「流星」



口数が少なくても、まるで空模様のように表情がコロコロ変わる。
車の中にいた時はぼーっとしてたのに、テレビ局に着いた途端にわくわくうずうずした顔になった。
1週間ぶりのメンバー全員揃った収録に、俺も真夏も心が躍る。

「昨日のヒルナンデス見た?」
「見てへん」
「見てよ。照史めっちゃ頑張ってたで?」
「ほんま?それ本人に言うたら」
「あー、せやな。言うとこうか、」
「やばい!!!ほんま好き!!!」

廊下まで聞こえた声に真夏と顔を見合わせた。
なんや?
俺らの楽屋の扉が少し開いてて、声が漏れてる。

「始まったよ。流星の空色ジャスミン」
「誰か聞いたってや」
「俺もうさっき聞いたし」
「今日はなに?雑誌?」
「ファッション誌!真夏ちゃんが特集組まれてる!めっちゃ可愛いねんけど!あ、でもこっちはかっこいい!」
「自分、先月も同じこと言うてなかった?」
「先月は先月の雑誌やん。これは今月のやつやん」

流星は関西ジュニアの頃から自他共に認める真夏のファン。
雑誌が出れば自分で買って、真夏が一人でテレビに出れば全録画。
コンサートの映像を見て大盛り上がり。
こんなに好きになってもらえるんなら嬉しいはずやねんけど、楽屋入り辛くなってもうたな。
あと、昔から真夏はこの流星の押しに弱い。

「どこがそんなええの?」
「逆に淳太はなんでファンにならへんの?」
「俺も真夏のこと好きやけどさ、言うても同じメンバーやん」
「そこちょっと違うねんなー。メンバーやけどさ、ほんまに尊敬してんねん。望もわかるやろ?」
「尊敬、は、まあわからんでもない」
「めっちゃ男前やし。度胸あるし肝座ってるしガツガツ前出るし、なのに笑ったら可愛いし」
「褒めすぎやろ」
「全然足りひんよ。俺は関西ジュニアの頃から、真夏ちゃんの芯が通ってるとこほんまに好き」

久々に流星からのストレートな好意。
口数が少なくても表情はわかりやすい。
廊下まで聞こえてた声に、はあーってため息ついて口元を覆った。
顔、真っ赤やで。

「嬉しいな」
「……せやね」
「楽屋入る?」
「恥ずかしいわ。ほんまに流星あかん」
「あははは、可愛いやん。弟みたいで」
「弟やったら相当シスコンやね」
「真夏もブラコンのくせに」
「ちゃうわ」

ここから楽屋の中は見えへんけど、流星のお尻に尻尾が見える。
大型犬が嬉しそうに尻尾を振る姿が。

「お!もちもんち揃ってるやん!おはよう!」

後ろからかけられた声にびくって真夏の肩が上がる。
はまちゃん声でかい。
絶対楽屋に聞こえたやん。
今度はさっきとは違うため息が漏れた。

「はまちゃん、ほんまそういうとこ」
「え?なに?俺なんかした?」
「タイミング悪いなー」
「え!?」

声を聞きつけた流星がパッと楽屋から顔を覗かせた。
嬉しそうな顔。
対照的に恥ずかしくなった真夏は俺の背中にさり気なく隠れた。

「真夏ちゃんおはよう!」
「お、おはよう流星」
「台本読んだ?今日の収録、俺と真夏ちゃん隣やで!」
「あー、そうなんだ」

俺の背中に隠れても照れ笑いは隠れてへんで。
夕陽みたいにほっぺた赤くした真夏を、流星が嬉しそうに見てた。

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