今日も地球を歩く僕らの話



「あー、疲れた」

さらっと、自然に、何の躊躇いもなく出てきた言葉に目を丸くした。
昼公演のライブ配信が終わった直後、センターステージからはけていく他のメンバーには聞こえへんかったかもしれへん。
ぺたんってセンターステージに座り込んだ真夏の横をスタッフさんがかけていく。
夜公演、このツアーのラストに向けて準備が進む中、真夏はまるで当たり前のようにそう口にして。
なぜかその言葉が嬉しかった。
ストイックで体力おばけで強がりな真夏が『疲れた』なんて言葉を自然と溢すことなんて、たとえ同期の俺の前でもなかったから。

「歩ける?」
「歩ける歩ける。2分余韻に浸らせて」
「汗やばない?」
「めっちゃダンスしたから汗だくやな。まあ平気やろ」
「ちょっと待ってな」

汗でぐしゃぐしゃになった真夏の頭にタオルをかけてると、心配そうな顔した照史がこっちに戻ってこようとしたから『大丈夫やで』って視線と仕草で伝える。
体調不良でも落ち込んでるわけでもない。
ただ、少しだけ疲れてて少しだけ余韻に浸りたいだけ。
少しだけ、次のラスト公演に向けて充電したいだけ。
俺も隣に座ったら真夏が眉を下げて笑った。

「どうしたん?ともも余韻に浸る?」
「んー、別に。なんとなく」
「そっか。なんとなくか」
「ちょっとだけ付き合ったるわ」
「優しい同期やな。知ってたけど」

あははって笑った真夏がアリーナ席に置かれたうちわに視線を落とした。
全国のジャスミンが送ってくれたうちわは無観客配信ライブっていう新しい戦場で俺らの心強い味方でいてくれる。
その力を感じて愛しそうに微笑んだ真夏の横顔を見て、俺は京セラドームでの涙を思い出していた。
もう一度あそこに立ちたかった。
立てるはずやった。
でも目に見えない敵によって、それは叶わなくなった。
俺たちにできることを探して、見つけて、正解かわからないけどそれを掴むことに必死で。
たくさんの人の力を借りて、がむしゃらに走って、今日を迎えた。
その結果が『疲れた』なのかもしれない。

「淳太くんがさ、さっきの挨拶で言うてたのめっちゃ刺さったな」
「なんて言うてた?」
「”俺たちがやってきたことは間違いじゃなかった”」
「あー、言うてたな」
「ほんまにそうやなって、今、すごい思う」
「あははは、なに?めっちゃ浸ってるやん」
「浸りたくもなるて。ほんまに、月並みやけどさ、ジャニーズWESTって最高やなって思うしジャスミンのこと大好きって思うしスタッフさんみんな大事やし、これがこの先ずっと続けばええのになーって、思う」

顔を伏せたら真夏の目が見えなくなって、何が言いたいかやっと理解する。
“終わり”が嫌いな人やった。
“最後”に抗う人やった。
最後の”1秒”まで、誰1人欠けることなく走り切りたい人やった。
2020年、たくさんの”最後”を見たから。
近くにいる仲間も、追いつきたかった先輩も、憧れてた人も。
いろんな人がいろんな”最後”を迎えてたから。

「珍しいな。わかりやすく甘えてるやん」
「え、嘘やん。わかりやすい?」
「わかりやすい」
「そんなことないて。てか甘えてないし」
「あ、そう?ほんなら先行くわ、」
「待って嘘やってそこは分かるやん同期やねんから」
「わかるか。同期ってそんな便利なもんちゃう」
「あははは、そうやな、うん、言葉にせな伝わらんか。ちょっと疲れてるからちょっと休憩したい」
「ええよ。いつまででもここにおるわ」
「かっこええやん。やっばー」
「ちょっとバカにしてるやん!」
「してへんしてへん」

どこが面白かったんか全然わからへんけどケラケラ笑った真夏の目は潤んではいなかった。
キラキラ、ギラギラ、疲れなんか感じない強い目で、汗を拭って邪魔そうに髪を耳にかける。
少しだけ弱気、少しだけ甘えたい、少しだけ、同期に寄り添いたい。
そんな空気を感じたのに、わかりやすく手を伸ばさへんのが俺らやから。
今回のライブのここが良かった、ここが好き、ここが最高で誰にも負けない、なんてメンバーの好きなところを話して、2分なんかとっくに過ぎて、紙吹雪を片付けようとスタッフさんが申し訳なさそうに近づいてきたからそろそろ楽屋に戻ろうと思って。
先に立ち上がった俺を見て真夏も自分で立ち上がった。
手を伸ばすことも、手を待つこともせえへんかった。

「楽しいなー、命懸け」
「ほんまやな」
「ともとはこれからもずっと死ぬまでsurvivalやなー」
「あははは、せやな。ってことは”最後”はないねんで?」

ぽかんって顔して一瞬止まった真夏が、何を言われたのか理解してふはって噴き出した。
嬉しそうに幸せそうに笑って俺の背中を叩いたから、俺も強く叩いた。
ライブは始まれば終わる。
必ず終わる。
でもそこで俺らは終わらない。
2021年も、その先も、”最後”は来おへん。



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