拉致されたにも関わらず手の中におさまる石ころをきれいきれいかわいいかわいいとしか言わない女にもしやそれは妖刀と同じ種類の人間を惑わす何かなのかと思ってしまう。ただ色のついた石ころとしか思わなかったおれがつけていたから何もならなかっただけで、一般人が妖しさに取り憑かれてしまったのかと。そう思ってしまうほどこの女の心酔っぷりは凄かった。

「きれい」

 今日も甲板で石ころを太陽の光に透かしてうっとりつぶやく姿に眉を顰める。お前、海賊に誘拐されたのわかってんのか。

「あっ、クロコダイルさん、おはようございます」
「あァ、……飽きねェな」
「はい、すっごく綺麗で……」

 一瞬ちらりとおれを見やったのに言葉の途中で石の存在を思い出したのかまた視線を石に戻す姿に眉間の皺が深まる。本当に妖刀の類じゃねェのか。

「おい、欲しいのはそれだけなのか」
「?」

 不思議そうに首を傾げながらおれを振り返る姿にイラついて砂で絡めとる。相変わらずバランス感覚に喚くだけで恐怖に顔を歪ませない女に呆れながら宝物庫へ足を進めた。

「……こっちの方が高ェだろう」
「照明要らずですね。きらきらしてる」
「……そうじゃあねェ。他に気にいるもんはねェのか」
「全部素敵ですけど、私はもうこの子だけでいいんです」

 暗闇でも鈍く光る金銀財宝を見せてもあの時のような目の輝きはない。その石ころを見るときだけ、きらきらと輝く。

「拉致られても構わねェくらいに心奪われる価値がソレにあるのか」
「うーん。ちょっとびっくりしましたけど、でも、一生かけても庶民には手に入れられない宝石の代償にしては安すぎませんか? だって私、酷い目にあってない」

 拉致の時点で大概酷い目だろう。この女は馬鹿なのか。いや、馬鹿で面白かったから連れてきたんだが。そこを気に入っていたはずなのに、今はなんだか腹が立つ。

「お前の言う酷い目ってなんだ」
「体が傷付けられたり、心が傷付けられたり……?」
「拉致は十分まともなお嬢さんの心を傷付けると思うが」

 まあまともなお嬢さんだったら面白いとは思わなかっただろうが、それとこれとは話が違う。

「……海賊なのに良い人ですねえ……アイタタタタ!!」

 しみじみと呟かれた言葉に腹が立ったので枯らしまではしないが容赦なく締め上げた。面白いくらいに痛がる女に溜飲を下げて地面にも下ろす。意味のわからないことをほざくな。良い人は国を乗っ取ろうともしないし、女を拉致したりもしない。

「今までよっぽど悪辣な場所にでもいたのか」
「いえいえそんなごく普通の一般人です」
「ごく普通の一般人はガラの悪い男に宝石をねだらないし海賊に拉致られたら泣き喚くんだよ、お嬢さん」

 呆れて吐き捨てた。

「次からはそうします」
「次はもうねェ」

 だから、おれに捕まった時点で次はねェんだよ、ほとほと呆れ果てて見下ろせば、石を見つめていた時と同じ顔で笑う女がおれを見上げていて、

「はい。なので大丈夫です」

 なんてのたまうから、どう返せば良いのかわからなくて言葉に詰まった。

2021/06/14