永久不滅のときめき



「おお!」
「いい!めっちゃいい!」

机に並べられたツアーグッズに真夏ちゃんが目をキラキラ輝かせた。
その気持ち、めちゃくちゃわかる。
自分たちでデザインしたタトゥーシールはめちゃくちゃ可愛いし、誰かの担当を経験した人なら絶対に欲しかったグッズ。
ペンライトもうちわも並べられてるのに、真夏ちゃんと俺が真っ先に手にしたのはぺったんうぇすとやった。

「可愛いなー、ええなー、最高やなー」
「これはもうめちゃくちゃいい!」
「もう言葉に出来へんくらいええなー」
「珍しい、真夏も語彙力低下しとる」
「2人がこんだけ喜んでるんやからファンの子らも喜んでくれるんちゃう?」
「これどうやってつけるん?貼るん?」
「水で濡らしてつけるんやろ?」
「これって俺らも貼れるんかな?」
「毎公演絶対つけたい!私絶対貼るから!」

デザインは違えど、みんなファンの子たちにつけてほしいものを考えた。
でも、ファンだけやなくて俺らだってつけたい。
一緒に楽しめるし、楽しませるし、みんなでジャニーズWEST感が出たら最高やん?
真夏ちゃんが伸ばした手に、ニヤニヤした望がぺったんうぇすとを差し出した。
1枚だけ。

「え?」
「真夏は1枚だけでええやろ?どうせしげのしか貼らんやん」
「何言うてんねん小瀧。ちゃんと全員分つけるし」
「ほんまに?ぜーったい嘘やって!」
「つける。小瀧のもつける」
「じゃあとりあえずほっぺに、」
「やめて!そこはしげちゃんの貼りたいやん!」
「ほら!やっぱりしげのやん!」
「また始まったで」
「ほっとき」
「流星はどうする?」
「俺は1枚でええよ。真夏ちゃんのやつちょうだい」
「お前もか!」
「これ、あれやなー」
「なに?」
「なんか印みたいでええよな。私はあなたのものです、的な感じでさ」
「なになに?おエロいやつ?」
「それやったら淳太やん」
「キスマークって、まんまやん」
「それ狙ってたやろ?」
「え?まあね」

なるほどな、そう言う意味もあるんか。
まあ、わかった上で俺は真夏ちゃんのタトゥーシール貼るけどな。
望と真夏ちゃんの言い合いは止まらへんから、2人に俺らの会話が聞こえてたかどうかはわからへんかった。






「……」
「お願い!引かんといて!しげちゃん!」
「あはははは!気合いバッチリやん!」

初日の幕が上がる直前。
トイレから楽屋に戻ってきた真夏を見てしげが固まった。
なんなんその表情。
引いてはないと思うけど、歓迎はしてないやん。
照れ隠しかもしれへんな。
真夏のほっぺたにも首筋にも手の甲にも、全部しげのタトゥーシール。
重岡大毅のファンです!って主張が激しい。

「嬉しいよ?嬉しいけど恥ずかしいって!絶対ジャスミン引くって!」
「そんなことないって。これも愛ゆえに」
「真夏、明日からでええからオープニングの衣装に隠れるとこにしてくれへん?一曲目のイメージ崩れる」
「……すみません」
「やっぱりしげだけやん!俺のどこ?あれだけ言うてたんやからどっかに貼ったやろ!?」
「ちょ、小瀧!?」
「望、やめなさい」

ペラっと衣装の襟元引っ張ったから少し強めに嗜める。
上から覗いたら胸元バッチリ見えてまうやろ。
なんだかんだ言って望は真夏が大好きで、好きだからこそ距離が近いこともある。
お姉ちゃん感覚で触って許される時もあるけど、危ない時は止めなあかん。
本人もそんなことするつもりじゃないって示すように、パッと両手を上げた。

「触ってませーん」
「照史!流星!小瀧が真夏ちゃんのおっぱ、」
「しげ!!!やめてやめて!!!殺される!!!」
「小瀧が!真夏ちゃんの!おっぱ、」
「殺される!!!」
「望こっちこいや」
「小瀧さん、正座」
「嫌やぁ!!!」

ゲラゲラ笑うしげはほんまに悪い顔してるわ。
あかんな。
騒がしい弟達やで。
大丈夫やったかな?って思って真夏を振り返ると、ちょうどパパッと襟元を直したところやった。
一瞬見えてしまった胸に思考が止まる。
いや、胸が見えたからじゃない。
真夏がぺったんこやった時から見てきた、1番身近な女の子で、今では親友やで?
今更ドギマギするような歳でも仲でもない。
そうじゃない。
そんな性的な意味で止まったわけじゃない。

「ありがとうね、はまちゃん。小瀧には後で私からも怒っておくわ」
「……」
「はまちゃん?どうしたん?」
「…貼ってるやん」
「え?なにが、……っ!」
「あきと、っむぐ!」

視界に入ったのはふっくらした白い左胸とそこに映える照史がデザインしたハートのタトゥーシール、オレンジ色の名前。
服を着たらきっと見えない。
着替えスペースも、俺らの楽屋とは別に用意されてるから真夏のそこを見る機会なんてほぼない。
本人どころか誰にも気づかれない、でもはっきりとした所有印に見立てたそれ。
貼るところなんていくらでもあるのに、身体の中心、心臓の上を選んだことは偶然とは思えない。
真っ赤な顔で俺の口を塞いだ真夏は、なんでかわからんけどキレたように語気を強めた。

「見なかったことにして。記憶から消して。誰にも言わずに、墓の中まで持って帰って」

口塞がれてるから返事なんて出来へん。
こくんって頷いたのにさらに声が強くなった。
なんでや。
俺頷いてるやん。

「もし、万が一はまちゃんが死ぬほど酔って口を滑らせたとしても、知られたのがメンバーやったら許す。でも……」
「……」
「……照史やったら、私耐えられへん」
「……」
「照史にだけは知られたくない」

知られたら、照史がどう思うかなんてメンバーやったら誰でもわかる。
嬉しそうに笑って、真夏を抱きしめる。
溢れそうになるくらいいっぱいの愛を捧げて、もしかしたらそこに本物の所有印を残す。
真夏を傷つける言葉も行動も、するはずがないのに。
なのになんで拒む?
なんでこんなに手が震えてる?
俺はその答えを持ってない。
でもきっと、こうなんじゃないかなって予想は持ってる。
真夏、それを望んでないんやな。
そこに本物を貰うことを、望んでない。
真夏は終わりを考えられる、考えてしまう人やから。
一度でも2人の想いが言葉になってしまったら、後は消えて無くなる”終わり”が来てしまうから。
照史が終わらせるはずがないのに。
どこまで不器用やねん。
真面目でストイックで冷静で頑張り屋さんのくせに、こういうとこだけは怖がりの臆病者。
怖がんな真夏。
お前の臆病なところも全部、照史はわかってる。
わかった上で、いつまでも愛でいっぱいにしてくれると思うで。






ジャニストコールが大きく響く会場裏で、髪型を整える照史と、神ちゃんと笑って話してる真夏を交互に見た。
結局俺はこうやって、黙って2人を見てることしか出来へん。
難しいこと考えるん苦手やから、俺は伝えてしまえばええって思うんやけどな。

「照史、これ置きっ放しやったで?」
「おー、ありがとう」

淳太が手渡したのは真夏のタトゥーシールで、綺麗に揃ってなくて何個かなくなってる。
真夏の名前がない。
もしかして、

「照史、真夏のシール貼ったん?」
「貼った貼った」
「え、どこに?」
「ん?ここやけど」

トントンって指で示したのは左胸で、衣装に隠れて見えることはない位置。
俺だけが知ってる、真夏の位置と同じや。
チラッと真夏が聞いてないのを確認して、照史は人差し指を立てた。

「真夏には内緒な?」
「う、うん。わかった」
「……心臓に好きな子の名前があるって、なんかドキドキするな」

やっぱり俺が思ってた通りや。
こいつは俺の親友を、愛でいっぱいにしてくれる男や。


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