、や、やきもちですかレディ」

 いつだってポジティブに言葉を受け取ってサンジくんの中で関係性をものすごく発展させてしまうけれど、ちょっと今日はそれを控えめにして話を聞いてほしいなと苦笑する。

「どんな女の子も魅力的に見えるサンジくんの理想の女の子ってどんなタイプなの?」
「それは目の前にいるレディ」
「あ、そういうのは今は置いといて真面目に」
「あっはい。いやいつも大真面目ですけどね」

 ハートに蕩けた目がスンッと元のアンニュイな瞳に戻る。キン、と音を立てて煙草に火をつける姿はとても格好が良くて、普段からそうしてればわかりやすくモテるのに、なんて心の中でひっそり思う。すぅ、と息を吸い込んで考え込む姿はとても理想の女の子を考えてる姿には見えないほど決まっている。

「本当にみんな素敵なんですよ。違うからこそみんな素敵で、理想……理想……うーーーん」
「じゃあサンジくんは早い者勝ちなのね?」
「はやいもの、がち?」

 ぽかん、と間抜けな表情になってしまったサンジくんに笑う。まあ私も言い方は悪かったなと思うけど。

「誰でもいいってことでしょう? サンジくんに一番に告白した子の勝ちよね」
「そんなこたァ……」
「ないって言い切れないのがサンジくんだよね」

 ふふ、と笑う。

「誰でもいいって言い方が悪かったよね、ごめんね。サンジくんに告白しようっていう子はきっとものすごく頑張った可愛い子だから、だからそんな素敵な女の子に好かれるサンジくんも素敵で、お願いしますって手を差し伸べるのよ。だから、早い者勝ち」
「ええと」

 よくわからない、という風に首を傾げるサンジくんに微笑む。それだけでまた目をとろけさせてハートに溶けていく。
 この、レディと見るや誰でも口説くサンジくんに告白する人は、とても勇気があって、努力家で、全てを受け入れる素晴らしい人。サンジくんはいつもどうしてゾロやルフィばかりが良い目に、と悔しげに地団駄を踏むけど、種類が違う。あのふたりは声をかけなきゃ見てくれない。だから追わざるを得ない。自分をアピールしなきゃいけない。
 だけどサンジくんは声をかけなくても見てくれる。それこそ本当に、涙が落ちる音が聞こえるくらい周りを見てくれる。「私」を見てくれているとわかっている人に、告白なんてしなくていい。そんなことしなくても見てくれてるんだから。なんだったら、「私だけはそれをわかっている」なんて自惚れていられる。だからみんなこの距離感で満足してしまう。私も、そう。
 モテないことをよく嘆いているけれど、そのことを理解してるんだろうか。追わなくても見てくれてる人を追う必要なんてないから追わないだけで、あなたもたくさんの人に想われているのに。
 早い者勝ちという言葉は悪いけど、それを踏み越えてサンジくんに告白する人は勇気があって、素敵で、だからこそサンジくんの隣に立つにふさわしい。そしてサンジくんはきっと、手を取ったら自分から離れない限り一生尽くしてくれるだろうからやっぱり、早い者勝ち。

「一番は誰なんだろう、楽しみだね」
「……おれは一流のコックさんだけど」
「うん?」

 ハートを象っていたはずの目がまっすぐ私を見つめていて一瞬動揺する。急に話が変わったことに不思議に思いながら続きを聞こうと私もサンジくんのそのまっすぐな目を見つめて相槌を打つ。

「おれは海賊のお高い懸賞金がかかった黒足のサンジで」
「うん」
「お宝は奪う側で、おれ自身はお宝ではないんだよ」
「ああ、この世の女性すべての心を奪うってこと?」

 それも楽しみだね、と思わず笑ってしまって固まる。
 だっていつものサンジくんと違う。女の人を語るときのサンジくんは、いつももったいないくらいだらしなく顔をとろけさせていて、だから、こんな、戦っているときのようなまっすぐな視線を向けられるのは違うはずで。

「君の心だけが欲しい」

 奪う側、だなんて言っておきながら、請うように落とされた言葉に息ができなくなった。

「君の一番かどうかはどうでもいいけど、……いやまあそれはちょっと嘘だけど一番だろうが何番だろうがそんな名誉あるクソ野郎共がいるなら殺したい、……君の一番最後の男になる権利は、どうやったら貰えるの?」

 ごにょごにょと早口に物騒なことを間に挟んでいつものサンジくんにホッとしそうになったのも束の間、またまっすぐ尋ねられて視線を彷徨わせてしまう。私の戸惑いに気付いたサンジくんが、ふ、と小さく笑って焦る。だって、冗談にされてしまう。人一倍優しいサンジくんは、奪うだなんて言っておいて結局、女の人に優しくて、私にも優しくて、だから。

「奪うんじゃ、なかったの、」

 だから差し伸ばされた優しさにつけこんで、臆病になってしまう。
 サンジくんに選んでもらおうと責任転嫁。想像していた一番乗りの女の子とは程遠い、ずるい女のやり方で、歯噛みする。サンジくんにお似合いの、かわいくて勇気があって全てを受け入れられる懐の広い女の子になんかとてもなれなくて、やっぱりふさわしくない私に、今まで通りで良いと笑おうとした。冗談にしようと仮面を貼り付けようとした、はずなのに。

「めでたしめでたしにするにはプリンセスとプリンスじゃないと。だからこうやって、プリンセスにお伺いを立ててるのさ」

 ぱちん、とキザったらしくウインクを放つ姿に、仮面を貼り付けなきゃいけないだなんてことすっかり忘れて思わず普通に笑ってしまった。その私の笑顔に、キザを外してしまったと思ったのか頬を爪でかきながらうーんと考え込む姿はいつもの女の人に素気無くされて少し落ち込むサンジくんで、王子様な姿よりこっちの方が馴染みがあるな、だなんて、油断した。

「……断られちまったら、海賊の出番があるかもしれないけど」

 てっきり、もう冗談になるかと思った。サンジくんに差し伸べられた手を掴めない、優しくも可愛くも度胸もない女だったから、いつものコントのようなそんな流れになると思っていた。だから、頬をかいていた手が私の腰に伸びて、ぐい、と引き寄せられるのにも反応できないくらいすっかり油断していて、いつの間にか私の眼前は真っ黒。今私の周りにある黒といえば、サンジくんの着ているスーツだけで、強引に抱き寄せられたことに気付いて顔を上げる。
 困ったように笑うサンジくんが視界いっぱいに広がって息が止まった。

「断らないで、プリンセス」

2021/05/13