アメノチハレ



「お願いしまー、え、なにあれ?」

ラジオのセットに座って自分でカメラを持つ小瀧。
そのまま話しかけてて、傍から見てると変な感じやな。
ファンのためって分かってるけど。

カシャカシャカシャ

「っなんで撮ってんねん!」
「あ、そのまま続けてええで?」
「それ真夏のスマホやん!プライベートで撮んなって!」
「だってなんか面白いねんもん。自分、さっきから1人で喋ってんで?」
「そういうやつ!そういうノリやん!面白がってんとこっち来て!」
「webに載せようかな」

必死な顔で手招きするから余計面白いな。
言うたらニヤニヤするから絶対言わへんけど、捨てられた子犬みたいで可愛い。
背が大きくでも最年少やな。
私の腕を引っ張った小瀧は、一生懸命画面に2人を映そうとする。

「はい、インタビューすんで」
「出た、こたかめ。照史でやってや」
「ここにおらんもん、しゃあないやん。はい、笑ってー」
「こんにちはー」
「今回のMVはどんな感じ?」
「私服っぽい衣装可愛い。しげちゃんが前髪あげるって言うてたからめっちゃ楽しみ。しげちゃんがファンレター読むんやけど私も書きたかった。しげちゃんが、」
「うざい!しげのことばっか!真夏毎回それやってるやん!」
「素直な気持ちやん」

イライラするんやったら聞かなええのに。
他のこと言ってほしいなら言おうかな。

「5周年のタイミングでCD出せること、ほんまに嬉しい」
「お、ちゃんとやる?」
「嬉しくて、こんな大きな仕事取ってきてくれたメンバーが誇らしい」
「真夏?」
「最年少で、一番小さくて、甘えん坊で、私らが引っ張っていかなって思ってたけど、そんなことせえへんでも大丈夫やな」
「……」
「私が思ってる以上に、大きくなってた。めちゃめちゃ可愛いなって思う」

あ、耳赤い。
カメラ持ってる腕が下がってるから、きっともうちゃんと撮れてない。
からかおうと思ってたのは事実。
でも、言葉に嘘がないのも事実。

「撮影始めまーす」
「はーい、いくで小瀧」
「……」
「…耳、あっか」
「っうるさい!」

ちょっとからかいすぎたかも。






神ちゃんがピアスをいじる指先を真夏がじっと見つめてる。
それ、そんな面白い?
痛そう、でもなく私もつけたい、でもない無表情の視線。
なんでそんな見てるんやろ。

「あ、はまちゃんテイク2やで」
「テイク2」
「……」
「…真夏、いつまで見てんの?それ面白い?」
「あんまり」
「なんでや。せめて面白がれ」
「じゃあなんで見てんねん」
「ピアス興味あるん?」
「ちょっとだけ。絶対開けへんけど」

あ、やっと無表情じゃなくなった。
神ちゃんの耳に触れたけど、神ちゃんは特に気にせず水飲んでる。
こういうとこほんまにもちもんちやな。
真夏がなにやっても神ちゃんは動じへんし受け入れてくれる。
真夏は真夏で神ちゃんが受け入れるって分かってて好き勝手に動くし。
同期ってええなあ。
でも、耳を無言でフニフニ触るのはなんか異様な光景やわ。

「いい感じ?」
「わからへん」
「新しいの買おうかな」
「いっぱい持ってるやん」
「毎日つけるから何種類でも欲しいやん」
「そんなあっても使わへんって。失くしそうやし」
「大丈夫やで。意外となくさへん」
「へー、そうなん」
「絶対興味ないやん」
「あんまない」
「中身の無い会話やな」

この2人がスイッチ入ったらゴリゴリにダンス踊ってうちのグループ引っ張ってるとか考えられへんわ。
触ってた手を引っ込めた真夏はまたじっと神ちゃんの耳を見つめる。

「……よかった、ピアス開けてなくて」
「なんで?」
「あー、時代劇とか難しくなるから?」
「ちゃうちゃう。もし穴空けてたら、プレゼントでいただくやん」
「それはそうかも。誕生日にあげやすいわ」
「私、もらったら嬉しくてずっと同じのつけそうやもん。雑誌とかでジャスミンにバレそう。うわ!望月ずっとあれやん!みたいな」
「そんなとこまで見る?」
「ジャスミンは絶対見るで」
「淳太くんのアクセ高っ!セレブやっば!ってなってんで」
「なってるかい!」

ってツッコんでみたけどなってそうやな。
俺らが身に付けるものは時としてなにかしらの暗示になる。
彼氏彼女が出来たって変な推測を与えることもある。
そこまでちゃんと気にするのは大事やろうけど、必要以上に気にすることはないんちゃうか?

「はまちゃんおつかれー」
「おつかれー。なんの話してたん?」
「ピアスの話」
「ピアス?ああ、昔真夏が照史のピアス欲しがった話、」
「あれかな!?M田はテイク3撮りたいんかな!?」
「は、え、なんで、」
「テイク3じゃ足りひんからテイク4までいこうかな!?」

はまちゃんに迫る真夏、笑ってるけど目が笑ってないやん。
てかそんなことあったんやね。
知らんかったわ。
ずっと同じのつけたいって、そういうことか。






「撮影始まるまでちょけてるメンバーをご覧ください!どうぞ!」

って前振りした後に俺も全員での撮影に呼ばれた。
横に並んだ俺らは撮影するシーンに入るまでほとんどちょけてる。
それがカメラに映ればええなーって思ってたんやけど、これはあかんわ。
真夏、完全にスイッチオフ。
歌うとこまで微動だにせえへん。
まっすぐ立ったまま動かへんし目も閉じてる。
ちょけてるメンバーなんてお構いなし。
綺麗な顔して立ってるから集中してるように見えてるかもしれへんけど、あれ、ただボーッとしてるだけやから。

「真夏?」
「…ん?」
「起きてる?大丈夫?」
「全然平気」

平気なんかこれは。
歌始まったら一気にスイッチ入って表情変わってアイドルの顔になる。
いつもこんなんやからええねんけど、カメラ回ってるしな。
目閉じてる真夏の肩をとんとんって叩いて顔を寄せた。

「なに?」
「あそこ、メイキング撮ってんで」
「ほんまか、メイキングをメイクせな」

急に表情変わってメイキングカメラにピースしたから俺も一緒にピースしておく。
ジャスミンが見る映像には2人笑顔でピースしてる様子が収録されるはず。
たまにはきりもちでイチャイチャするのもええやろ?
これ以上は絶対出さへんけど。

backnext
▽sorairo▽TOP