理解した振りをしていたんだ



「あ!さっきおもろいメール来てたんよ!」
「どれ?」

テーブルに広げられた紙の束をしげがかき分けるから、ガサガサ紙の擦れる音がマイクに入る。
ヘッドフォンを通じて聞こえる音はリスナーにも聞こえるはず。
ラジオの収録はもう少しで終わりそうなところまで来てた。

「これ!読んでもええ?」
「どうぞ」
「京都府おもち大好きもちもちさんからいただきました。ジャニーズWESTの皆さんこんにちは!」
「こんにちはー」
「空色めちゃくちゃ濃い目の虹色ジャスミンです!」
「名前でもうわかるよ」
「どうしても叶えていただきたいお願いがあり、メールしました。ジャニーズWESTで1番照れ屋なのは重岡くんじゃないか?ってジャスミンの間では言われていますが、真夏ちゃんもめちゃくちゃ照れ屋じゃないですか?お仕事でスイッチ入ったら『好き!』とか言ってくれますが、お仕事モードじゃない時に言っているのはあまり見たことがありません。MVのメイキングもお仕事モードですよね?メンバーの皆さん、どうかストイックおばけではない、素の真夏ちゃんから『好き』という言葉を引き出してほしいです!絶対可愛いと思います!空色ジャスミンはずっと待ってます!これから暑くなりますが、お体に気をつけて頑張ってください!メールありがとう」
「え、真夏って照れ屋か?」
「照れ屋ではないんちゃう?静かなだけで」
「なんやろ、考えてることをストレートに声に出すのがちょっと苦手かもしれへんな。顔はわかりやすいもん」
「じゃあ真夏ちゃんが『好き』って言うてる時の顔して?」
「今?」
「今」
「いや、やってもええけどラジオやから伝わらへんで?」
「やって」
「……はい」
「ラジオやから伝わらへんわ!」
「なんやねん!だから言うたやん!」

ゲラゲラ笑ってるしげの頭を思いっきり叩いた。
何やらせてんねん。
イライラしてもうたわ。
思いっきり叩いたのにまだゲラゲラ笑ってるし。
変なやつやな。

「真夏ちゃん、結構簡単に好きって言うてくれるで?」
「それはしげやからちゃうん?」
「そうかもなー、真夏ちゃん俺のこと大好きやからなー。ほんまにさ、これ、あのーバカにしてるわけではないけど、正直、俺が載ってる雑誌見せたらすぐ『好き』言うてくれるで?」
「あははは、あいつちょろいな」
「あっははは!そう!真夏ちゃん意外とちょろいで?」
「これ流星が聞いてたら後でどつかれるで」
「やば!怖っ!」
「どうする?この子は『好き』を引き出して欲しいらしいで?」
「電話しよ」
「今!?」
「今!」

得意げな顔で笑ったしげがブースの外にいたマネージャーさんに携帯を要求してる。
これ、ほんまに電話するん?
大丈夫?
真夏、仕事ちゃうん?

「かけまーす」

プルっ、
ガチャ、

「早っ!」
『はい望月です』
「え、出るの早ない?」
『携帯見てたらしげちゃんやったから秒で出た』
「もし淳太から電話やったらどうする?」
『淳太くんかー、一応出る』
「一応かい」

ちゃんと出ろやって突っ込みたい衝動を抑える。
この声、いつもよりゆるいから完全プライベートや。
ラジオやって気づいてない。
しげは俺の方をチラチラ見ながら会話を続ける。

「今日何してんの?」
『今日?夜仕事やからもうすぐ家出るよ』
「なんの仕事?1人なん?」
『1人やで。終わったらM田軍団とごはん行くー』
「あ、そうなん?珍しいな、たまにはまちゃんと行ってんのは知ってるけど」
『そうそう、珍しいやろ?流星が誘ってくれてん』
「嘘やん」
『ほんまほんま』
「えー、流星めちゃ頑張ったやん」
『普通に誘ってくれたで?メシ行こやー言うて』

ここまではただの世間話。
しげのニヤける口元をリスナーにお届けできへんのはほんまに残念やわ。

「真夏ちゃんさー、流星のこと好きなん?」
『え?なに、どうしたん?』
「俺のこと好き言うてくれてるけどさ、ほんまなんかなって」
『そりゃメンバーみんな大事やからそこに優劣はないよ』
「俺のことはどう思ってんの?」
『好き』

あ、簡単に言い切ったわ。
ちょろいやん。
完全プライベートの『好き』いただきました。
これで終わりかと思ったのに、しげはさらに畳み掛ける。

「信じられへん」
『なんでや!こんなに言うてるのに!』
「だってなんか軽いやん。もっと本気のやつ見せてよ」
『……』
「…真夏ちゃん?」
『私は重岡大毅がほんまに好きやで。世界中のアイドルが束になっても、しげちゃんには敵わへんよ』
「っ、」
「……いただきました!!!」

あかんわ。
ミイラ取りがミイラになったわ。
言わせたくせにしげの顔が赤い。
自業自得やで。
そらそうか。
しげはめちゃくちゃ照れ屋やもん。
急に俺の声が入ってきたから、電話の向こうで真夏が慌て出す。

『は?え、淳太くん?なに?…っあ!!!ラジオ!!!』
「正解!真夏ー、聞こえる?淳太やで」
『ラジオか!だからしげちゃんなんかおかしかったんや!いつもはあんなん全然聞いてこおへんやん!』
「真夏ちゃん挨拶!」
『あ、どうも、こんにちは、ジャニーズWESTの望月真夏です』

これは大成功やったか?
真夏の完全プライベートの『好き』を引き出せたで。
払った代償も大きかったみたいやけど。

「今回さ、リスナーさんが照れ屋な真夏の本気の『好き』が見たいってメールくれたんよ。だから電話してみてん」
『え、そんなメール来たん?いつでも『好き』って言えるで!』
「しげに関してはそうやったみたいやね。結果、重岡が大ダメージですよ」
『なんで?』
「真夏ちゃんの『好き』はめちゃくちゃ破壊力あんねん!自覚しろ!」
『待ってその言葉に私が大ダメージやわ。やっぱしげちゃん好き』
「うるさい赤色ジャスミン!」
「どんなツッコミやねん。真夏、電話ありがとうね。時間大丈夫?仕事やろ?」
『あ、もうすぐマネージャーさん来る。ええ時間やわ』
「ほなありがとな。ごめんな?突然電話して」
『全然平気やで。またかけて?今日は何点?』
「しげに1発かましたから満点ちゃう?」
「0点じゃ!」

顔真っ赤にしたしげが画面割れるんちゃうかってくらいの勢いで終了ボタンを押した。
途中で切られても真夏はしげに怒ったりせえへんやろうな。
さすが赤色ジャスミン。
負け惜しみのように呟いたしげの囁きはきっとマイクで拾えていない。

「…今度真夏ちゃんから照史に『好き』って言わせたろ」

やめなさい。
あの2人絶対言わんで。

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