あなただけという意味ですが。F



「ぷ、ぷ、プロポーズされてん…!」
「っ待ってその顔なに!?めちゃくちゃ可愛いねんけど!!!」
「流星、驚くんはそこちゃう」
「ええ!?マジで!?」

仕事前にえらい爆弾放り込んできたやん。
嬉しい気持ちを抑えきれへん真夏が照史からもらった婚姻届を持って見せびらかしてくる。
ふわふわぽわぽわした顔に流星は悶えてるし、のんちゃんはびっくりして唖然としてるし、俺はなんか妙に冷静に真夏が持ってる婚姻届をじっと見た。
証人に淳太とはまちゃんの名前があるってことは、お兄ちゃん組はもう知ってるってことやん。
知らんかったのは俺ら弟組か。

「真夏、ちゃんと説明しなさい。プロポーズされたけど籍入れへんやろ?」
「うん」
「ますますわからん」
「それだけ覚悟があるって見せたってだけで、結婚はせえへんから。グループのこともあるし、俺らアイドルやで?そう簡単に結婚できへんって」
「はまちゃんがまともなこと言うてる…」
「しゃあないやん、説明できる奴が俺しかおらんねんもん」

別の仕事が押してるから照史も淳太もいない今、確かに全貌を知ってるのははまちゃんと真夏本人だけやな。
どうやら婚姻届は書いたけど出すつもりはないらしい。
現に婚姻届には真夏の名前はまだ書かれてなくて、このままじゃ受理されへん。
結婚を望んでるわけじゃなくて照史なりの覚悟ってことなんかな。
この先真夏しかいないって、覚悟。
一通り説明して興奮が冷めたのか、真夏は宝物を扱うみたいに婚姻届をバッグに仕舞った。

「…真夏ちゃん」

おめでとう、やっとやね、俺らも嬉しいわ、なんて祝福の言葉を皆がかける中、難しい顔して黙ってたしげがやっと口を開いた。
眉間に皺寄せて難しい顔したまま、ふわふわした楽屋の空気を飲み込んでいく。

「照史、なんて言うてた?」
「え?」
「真夏ちゃんのこと、なんて言うてた?」
「……好きだって言うてくれた」
「……そっか、うん、そっかー、へへ」
「しげちゃん?」
「おめでとう」
「っ、」
「おめでとう、真夏ちゃん。俺らも真夏ちゃんと照史のこと大好きやで」

いつもと同じだけどいつもと同じじゃない。
真夏にやっと届いた『好き』を噛み締めるように、まるでそれがしげ自身にとっても宝物になったみたいに、心底嬉しそうな顔で笑った。
燃えるように熱い、最高の笑顔やった。

たとえいつか終わりが来ようとも、たとえ2人が一緒にいられへん未来があったとしても、今は笑っている。
この瞬間は、俺らメンバー皆が2人を祝福してる。
それだけで十分やった。



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