花火と彼女



「ともー」
「ん?」
「ジャニーズWESTの曲で花火がテーマな曲ってあったっけ?」
「…うーん、ないんちゃう?」

視線をスマホに落としたまま聞いてきた真夏にそう答えたら、残念そうに眉が下がった。
真夏越しに見える窓の外は絵画みたいな入道雲で、今夜の夜空は綺麗に晴れて澄んでるやろ。
そんな空に映える花火の曲っていうのは、ジャニーズWESTの楽曲にはないかもしれへん。
夏生まれが多くて夏の曲が多いいうても、夏要素を全部を網羅してるわけちゃうから。

「なんで?どうしたん?」
「正門から連絡来たんよ。夏のライブのセトリ考え中なんですけど、花火関連でええ曲ありますかーって」
「エイトさんの純情恋花火は?」
「それは私もおすすめしといた」
「それに勝る曲はまだないんちゃう?」
「そうかもしれへん。…あ、しげちゃん!花火がテーマなジャニーズWESTの曲知ってる?」

ちょうど楽屋に戻ってきたしげに駆け寄って真夏が同じ問いをしたから、『正門とそんな仲良かったっけ?』って聞くタイミングを逃した。
ジュニア時代に尖ってた真夏は基本後輩に怖がられてるんやけどな。
かろうじて仲がいいって言えるのは、同期であるなにわ男子の丈くらいや。
いつのまにAぇの正門と連絡取り合う仲になったんやろ。
不思議に思いつつ真夏を目で追うと、しげはペットボトルの蓋開けて水飲んでた。
今日も暑いんよ。

「花火?ジャニーズWESTではないんちゃう?サマーソングは多いけど」
「あー…、やっぱそうやんな」
「あ、でも俺自分で作ったことあるで?」
「え、花火の曲?」
「そうそう。昔さ、ジュニアの頃みんなで夏祭り行ったやん?真夏ちゃんが帰りたくないって駄々こねたやつ。そん時のこと書いたんやけど、リアル過ぎてやめた。めーっちゃ不器用やったし。今も変わってないけど」
「あー、あん時か」

俺としげは視線を合わせてニヤニヤしたけど、真夏はぴんときてないのか首を傾げた。
覚えてないん?
ジュニアの頃、みんなで花火大会行くってなって真夏が浴衣着てきたんよ。
みんな褒めてくれて本人も喜んでたのに急に照史が仕事で来れへんってなったらテンション下がって。
夜店も回りきって花火も見て『照史くん来おへんから帰ろうやー』って俺やしげが言っても帰らなくて、焼きそばもたこ焼きも水風船も腕いっぱいに抱えてずっと待って。
もう来おへんから家まで送るって流星が言っても珍しく駄々こねて、照史を待って。
結局照史が来たんは花火終わってから1時間後やったけど、仕事終わらせて走ってきた照史が真夏見て、

『来てよかった…!真夏の浴衣見れた…!』

って笑って。
真夏も嬉しそうな顔して、

『待っててよかった…!』

って言うて。
それしか言うてへんのに2人の全身から『会いたかった』『浴衣可愛い』『可愛いって思われたい』『好き』って滲み出てて、俺らニヤニヤ抑えるん必死やったんやで?
その時の情景を歌にしたら随分可愛らしい歌ができそうやけど、そんなん作ってしまったら2人は恥ずかしくて堪らんやろ。
あと流星が死ぬ。
1人、分かってない真夏は頭にはてな浮かべたまましげを見てた。

「しげちゃんの花火ソング聞きたい」
「歌にするにはちょーっと短いんよ。2人が付き合ったらええよ?書けそう。ストーリー性あるし」
「え?……重岡大毅が私と付き合うということでしょうか?」
「違うな」
「落ち着け」

カッて目見開いて本気の顔したから若干しげが引いてるわ。
そんなんちゃう。
照史と真夏の話やで。


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