傷だらけの愛



スタジオに並んだ2つの冷蔵庫。
扉を開けてみると中身は空っぽやった。

「これいる?」
「中入ってないん?」
「なんも入ってない」
「えー、なんかあってほしいな。ケーキとか」
「昨日仕事終わって買ってたやん」
「食べてもうた」
「あ、夜中に甘いもん禁止やで。太ってまう」
「ほんまや。ダイエットせな」

うーんって難しい顔して冷蔵庫の扉を閉めた。
真夏が履いてるスキニーはめっちゃ細いからスタイルええんやけど、本当は太りやすい体質。
俺がぽっちゃりやから目立ってないけど、真夏やって趣味はダイエット、特技はリバウンドっていうくらい大変な体質や。

「顔浮腫んでる気がする」
「何言うてるん?全然そんなことないで?」
「いや、絶対浮腫んでる。鏡ある?」
「はい」
「ありがとう」

メイクさんから貰った鏡を掲げると真夏が覗き込んだ。
顔回りの髪をくるくる指先で触って、何度も瞬きを繰り返す。
顔、浮腫んでるか?
いつも通り可愛いと思うねんけど。
あ、髪に埃ついてる。

「髪に埃ついてんで?」
「ほんま?どこ?」
「そっち、あー、ちゃう、もっと右」
「わからへん……鏡じゃ見えへんし」
「メイクさーん!」
「はいはい」
「埃取ってもらってもいいですか?」
「はい、取れました。OKです」
「ありがとうございます」
「これくらいだったら桐山さん取ってもらっても大丈夫でしたよ?」
「ほんまですか?せっかくセットしてるし、崩れたらあかんかなって」
「もー、気ぃ遣いやな。ちょっとくらい大丈夫やで。縛ってもないし」

なんでもないように真夏はケラケラ笑ってるけど、そんな簡単に触れへんってこの子全然わかってないな。






「自分の番が終わると開放されるな」
「淳太くん、終わった時笑顔やったな」
「あはは、ほんま?顔に出てた?」
「出てた」

ソロダンスパート撮るってだけでも緊張するのに、メンバーが見てるってほんまにやばい。
案の定、しげが失敗してニヤニヤこっちを見た。

「順番変わってもらってもいいですか?」
「あかん」
「しげちゃん頑張れ!大丈夫や!」
「真夏ちゃん、他のメンバーの時応援してなかったやん。急に?」
「落ち着いてな?いっぱい練習したから大丈夫や!フリは身体に入ってる!あとは楽しむだけや!」
「うるさ」
「上手い!ええね!しげちゃんめっちゃかっこいい!」
「俺の時と全然ちゃうやん!」
「望の時、めちゃめちゃスパルタやったもんな?」
「ほんまむかつく!なんで?しげ俺よりミスってるやん!俺も褒めろや!」

騒ぐのんちゃんを無視して、真夏は戻ってきたしげを笑顔で迎えた。
あ、しげも安心した顔してる。
俺もあんな感じやったんかな。

「真夏ちゃん、嬉しいけど笑ってまうわ」
「え、ごめん、控えるわ」
「いや、嬉しいっちゃ嬉しい」
「俺のスパルタ控えてほしい……」
「真夏次いく?」
「いく」
「俺前で見ていい?」
「望月さん、勉強させてもらいます!」
「任せろ!」
「何点取る?」
「100点!」

自信満々やな。
ダンス得意やし当たり前か。
安心しきった顔で望月担の流星を筆頭に真夏をじっと見てたら事件は起こった。
サビに入って4秒、真夏が叫び声を上げた。

「ああああああ!?!?!?!」
「え、嘘やん」

真夏がダンス間違えた。

「え、どうしたん!?」
「真夏が間違えた!」
「珍しいー」
「真夏ちゃん!嘘やん!あっはははは!」
「大丈夫か?」
「真夏が間違えた!あの!真夏が!間違えた!」
「のんちゃん容赦ないな」
「そんな何回も言うなや。お前も間違えとんねん」

ダンスリハならともかく、カメラ回った本番で真夏がダンス間違えるなんてほんまに久々に見た。
しかもメンバーが見てる前で。
のんちゃんがからかう声を聞きながら真夏はその場にしゃがみこんで項垂れた。
相当ショック受けてるやん。
安心せいって顔で笑った照史がグリーンバックのセットに足を踏み入れる。

「うわー、ないわ、ほんまにないわ」
「真夏、大丈夫やって」
「ミスるん久々やからめっちゃ凹む」
「見て分かるわ」
「なにが100点やねん、0点やわ」
「途中まで完璧やったから50点ちゃう?」
「そんなことないやろ」
「大丈夫や。自信持ちって。もう1回やれば成功する。世界で一番素敵やから大丈夫」
「……うん、頑張る」
「立てる?」
「立てる」

これも珍しいな。
照史がそっと手を伸ばして、そこに真夏が手を重ねた。
立ち上がった真夏は気持ち戻ってきたみたいで、ちゃんと笑えてるし瞳もギラギラしてる。
これは成功するやろ。

「なんか、久々に見た」
「なにが?」
「照史のあういうの」
「せやな」

カメラが回ってるとか、スタッフさんがいるとか、俺らメンバーが見てるとか、きっと照史には関係ない。
真夏が下を向いてしまうなら、いつだって手を伸ばす。






照史に2つのカメラが向けられてる。
こたカメとかみカメ、2台のカメラに狙われてるの面白いな。

「はまちゃん、一緒に撮ってもらおう」
「え、俺?」
「そう俺。途中から来たからまだ一緒に映れてないやん。かみカメこっち来てや!」
「ん?ええよー。GS?」
「GS。はまちゃんと一緒に撮って」
「はいはーい」
「こたカメも連れてって!お願い!」
「こたカメはええや」
「パンしまーす」
「なんで!?」

ニコニコで神ちゃんがカメラをこっちに向けてくれた。
真夏、ソロダンスパート上手くいったらしくてさっきから機嫌ええやん。
スッと肩の力を抜いて俺の隣に並んだ。

「なで肩」
「全然なで肩ちゃうし。本物はこうや」
「うわ、めっちゃなで肩」
「せやろ?」
「肩パット入ってる?」
「肩のインサート撮りまーす」
「お願いしまーす」
「え?いらんやろ」
「いるいる。次肩のパン撮りまーす」
「やりまーす」
「ちょ、なにこれ!もちもんちさっきから肩しか撮ってへんやん!」

そんな何回撮ってもなで肩のままやから!
まあ、もちもんちが楽しそうやからええか。

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