プリンシパルの君へ



キラキラな衣装、可愛らしいセット。
自分としてはかっこいいものが好きやけど、こういう可愛いものをファンの子らが望んでくれてることもよう知ってる。
このMVを見てきゅんきゅんしてくれたら。
そんなことをメイキングカメラに話してたら、真夏が廊下の向こうから歩いてきた。

「お!真夏来ましたで。真夏ー!」
「なに?もちもんちインタビュー?」
「そうそう。今回のMVどうって」

真夏が隣に並ぶとカメラさんが画角を広げた。
メンバーの中じゃ身長低いって言うても真夏との差はある。
2人がちょうどええ感じにカメラに収まったのを確認して、真夏は口を開いた。

「可愛い系のMVやな。小瀧によう似合う。反対にはまちゃんは苦戦しそう」
「あははは、せやな。淳太とかも似合いそう」
「似合うと思う。性格が王子様やもん。と…、神ちゃんも似合うで。金髪やし。あ、でもかっこつけたい派やもんな」
「そうやね。かっこつけたい」

今、ともって言いそうになってギリギリで堪えたな。
俺のこと『とも』って呼ぶのは真夏だけ。
あとのメンバーは『神ちゃん』って呼ぶからこういう表に出る仕事の時は『神ちゃん』って呼ぼうとしてるけど、別に『とも』でもええと思うんやけど。
ファンの子らには真夏の『とも』呼びは知れ渡ってるし。

「目キラキラやね」
「メイクさんがキラキラアイシャドウ塗ってくれてん。衣装に合わせてキラキラ」
「めっちゃ可愛いやん。真夏もその衣装よう似合うで?」
「ほんま?でも私も神ちゃんと一緒でかっこつけたい派やからなんか違和感。こんな王子様衣装久々やわ」
「顔がちょっと童顔やから似合うんかな」
「童顔…。今年で26歳やで」
「全然見えへん」
「キープできるように淳太くんのアンチエイジング見習おう」

目元が見たくてすっと前髪を梳くと、キラキラがもっとようわかる。
ぐっと距離が近くなったけど、お構いなしに真夏は会話を続けた。

「ダンス激しめやから頑張りたい」
「せやねん。曲は可愛らしいのにダンスは本格的やんな」
「あ、ピンク色ジャスミンにええこと教えたる。神ちゃんもカメラさんも小瀧には内緒やで?」

人差し指をシーって立てて俺とカメラさんを手招きした。
内緒話をするように背を屈める。
まるでカメラの向こうのファンの子らもそこにいるかのように語りかけた。

「今回珍しく小瀧から私に『ダンス教えて』って連絡来てん」
「え!?のんちゃんから?それは珍しいな。真夏から教えるのはたまにあるけど」
「な?意外やろ?私もびっくりしたからどうしたん?って聞いたらさ、小瀧が『せっかくいただいた映画の主題歌やからファンの人にかっこええとこ見せたい』って」

言われた時を思い出したのか真夏の顔がくしゃって笑顔になった。
真夏のダンスの指導は厳しい。
いつもののんちゃんやったらイヤイヤ練習することもあるのに、今回はめちゃくちゃ気合い入ってるやん。
真夏も嬉しそうやな。
いつもこっちから指導するのが当たり前やったのに、まさかのんちゃんから言うてくるとは。
カメラの向こうにいるファンの子に伝えられて満足したのか、屈んでた姿勢を元に戻した。

「ジャスミンのみなさん、小瀧のダンスに注目してください。それではどうぞ!……って感じで映像繋いでください」
「ありがとうございます。いい振りになりました」
「使われるか?」
「わからへん。出来れば使ってほしいけど」

撮れ高十分って判断したのか、真夏は全開スマイルをやめていつものほんわかした顔に戻った。
撮影始まるまであと少し。
廊下に淳太が歩いてきたのが見えて、そっちを指差す。

「淳太くん来たから次は淳太くんにインタビューしたってください。とも、時間ある?最後の仕上げに小瀧のダンス見てあげようや」
「ええけど、のんちゃんやりたいって言うかな?」
「たぶん」
「たぶんかい」
「でも私とともで仕上げたら完璧やろ?」
「まあな」

カメラがなくなった途端に『とも』呼びに戻った。
それがなんか嬉しくて、意味もなく真夏と腕を組んで歩いた。
メイキングカメラで撮られてるなんて気付かずに。






「このカメラ誰の?」

さっきまではまちゃんを撮ってたこたカメ用のカメラが椅子に置きっ放しになってる。
真夏ちゃんは不思議そうに首を傾げてこっちを見てた。

「たぶんこたかめやね。さっきはまちゃん撮ってた」
「はまちゃん?照史じゃなくて?」
「今日ははまちゃんの気分やったんちゃう?」
「へー。これ電源どこ?私も撮りたい」
「俺も分からん。そのカメラ使ったことない」
「スタッフさーん!教えてくださーい!」

近くにいたスタッフさんに声をかけて使い方を教えてもらってる。
望が持ってたときよりカメラが大きく見えるな。
準備できたカメラは、汗を拭いてる俺に向けられた。

「久々のもちカメが俺でええの?」
「もちろん。もちカメにご協力ください。えっと、MV撮影はどうですか?」
「あのー、汗がやばいですね。メイクさんをだいぶ困らせてます」
「ウェストで汗がやばいのってしげちゃんってイメージやけど、流星も結構汗かくな」
「そうやね。あの、サウナーやからさ、俺」
「サウナってそんなにええの?岩盤浴とは違う?」
「全然違うと思う。俺は岩盤浴あんまり行かへんからよう知らんけど」
「前に岩盤浴は行ったことあんねんけどサウナはなかなか行かへんねん」
「え、ほんなら一緒に行こう。絶対楽しいで?ディズニーやから」
「ディズニーではないと思うけど」
「いや、絶対ディズニーやから」
「ほんならディズニー行きたいわ」
「ディズニーにサウナはないからあかんよ」

真夏ちゃん、サウナの良さ全然分かってへんやん。
最高やねんで?
今度連れてったろ。
あ、今カメラズームされた。
結構近いとこで撮ってる。

「なんか、やってや?」
「雑!フリが雑すぎる」
「イケメンやからなんでも出来るやろ」
「俺がそういうの苦手って知ってるやん」
「これ結構難しいな。小瀧すごいわ、なんも出てこん」
「俺が照史ほど引き出しないっていうのもある」
「ほんなら照史があんまりやらへんことやろう」
「えー、なに?……あ、自撮りしよ」
「自撮り?」
「そうそう。照史やらへんやん。カメラ貸して」

カメラを受け取って真夏ちゃんの隣の椅子に移動する。
カメラ重っ!
やっぱりスマホとは違うけど、なんとかいけるやろ。
レンズをこっちに向けて真夏ちゃんと頭をこつんって合わせた。

「近ない?」
「こんなもんやろ普通」
「えー、今時の子はそうなん?」
「そうそう」
「ふーん。……これちゃんと撮れてんの?」
「撮れてる撮れてる。はいピース」
「ピースピース」
「ふは、可愛い」
「バカにしてるやん」
「してへんよ、ほんまやって」

アイドルスマイルと顔に添えられたピース。
衣装やメイクの効果もあるやろうけど、本当に嬉しそうな顔で笑うからめちゃくちゃ可愛い。
改めて考えると、この人が同じグループってすごいな。
望月担としては、ツーショット撮れるって奇跡みたいや。

「真夏、ちょっとええ?」
「はいはーい。もちカメこれで終わりな。流星ありがとう」

カメラの電源を落としてスタッフさんに戻す。
後で見せてもらおう。
俺も映像欲しい。






真夏にダンス教わっといて良かった。
休憩時間にメンバーとふざけてられるくらい余裕がある。
照史の首元を掴んでグッと近づいたら、急に乙女の顔になった。

「っ、すき…」
「あははは」
「唇とんがるとこやった」
「危ないな」

男同士で何言ってんねん。
……あ、ええこと思いついた。

「真夏にもやったろ」
「え!?望怒られんで?」
「俺じゃなくて照史やってや」
「は!?」
「お、久々のきりもち?」
「ちょ、絶対嫌やって!」
「真夏ー?」
「ちょっとこっち来てー」
「んー?」
「俺無理やって!」

メイクさんに汗拭いてもらってた真夏がこっちにちょこちょこ歩いてくる。
なに?って首傾げてる姿とは対照的に照史は焦った顔してキョロキョロし出した。
この2人面白いねんな。
せっかくメイキングカメラも来てるし。

「今さ、グッてやったらきゅんってするっていうのやってんねん」
「グッてやったらきゅんってするってどういうこと?」
「今からやるから動かんといて」
「え、説明なし?グッてやったらきゅんってするってどういうこと?」
「小瀧さん、やめときましょ。俺が真夏にこういうのできへんって知ってますやん」
「自分できるって、やってみ?」
「こら小瀧、なんで無視すんねん」
「あの、無理ですほんまに。真夏には無理」
「じゃあ俺がやろか?」
「嫌や!」
「もー、さっきからなんの話、」

照史が嫌なんやったら俺がやったろって思って首元に手を伸ばしたら、一瞬で照史の顔が怖くなってその手を振り払われる。
そのまま、驚いた顔した真夏の首元に手添えて一気に距離を詰めた。
身長差で見上げてた真夏に迫ったから、これ、ほんまに、唇当たる?

「っ痛!」
「いっっった!」
「だ、大丈夫!?めっちゃすごい音したで!?」

真夏が咄嗟に下向いたから2人のおでこががちんってぶつかった。
あまりの痛さにしゃがみ込んでる。
神ちゃんと俺もびっくりして2人の顔を覗き込んだ。

「痛い痛い痛い!石頭!」
「なんやねんもう!いきなり何すんの!?小瀧の悪戯!?」
「俺は言うたんやで、嫌やって!」
「じゃあやらんかったらええやん!なんでのせられてやってんねん!」
「しゃあないやん!のんちゃんが真夏にやろうとするから!」
「ええやろ別にやらせとけば!」
「嫌!望でも嫌!」
「2人とも顔真っ赤」
「おでこも真っ赤や。距離近かったな、俺がきゅんきゅんしてもうた」
「とも!なんであんたも悪ノリしてんねん!」
「俺!?そんな怒らんでもええやん」
「もう少しでキスするとこやったやん!」
「っ、」

あーあー、言うてもうた。
照史の顔がもっと赤くなって、カメラに入るか入らへんかくらいの声でつぶやいた。

「やれるもんならやってるし」

事故に見せかけてキスできるっちゃあできるシチュエーションやったけど、2人とも無意識に避けたんやな。
久々に面白いきりもち見れたわ。
でも、そろそろこの辺で冗談にしとかなあかんな。
淳太が心配そうな顔でこっち見てる。

「はいはい、きりもちごちそうさまでした!」
「小瀧!反省せい!」
「すんません」
「全然反省してへんやないかい!」

backnext
▽sorairo▽TOP