BigShot!!



赤と白の衣装が大きなスタジオによく映える。
メイキングカメラに話してると、スキップしそうなほどうきうきした真夏がやってきた。

「真夏ー、メイキング」
「ん?はまちゃん撮ってるなら後でええよ」
「一緒に撮ろうや」

腕を掴んで引っ張れば、はいはいって笑って隣に並んでくれる。
今回のMVに合わせて高い位置で括られたポニーテールが揺れて、あ、男が好きなやつやって思った。

「今回のMVはずっとダンスなんですよ。もうずーっと。メンバーはしんどそうな顔してましたけど、私はめちゃくちゃ楽しい」
「ずっとうきうきやもんな」
「わかる?」
「わかるわかる」

神ちゃんと真夏は振り付けの時から嬉しそうやったな。
今回の振り付けはめちゃくちゃしんどいけどめちゃくちゃかっこいい。
全員で揃ったらそのかっこよさは何倍にもなる。
早めにバテへんようにせなあかんし、バテた望を叱る真夏を宥めることも重要やな。

「この衣装、見たことあるんよ。ばどが昔着てた衣装によう似てる」
「そうやったっけ?」
「そうやったって。私覚えてる。あ、淳太くん!」
「ん?なに?」
「ばどでこういう衣装あったやんな?」

ロケバスからちょうど降りてきた淳太が俺らの方へ来てくれる。
こんな衣装、着てたっけ?

「あったあった。俺と照史で着てたで」
「な?ほんまやろ?」
「すげー、よく覚えてんね」
「私、結構覚えてんねん。キラキラ衣装でええなーって思ってたし」
「今着るとフレッシュな感じするわ」
「淳太くんはいつもフレッシュやで」
「ありがとう」
「始まるまでまだ時間あるやろ?はまちゃんのマジック見たい。メイキングに撮ってもらおう」
「お!ええよ!」

衣装覚えてるのは、関ジュの時から照史を見てたから?
って思ったけど、言葉にするのはやめておこう。

「…あ、真夏、グローブのはめ方変やで?グシャってなってる」
「ほんまや。片手やから難しい…」
「貸してみ?やったるわ」
「おお、優しい。さすが淳太くん」
「まあなー、俺モテっからさ!」
「モテるわけない!モテへん!」
「モテへん」
「うっさいな!」

徐々にロケ車からメンバーが出てくる。
みんなバッチリ決めてかっこええやん!
朝から不安そうな顔した望が酸素缶見つけて『これ真夏にはいらないんで。あいつ化け物なんで』ってスタッフさんに言うてた。
どつかれるで。
真夏には必要ないと思うけど。

「お!真夏がポニーテールや!」
「気合入れた!」
「いい!似合う!めちゃくちゃいい!」

あ、カメラさん撮ったって!
真夏が今めっちゃ可愛いから!






ダンスシーンが多いからテンションが心配やったのんちゃんやけど、いらん心配だったのかさっきからはしゃいでる。
俺の耳元で叫ぶのはやめてほしいけど。

「きゃん!」
「っうるさい!」

犬みたいな声がうるさいし耳に響く。
ぎゅーって抱きつかれた身体も熱い。
甘えん坊のんちゃんが発動してもうたな。
可愛い奴め。

「あ!真夏!こっちきて!」
「…嫌な予感しかせえへん」
「来ーてー!」
「嫌や」
「…っとう!」
「うわあ!」

止める間も無くのんちゃんの両腕が後ろから真夏を捕まえた。
俺の時より力は手加減してるやろうけど、それでも強く抱きしめられて真夏はめちゃくちゃ嫌そう。

「ちょ、嫌やって!」
「きゃん!」
「うるさ!」
「きゃんきゃん!」
「のんちゃん程々にせんとダンスで痛い目見るでー」
「きゃんきゃん!」
「もー!なんなん!?助けてよとも!」
「俺はさっきやられたからもうええ」
「とーもー!」

もうええって言うたのに、真夏は背中にのんちゃん張り付けたままこっちに歩いてくる。
俺にも押し付ける気やな。

「大きく腕広げて」
「はーい」
「ぎゅってして」
「なにそれめっちゃかわええ」
「私じゃなくて小瀧をな!!!」
「あははは、めっちゃ怒ってるやん」

言われた通りのんちゃんの大きい身体をぎゅってしたけど、必然的に真夏も抱きしめることになってまう。
俺ら2人の間にすっぽりはまった真夏はもっと嫌そうに眉間にシワを寄せた。
のんちゃんの腕の力は強くて、真夏を放す気配はない。

「汗やばい」
「え、臭くはないやろ?さっき神ちゃんめっちゃええ匂いしたし」
「真夏もええ匂いするで?香水?」
「そういうことちゃう。この気温で成人男性に囲まれたら暑いし汗かくしやばい」
「そう?」
「もー!はなして!」

のんちゃんもこれ以上はやばいって気付いたのか素直に腕を離すと、解放された真夏がポニーテールを揺らしながら俺らから距離を取る。

「…小瀧、ダンス楽しみやな」
「酸素缶買い足してくださーい!足りませーん!!!」

ああ、自業自得やのんちゃん。






魚眼レンズ?っていうカメラでしげちゃんを中心に全員でジャンプして撮影。
ぐるっと円になった私たちの写真が撮影できるらしく、絵コンテ見たときは面白いなって思った。
その時は。
だって、この並びになると思わへんやん。

「うわ、これ狭いな」
「真夏、大丈夫?狭くない?」
「大丈夫」

ほんまは大丈夫ちゃうけど!
ともと照史の間にされたのは明らかな意図を感じずにはいられへん。
私だってわかってるよ、もちもんちときりもちがジャスミンの間で人気をいただけてることは。
でも、こんなきゅって固まる撮影で照史の隣になるとは思わへんやん。

「ん?」
「…ううん、なんも」
「ほんまに?狭かったら言うてな?」
「ありがとう」

今日の私はおかしい。
だって、こんな距離で撮影することは無いわけじゃない。
雑誌の撮影でもあったし、これまでのMVでもあったかも。
プライベートでも、……ないとは言い切れへん。
なのになんでや。
心臓うるさいし、変な汗かいてきそう。
…あ、わかった。
衣装や。
ばどが昔着てた衣装に似てるから、ふとした時に関ジュの時の照史が浮かんでくる。
今より若くて、今より少しだけちゃらくて、でも今と同じくらい優しかった照史が。

「……」

意識し始めたら終わりや、あかん。
めっちゃ恥ずかしい。
撮影しまーすっていうスタッフさんの合図で、照史の手がそっと背中に添えられた。
ジャンプするから当たり前やねんけど、でも。
うわあ、どうしよう。
心臓うるさい。

「せーのでジャンプします!せーのっ!」
「痛っ!」
「ああ!しげちゃんごめん!ごめんごめんごめん!」

変な方向に飛び過ぎて、目の前にいたしげちゃんの脚蹴ってもうた。
ほんまに申し訳ない。
大丈夫ってしげちゃんは笑ってくれたけど、痛いに決まってる。

「どうした?」
「ごめん、なんでもない、集中する。集中」
「真夏?」
「ん?」

くるって左を向けば至近距離で照史と目が合って、きゅって唇を引き結んだ。
集中ってさっき言うたばっかりやん、私。
でも、照史も同じ顔してた。
必死に集中してた。

「俺も頑張るから」
「…うん」

私だけじゃない。
照史も必死に我慢してた。
心臓が飛び出して、暴れだして、触れてしまうのを。






こんなに真夏ちゃんを見つめるしげは久々に見たかもしれへん。
衣装チェンジしてジャージ風衣装に着替えた途端、しげは真夏ちゃんを褒めちぎった。

「めっちゃ似合う!めちゃめちゃいい!なんやろ、見慣れてへんから?すごいええよ真夏ちゃん!」
「あ、ありがとう。嬉しみが限界突破して身体がはじけ飛びそう。推しに認知と称賛をもらうという尊さの極み」
「きっしょー」
「めっちゃええ!きしょくない!すっごい似合う!」
「しげちゃんやめたって。ほんまにはじけ飛ぶで」

なんか、ムカつく。
いつも真夏ちゃんが好き好き言うてもありがとーって笑うだけやのに、逆になった途端この反応。
真夏ちゃん嬉しそうにしすぎやし、しげもずっと褒めちぎってるし。
しげに夢中すぎる。

「……これあれちゃう?ちょっとサイズ大きいからより可愛く見えるんちゃう?」
「そう?普通サイズやで?」
「メンズサイズちゃう?俺と一緒のサイズかも。着てみて?」
「ええけど」

さりげなく?真夏ちゃんと俺の上着を交換することに成功。
あーあ、これは思ったよりやばい。
大きくてだぼだぼの上着を着て、袖口からは指先しか出てへん。
完全に男物借りましたって感じで、ものすごい破壊力。
目に焼き付けておこう。

「ほら、やっぱりサイズ違うって」
「ふふ、そうやなー」
「なにニヤニヤしてん」
「…それはちゃうな」
「え!?」
「真夏ちゃん、全然よくない」
「えええええ!!!」

眉間に皺寄せたしげが両手で大きくバッテンを作ると、真夏ちゃんが膝から崩れ落ちた。
さっきまでにこにこ笑顔やったのに。
俺、やってもうたか?

「……っ流星!!!」
「ごめんなさい!!!」

涙目で怒られた。
でも、大きいジャージ姿が可愛くてにやける口元は直せへんかった。



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