時には悪の方が健全だ



「しばらく見学いいっすか?」
「あかん。帰れ」
「あ、椅子あざーす!」
「もー、小瀧!見学禁止!楽屋戻って!」
「ええから、気にせんと仕事しいやー」
「嫌やって!あ!とも!小瀧連れて帰ってや!」
「んー?俺も見学しよっかなー?」
「え、神ちゃん珍し!どないしたん?そんなに真夏見たいん?」
「ほんま最悪」
「最悪って最も悪いってことやで?ひどいやん」
「ごめん。でもともに見られると緊張するわ。なんかでっかい成果出さなあかん気がして」
「ストイック!」

眩しいくらいの照明が焚かれたスタジオはまるで夏。
ちょっと暑いくらいの室温は水着着てる俺らに合わせてくれてるから、カメラマンさんの首筋に汗が滲んでた。
その向こうにいる真夏は白いバスローブの前をしっかり握って、のんちゃんのちょっとやらしい視線を必死に防いでる。
夏が近づくと時折入ってくる水着撮影。
『真夏の水着姿を見たい』って下心丸出しののんちゃんは、昔からなにかと理由をつけてこうやって撮影を見学してる。
いつまで経っても男の子。
何歳になっても末っ子で甘えん坊。
なんやかんや言ってものんちゃんのきゅるきゅるな目でお願いされたら真夏は無理矢理追い返したりはしない。
撮影が始まると真夏が慣れた様子でサラッとバスローブを脱いだ。
この手の撮影は得意中の得意、というより、デビューして7年も経てばもう慣れたもん。
……のんちゃん、鼻の下伸びてるで。

「っはー、やっぱり真夏って可愛いな」
「本人に言うたら?喜ぶで?」
「今更やろ。あと、俺結構言うてんで?真夏に可愛いって」
「そうなん?」
「そうそう。言いすぎてるから『ありがとー』って流されてる」
「その光景目に浮かぶわ」

メンバーからの賞賛は嬉しいけど照れてる段階はもう過ぎた。
シャッター切るたびに表情を変えて時にはその身体を魅力的に魅せる真夏は、昔と変わらないストイックさだけど昔よりも綺麗になってると思う。
メンバーやし同期やし、真夏の水着姿を見ても男女の感情は生まれてこうへんけど、綺麗やなーとは思うし思わず見入ってしまう。
のんちゃんと2人でパイプ椅子座ってジーッと見てたら真夏と目が合って、嫌そうにムッとされた。

「そこの2人嫌やー!楽屋戻りって!」
「ええやんかー!可愛いから見さしてやー!」
「いつも見てるから変わらんやろー!」
「何言うてますのー!姉さんええ身体してるやんかー!」
「言い方がオヤジくさくてもっと嫌やー!」
「誰がオヤジや!」
「あ、ごめん間違えた。ギャガーやったな!よ!野草花火!」
「っ、……あー!真夏キスマークついてる!」
「え!?嘘やん!?」
「うっそー」
「ひどい嘘やな」
「なんや小瀧、喧嘩するか」

喧嘩する気満々でぶんぶん腕振った真夏やったけど、『お前らいい加減にしろ』って目でチーフマネージャーが睨んできたからスッとその腕を下ろした。
2人が言い合ってる間、カメラマンさんは思ったようにシャッター切れてなかったみたいや。
危ない、撮影中断させてしまうところやった。
反省したのかしゅんとしたのんちゃんが背もたれに深く背をつけたからギシッて音が鳴った。
その音に重なるようなビーサンの乾いた音鳴らしてスタジオに入ってきたのは、水着にアロハシャツ着た照史やった。
あー、次は照史が撮影やったな。

「うわ、照史めっちゃ似合うやん。沖縄やん」
「せやろ?俺もびっくりしてん。衣装めっちゃ沖縄やなー思うて。てかここで何してん。2人とも休憩の時間やろ?」
「見に来たんよ、可愛い人を」
「可愛い人?……あー、そういうことか」

照史が撮影中の真夏に一瞬視線を向けたけど見慣れたもんなのかなんも反応せえへんかった。
真夏本人もさして気にしてないのか、カメラをじっと見て色っぽい表情をしてる。
それを見ながら、なんとなく、さっきの真夏の反応を思い出して。

「照史さ」
「んー?」
「太ももはギリギリバレると思うからやめとき」

さっきのんちゃんがからかったとき、真夏が太ももを押さえて視線を落としたのを見逃さへんかった。
しかも結構キワドイ位置。
普通やったら絶対誰にも見られへんけど、水着着たら見えてしまうかもしれへん、キワドイ太ももの内側。
咄嗟にパッて手が動いたみたいやしのんちゃんがからかっただけで本当にキスマークがあったわけではないけど、もしついてるとしたら”そこ”って真夏はわかってたんやろ。
俺からの問いに『え!?』って顔したのはのんちゃんだけで、照史は涼しいもんやった。

「真夏の太もも、めちゃくちゃええんよ。白くてふわふわ」
「正直やな。ちょっとは隠さんかい」
「俺がキスしたなんて一言も言うてへんやん」
「言うてる言うてる」
「言うてへん」
「百歩譲って言うてへんとしても、あの位置はやめとき。撮影で写ったらアウトやで」
「せやな。次から気をつけるわ」
「はっきり言うたな」
「絶対照史がキスしてるやん!」

あはははって笑うてる場合ちゃうで、って思ったけど、たとえ雑誌に載ったとしても本人は困らへんのかもしれへん。
お互いに好きで、お互いに大切で、でもお互いに好きとは言っていない、お互いに伝えていない、でもメンバーもファンも知ってる、そんな関係になってもう何年経ったんか分からへん。
隠してた時期もあったけど滲み出る想いは隠せてないし、むしろ隠す必要なんかないって俺は思ってる。
世の中の男が興奮するような、明らかにそれを狙ったような写真を要求されても真夏は嫌な顔ひとつせずに応じたし、それを止めるようなことも咎めるようなことも嫉妬するようなこともせず、照史はケラケラ笑ってのんちゃんと話してた。
お仕事はお仕事って割り切ってる。
ジャニーズWESTが上に行くために何をしたらいいのかを1番に考えてる。
2人とも、昔からずっとそう。

「はぁー、終わった。ともに見られるの緊張するから嫌や。あと小瀧うるさい」
「いやいや、そんなこと言うてますけど俺らがいた方がリラックスして撮影できますやんかー」
「逆にやりにくいわ!」
「俺らが楽しいだけやったな」
「楽屋戻ったらタカヒロ呼んできてくれへん?次やから」
「はいはーい」
「あ、真夏」
「ん?……ありがと」

撮影終わってバスローブ着てたけど、羽織っただけで前が開いてた。
近くにいたスタッフさんの視線が真夏に向けられたのは仕方がないことやったかもしれへんけど、どうやら照史は嫌やったようで。
バスローブを掴んでスッと前を閉じて、そのまま楽屋に戻るように優しく背中を押した。
自然な流れやったけど、照史の目から”仕事以外で見せる気は無い”って思いが伝わってきて、のんちゃんと視線を合わせて瞬きしてもうた。
真夏の『ありがと』に、のんちゃんに返すテキトーな返事とは違う熱を感じて、あーもーそろそろ付き合ってくれへんかな、なんて頭に浮かんで。
その考えを秒で消した。
たぶん、この2人は一生付き合わへんのかもなー。





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