滲んじゃうくらいぎゅっとしててね



自分が本当に嫌になる。

「あーもー、なんやねん」

なにがストイックおばけや。
なにが体力おばけや。
グループの足を引っ張ってるのは誰や。
明らかに私やろ。
みんな頑張ってる。
頑張るなんて当たり前で、そこから目に見える成果を残さななんの意味もない。
なのに求められてるレベルのものが出せてない。
自分でも全然納得してない。
それも全部わかってるのに、もっと上に行けへんのはなんでや。
出来へんのはなんでや。
イライラする。
全部元に戻して欲しい。
せっかくいただいた1人のバラエティ収録は、満足のかけらもない出来やった。

「……はぁ」

シンとした車内に溢れた深いため息は誰にも聞こえることはない。
当たり前か。
今は1人やし、マネージャーもおらんし、メンバーも他の仕事に行ってる。
こんな姿見せられへん。
誰にも見せたくない。
マネージャーが帰ってきて出発するまで。
それまで少しだけ自分を甘やかそうか。
少しだけなら許されるやろうか。
そう、思ったのに、

「え、」

ガラって開いたドアに手をかけたまま、ともが目丸くしてこっちを見てた。
びっくりした顔。
私の目に溜まった涙を見て驚いてるって分かってるのに妙に頭は冷静で。
昨日までガシガシやった髪にキューティクルが戻ってる。
ああ、そうか、美容院行って私と同じ車で家に送ってもらおうってことか。

「真夏?」

呼びかけに応えることなく目元を拭った。
1番、見られたくなかった。
勢いよく背を向けて座席の上で膝を抱えて小さくなる。
少しだけ車体が揺れて、ドアが閉まって、またシンと静まり返った。

「……」
「……」
「……真夏」

こてんって背中に当たった温かい感覚。
遠い声がする。
ともも背中向けてる。
ともの背中が、私の背中に当たってる。

「…照史やったら、抱き締めるんかな」
「……」
「淳太やったら、100点取れるようにアドバイスするんかな」
「……」
「はまちゃんやったら、笑わせてくれるんかもしれへん」
「……どうやろな」
「でも俺はどれも出来へんわ」

1人になったから甘えてもええなんて、あまりにも浅はか。
ストイックおばけを作ったのは誰や。
誰かに泣き顔を見せることを拒んだのは誰や。
その力強い背中をお互いに見てきたのは誰や。
私と、とも。
2人で作ってきたんやろ。
ともが座席に投げ出された私の手に触れる。
目元を拭ったから指先が濡れてた。
優しかったのは一瞬。
力強く、痛いくらいに握られた手が熱い。

「泣いたらあかん」
「っ、」
「泣いたらあかんで、真夏」
「……」
「泣いて辞めたら、俺は一生許さへんからな」

甘えることも泣くことも許してくれない。
頑張ることを辞めることも許してくれない。
その言葉が私の心をズキズキ傷つける。
そして、もっと強くなる。

「泣いてへんわ」
「そう?ならええよ」
「とものあーほー」
「なんでやねん」
「手、痛い」
「ちょっと痛いくらいが好きなんやろ」
「あほ、そんなことないわ」

2人で強くなる。
指先の涙は滲んで消えた。




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