やだやだ、ぐちゃぐちゃになって



「あ、そこ停めれる?もんち、ちょっとお店寄ってもええ?」
「ええよ。…あ、誕生日か」
「そうやねん…」

番組収録が早めに巻いて、夜ご飯食べて帰ろうかーなんて言うてた車は銀座の駐車場に入ろうとしていた。
ドラマチックな街灯に照らされたハイブランドのお店はどこもキラキラしていて眩しいくらいや。
大人になるにつれてハイブランドは見慣れていくものやし淳太も俺もハイブランドは好き。
自分へのご褒美や誰かからプレゼントでいただくことも多い。
そう、プレゼント。
8月も終わりに近づいている今、照史の頭の中は真夏の誕生日プレゼントのことでいっぱいや。
車を停めてくれたマネージャーにお礼を言って銀座の街に出た照史は、マスクしてても分かるくらい顔が曇っていた。

「なに見る?」
「うーん、とりあえずプラダ行こう。真夏好きやし」
「ええやん。バッグ可愛いし。何が欲しいとか聞いてるん?」
「聞いたけど、毎年同じこと言われんねん。『物欲ないからなんもいらん』」
「毎年言うてるなー。てかその話楽屋で流星もしてなかった?」
「してたしてた。『真夏ちゃん、なに欲しい?』って流星が真面目に聞いたのに」

「「いい!いい!いい!いい!」」

その時の真夏を再現しようと最近ジャニーズWESTで流行ってる『いい!いい!』ってノリを照史と一緒にやったタイミングがちょうどお店に入ったタイミングで、思いの外声が大きかったみたいで俺らに視線が集まった。
あかん、マスクしてるって言うてもバレたかもしれへん。
刺さる視線の中でも一際強い方を見たら、ただでさえ大きい目が零れそうなくらい見開かれとった。

ええ!?神山くんと照史くんや!
「え、こじけん!?」
「あー!正門もおるやん!」
お疲れさまです!?え、なんでいるんすか!?
「こっちのセリフやで!」
俺ら今仕事で東京来てるんですよ
「そうなん?連絡せえよー。あ、メシいく?」
行きます!
「ほな行こか?その前になんか買うたるで?」
ほんまですか?俺帽子欲しいっす
ちょっと待ってくださいよ!展開早い!照史くんサラッとカード出さんといてください!

びっくりした、後輩おった。
ちょっと前まで俺らの東京ドーム公演に出てくれてたAぇのこじけんと正門にこんなところで遭遇するなんて。
ケラケラ笑ってる俺らとこじけんに突っ込む正門見てると、どのグループもツッコミ大変なんやなーなんて感心してしまう。
それにしてもなんで2人がここおるんやろ?
ただ買い物来ただけなんかなーって思ったけど、どうやら違うみたいや。
正門の前に並べられた財布もバッグも小物も、全部女物。

「なになに?誰かにプレゼント?」
あ、えっと、はい
正門が真夏さんに誕生日プレゼント渡したいって
ちょ!?なんで言うん!?
え、言うたらあかんの?
真夏ちゃんに知られたら気遣わせてしまうやん!
「あはははは、大丈夫やで。俺ら言わんから」
「言わん言わん」
「真夏、喜ぶと思うで?」
そう、ですかね…
ほんまに内緒にしてくださいね?まっさん、サプライズするためにわざわざ丈くん通して好きなブランドと何が欲しいんかリサーチまでしたんですから
シー!もうこじけん黙ってくれ!
「そんなことまでしたん?へえー、すごいな、真夏何欲しいって?」
『プレゼントはいらないから、後輩に怖がられない方法を教えて』って言うてたらしいです
「なんやそれ」
「それ、教わっても真夏できるかなー」

そんなん言われたら丈は大爆笑やろうな。
真面目でストイックで他人に厳しくて自分にはもっと厳しい。
そういう真夏やったから今があるし、真夏の頑張りがあったからジャニーズWESTが大きくなれたのも事実。
後輩から怖がられて時には嫌われて失ったものは多いけど、真夏がストイックやからこそ正門みたいに素の真夏を慕ってくれる後輩ができたんやで。
眉間に皺寄せて真剣な顔で誕生日プレゼントを選ぶ正門の姿は微笑ましいし、真夏に見せてやりたいなって思う。
見たら泣きそうやけど。
そのくらい、俺らメンバーにとっても正門の好意は嬉しいから。
せやから照史が声をかけたのはなにも不思議なことじゃなかった。

「真夏、黒と白が好きやで?」
え?
「服はいろんな色の服着るからカラフルやねんけど、小物は黒と白が多いねん。あとアクセサリー系はシルバーが好き。あ、これとか似合いそうやん」
……
「財布とかバッグとかキーケースとか、普段使うものは物持ち良くてなかなか変えへんから、別のものがええかもしれへん」
…照史くんは?
「ん?」
照史くんやったらなにを選びますか?
「俺?うーん、どうやろ、眼鏡とか?たぶん持ってへんから」
……
「あ、もしかして俺がここ来ちゃったから被るか心配してる?俺が何選ぶかなんて気にせんでええよ?正門があげたものやったら真夏はなんでも喜ぶと思うで?」
……
まっさん?
じゃあ買わないです
「え?」
え!?
店員さん、せっかく出していただいたのにごめんなさい

言葉の裏にある笑顔。
照史が想像したのはきっと、正門から誕生日プレゼント貰って嬉しそうに笑う真夏の姿。
想像して、照史本人も嬉しくて、そこになんの他意もない。
全部本音や。
だから正門の目からスッと光が消えた。
照史は、正門が真夏に誕生日プレゼントを渡すことに何の危機感も感じていない。
そりゃそうやで。
照史は真夏が好きで、真夏は照史が好きで、その関係に名前はないけど2人が離れるわけない。
照史は自分の人生を真夏に預けた。
真夏はそれを大切に大切に抱きしめてる。
それが壊れるなんて考えてもいなくて、たかが後輩1人が好意を寄せようとなにも変わらない。
正門が真夏を女として好きだろうと、そう真夏に伝えようと、なにも変わらない自信も確信も確証もある。
残酷な程に、正門は眼中にない。
それが分かったから、正門は光を消した。

「正門?」

お店を出る直前、明らかに殺気を放った正門を呼び止めたら空気が揺れた気がした。
光が消えて、それで、また強く燃え上がる。

俺、諦める気ありませんから

後輩からこんなに鋭い視線向けられることなんて滅多にない。
普段の正門の柔らかい雰囲気とは真逆の刃物みたいな視線に唖然としてる間に、2人はお店を出て見えなくなった。
見開かれてた目が徐々に細くなって気まずそうに頭をかいた。
困ったように眉を下げるくせに、微塵もひよっていない。
ひよってないけど、さっきよりも本気の目してる。

「正門、本気で好きなんやな…」






なんであんなすぐ倒される敵キャラみたいなこと言うたん?負け確定演出やん。弱いで。あんなんで勝てるわけないやん。もっと主人公側のセリフ言うてくれや
こじけん、やめて、俺も反省してんねん
なんで反省してんねん。セリフのチョイスは最悪やったけど、宣戦布告としてはええんちゃう?
宣戦布告かー、…え!?ちょっと待って!?こじけんまさか、
はいはい、真夏さんのこと好きなんやろ?
なんで知ってんの!?
なんで知らんと思ってんの?てかそんなんどうでもええねん

どうでもよくないやろ。
え、どういうこと?
どこまで知ってんの?
怖いねんけど、まさかメンバー全員知ってる?
混乱して頭からはてな浮かんでる俺の腕を引っ張ったこじけんは、銀座の街を歩きながらスマホで何かを調べ始めた。

真夏さんの誕生日いつ?
え?あー、9月12日
お!ちょうど俺ら東京おんで。真夏さんに連絡して予定押さえて
ええ?今?
今!

どんどん進む展開についていかれへん。
こじけんに急かされて真夏ちゃんの予定を聞くこともなくストレートに『9/12に会いたいです』って連絡してもうた。
まだ何を贈るか決まってないのに。
まだ何を伝えるか決まってないのに。
それでも、銀座の大人な街灯と照史くんの余裕の表情とこじけんの後押しでいつもより早く走れる気がした。
止まったらあかん。
考えたらあかん。
先輩と後輩、年上と年下、デビュー組とジュニア、別々のグループ。
考えたら考えるだけ足が重くなる。
どれだけ足が重くても、好きって気持ちには正直でいたい。
もっともっと、欲張りたい。



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