波打つ星屑



パパジャニWESTの#14、ソラ、ミウ、サナの三兄妹を迎えた撮影は終盤に差し掛かった。
キャンプ場全体を使った肝試しはもうすぐはまもちの2人が子供達を連れてスタートする。
ルートは一本道で、最初に淳太、次に俺、のんちゃんと流星が脅かして最後は照史としげ。
長男のソラが妹2人を男らしく守れるかが鍵で、今日1日キャンプを通してソラの怖がりを直してきた。
その集大成がこの肝試しやねんけど、大丈夫やろうか。

「ソラ!行け!」
「シール貼ったら倒せるから!行くんや!」
「うわあー!」
「やられたー!」

怖がりながらも最初に現れた淳太にシールを貼って倒す。
シールを貼られたおばけは動けへん設定やから、泣きながらも子供達が安堵した時、俺が木の間から脅かしてみた。

「わあ!!」
「ぎゃあああああ!!!」
「え!?あ、神ちゃ、ってソラ!逃げんな!」
「ソラ!」
「ソラ!」

あかん、やりすぎたかも。
泣き叫ぶソラは来た道を戻ろうと全速力で走り出した。
その後に妹2人が続く。
申し訳程度に舗装された道と暗い森の中。
懐中電灯も撮影するスタッフさんもおるいうても足場は不安定で。
駆け出したソラが後ろから見守ってた真夏に思いっきり体当たりしてもうた。

「っ、った、」
「嫌だー!怖いー!」
「ソラ!ちょっと待ってって!真夏大丈夫!?」

ぶつかったことより恐怖が勝った三兄妹はそのまま道を走っていく。
尻餅ついた真夏と逃げていく子供達の後ろ姿を交互に見てはまちゃんがわたわたするから、真夏が笑って手を振った。

「はまちゃん、あっちや。私大丈夫やから」
「わかった、神ちゃんあと頼んだ。ソラ!逃げたらあかんやろ!」
「淳太も行ったって?あの子ら相当怖がってたから、このままやと続けられへんかも」
「俺もそっち側行った方が良さそうやな」

ぶつかった力はそんなに強くなかった。
ただ押された拍子にぬかるんでた場所に足を取られてそのまま尻餅ついてしまっただけに見える。
手を差し伸べると、力なく笑って俺の手に捕まった。

「こけた?」
「あははは、こけたこけた」
「大丈夫?怪我してへん?」
「うん、手擦りむいたくらいやな」
「ほんならテント戻って消毒しよか」
「いや、大丈夫や。せっかくソラたち頑張ってるから、このまま続けよう」
「ほんならせめてこれ」
「ありがとう」

ポケットから取り出したハンカチを握りしめる。
暗くてよう見えへんけど、手に泥がついてるだけで血出てなさそうやし、このままでもいけるやろう。
今のキャンプの雰囲気に水をさしたくないって気持ちは理解できる。
手を引いて真夏を立て上がらせると、ほんまに一瞬だけ顔をしかめた。

「ん?」
「へ、あ、ううん、大丈夫」

暗くて顔がよう見えへんけど、ちゃんと笑ってるように見えた。






キャンプファイアーの火を背に、子供達のお母さんが迎えに来てくれた。
あとは今日一日で1番良かったパパを選んで終わり。
もう少し、気合い入れろ私。
不自然に見えない程度に左足に体重をかけて、あとは全部右足に。
右足だけやったらなんとか立てる。
大丈夫。
頑張れる。
最後まで笑顔でお別れせなあかん。
子供達が帰ったら反省会の収録になる。
椅子に腰を下ろした時、左足首の痛みが限界を越えた。
これ、たぶん立てへん。
どうしよう。
もう誤魔化せへん。
こけたこと知ってるともに言う?
こけたことは私の責任やけど、大袈裟に捉えられてソラくんに話がいったらどうしよう。
収録が終わってメンバーが疲れたーって言いながら撤収しようとした時、照史が目の前にしゃがみ込んだ。

「真夏、つかまり」
「え?…わっ、」

背中に添えられた手と膝裏に差し込まれた力強い腕。
ふわっと上がった視界に慌てて照史の首に手を回した。
これは、所謂あれや。
少女漫画でよう見るやつや。

「あ、照史!?」
「足大丈夫か?とりあえず病院行くで」
「なんで…」
「そんなもん最初から気づいてたわ。いつから?肝試し?」
「うん、こけてもうた」
「よう我慢したな。子供らおらんかったら説教やけど」
「う…、ごめんなさい」

まさか気づかれてたなんて思わなかった。
他のメンバーも異変に気付いて寄ってくるけど、みんな心配っていうより呆れた顔で笑ってる。
もしこけた時に言ったとしてもソラに話がいくことはないって。
だって、そんなん言えへんやん。
みんな朝から頑張ってたし、ソラもミウちゃんもサナちゃんも楽しそうやったし。
私がちょっと我慢すれば問題なかってんもん。
車のシートに優しく降ろされて、照史が左足に触れる。

「折れてはない?」
「うん、挫いたくらいやと思う」
「でも痛いやろ?すぐ病院行ったるからな?俺が変わってあげたらええんやけど」
「……なんやろ、照史、まだ桐山パパが抜けてないやろ」
「え、ほんま?」
「若干の子供扱いが残ってる。サナちゃんが転んだ時も手当てしてたし」
「あははは、そんなことないって。……子供って思ってたらこんなドキドキしてへんし」
「え?」
「あ!今のなし!なんか嫌やわ!別に下心あって触ってるわけちゃうから!」

そこまで否定されると、否定できてない気がする。
照史が私に触れる。
私が照史に触れる。
それは時に特別な意味を持つ。
下心なんかじゃない。
大切に思う気持ち。
でもそれは、他のメンバーに抱くものとは違う色を持ってるって、私も照史も分かってる。

「あー、砂ついてるな。払っとこう。マネージャー!俺ら帰るん遅くなってもええから真夏だけ先に出られへん?」

触れた足が熱い。
夏の暑さじゃない。
他のメンバーが触ったってこんなに熱くはならない。
照史だから熱くなる。

「ん?」
「……はー」
「え、どうしたん?」

下から覗き込んだ照史の瞳に身体の底から何かがこみ上げる。
これはあれや。
少女漫画でキラキラ光ってるシーンや。
ヒロインが好きな男の子にときめくシーンや。
あーあ、こんなん考えたら絶対あかんのに。
怪我したら照史からこんなに触れてくるなんて。
私から触れられる言い訳ができるなんて。

「どうしたん?痛い?」
「…痛い」
「折れてるんちゃう?」
「折れてへん。でも痛い」
「もうちょっと待ち?マネージャーが車出してくれるから」
「歩けへんから照史も来て」
「俺?」
「病院ついても歩けへんもん」

ため息吐いて俯いたまま、自分の顔が信じられへんほど熱いって気づく。
こんなん、子供みたいなわがままや。
さっきまで怖がりなソラの背中押してた私とは大違いや。
ソラのこと言えへん。
全然、素直に伝えられへん。

「っ、」

言葉を発する前にこつんっておでこに当たった感覚。
私の髪に照史の吐息がかかる。
ああ、もう、ドキドキする。

「俺も行くわ」
「うん」
「痛くて歩けへんやろ?」
「うん」
「…また運んだろか?」
「…うん」

言い訳をして、わがままを言って、期待する。
全部わかってるくせに、照史は応えてくれる。
それが嬉しくて、でも言ってしまったら消えてしまう気がして。
怪我を使って、時にか弱い女を演じて、照史から触れてくれるのを待つんだ。


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