終わりの日に君がいるなら



「5周年って全然実感ないねんなー。まだまだ若手やと思ってるし、もっと上に行かなあかんと思ってるし。でも年数だけが積み重なって、求められるものも変わってきて、それについていくのに必死や」

お酒を飲んだ真夏はよう喋る。
落ち着いたバーの雰囲気とは相反するくらいに饒舌で、それに比例してお酒を飲むペースも速くなる。
お酒に強いはずやのに頬が赤い。
嗜めるようにさりげなくグラスを遠ざけようとしても、その俺の手さえも無視してグラスに口をつける。

「もうやめとき」
「大丈夫やもん」
「それ。真夏はそんな子供っぽくないし。そもそも子供ちゃうし。べろべろになったら帰れへんで?」
「淳太くーん」
「俺真夏の家には入らへん。俺の家にも絶対入れん」
「ええもん。はまちゃんにお迎え頼むもん」
「はまちゃんをタクシーに使うな」
「はまちゃんは私のタクシーやもん」
「はまちゃん可哀想やな。優しいだけやのに。…あ!だから飲むなって!」

無視してまた飲みよった。
こいつ、完全におちょくっとる。
酔って口調がこんなんになるのは照史の影響やろうな。
酔って泣いてる照史とよう似てる。

「……淳太くん」
「ん?」

愚痴じゃない。
弱ってるわけでもない。
俺に相談するような悩みもない。
なのにここまで酔いたいのは、心に何か引っかかってるから。
100点目指して真っ直ぐ走れへんから。

「いつかさ、100点欲しいやん」
「そうやね」
「…100点取ったらさ、どうなるんやろうね」
「200点取るまで頑張るしかないやろ」
「じゃあ200点取ったら?1万点取ったら?100億点取れたら?…終わってまうんかな」

カウンターに伏せた目元がキラキラ光ってる。
涙な訳ない。
こんなことで真夏が泣くはずない。
キラキラは、さっきまで仕事頑張ってた証拠や。
目を閉じて、暗闇の中でなにを考えてる?
満点取ること?
その先?
どこまで行ったら満足するのか?
違う。
きっとそうじゃない。

「ジャニーズWESTって最高やなって思ってる。誰にも、どこのグループにも負けへん。1番やって思ってる。デビューした時よりも5周年よりも、来年の方がもっとずっと最高やって思ってる。どの時代のジャニーズWESTも最高やけど、今の、この瞬間が最高で、ずっとそれを更新し続けてる」
「……」
「でも、……いつか、終わるんかな」

終わる、はどんな意味?
脱退?解散?人気がなくなること?
グループが”終わる”こと?
そんな考えてもしょーもないことが、酔った真夏の頭の中をぐちゃぐちゃにかき回してる。

「……電話」
「え?」
「電話して。グループ通話!」
「え、今!?」
「今!」

突拍子も無いこと言い出したで。
早く早くって酔っ払った赤い顔で急かすから、落としそうになるスマホを慌てて掴んだ。
グループメールは昨日のんちゃんが送ったくだらない写真で終わってる。

『淳太くん?どうしたん?』

最初に出たのは照史。
前髪がへたってなってて、後ろで犬が尻尾振ってた。

『なに?グループ通話?』
『誰から?ああ、淳太かー。今ええとこやねんけど』
『あれ、真夏おるやん!なになに?2人で飲んでんの?』

M田軍団が居酒屋から繋いでくれて。

『千里眼でも持ってるん!?今ちょうど休憩入ったとこやってん!』

ドラマの現場からしげが嬉しそうに笑って。

『電話で起きたわ。今何時よ』

目擦りながら神ちゃんが少しだけ嫌そうで。
みんな忙しいのにすぐに電話に出てくれて。
それは単なる偶然かもしれへんけど、今の真夏にとってはどんな薬よりも有効で。

「ふはっ、」
「どうしたん?」
「みんなめっちゃ笑ってるやん。……私、みんな大好きやな」
「そう?」
「終わりが来てもええや」
「……」
「絶対終わらせへんし終わらせる気もないけど、もし万が一にも終わるなら、……終わりの日にみんなが一緒にいてくれるなら」
「……真夏」
「それでええや」

ふにゃっと笑った顔がテレビ電話に映ったみたいで、メンバーがなんやなんやって慌て出す。
酔ってるわって呆れる奴もおれば心配でバタバタ動き出す奴もおるけど、電話のこっち側は至って普通。
お仕事モードを完全に切って本音を吐き出した真夏は、もう一度みんなの顔を見て幸せそうに笑った。
俺らの周りの環境は目まぐるしく変わる。
俺らだって変わる。
いつ終わるかなんて誰にも分からへん。
それでも俺らは終わらせへん。
いつまでも続くように願って、走って、満点を取り続けて。
それで。
終わりの日に、1人も欠けることなく笑うんや。

「淳太くん」
「ん?」
「照史」
『真夏?どうしたん?』
「小瀧」
『なんや酔っ払い』
「しげちゃん」
『はいはーい!聞こえてまーす!』
「はまちゃん」
『はまちゃんやでー。車で来てるから迎え行こうか?』
「流星」
『なに?真夏ちゃんの声、ちゃんと聞こえてるで』
「とーもー!」
『なんで俺だけちょっと叫んでんの?』
「……本気すぎて言えへん」
「なにがやねん」
「読心術して」
「あほなこと言うな」

真夏はほんまに心の底から思うことを、上手く言葉にできへんって知ってる。
みんなのこと、世界で1番好きって知ってる。
画面越しでも声になってなくても、聞こえてんで。

「最後の1秒まで、一緒におってな」

当たり前やろ。
これからもずっとずっと、”俺ら次第や”。

backnext
▽sorairo▽TOP